次なるドキュメント

2016年夏

妻の病状は目に見えて進んでいった。

外出は儘ならず家の中でも移動はおぼつかなくなっていた。

誰かが家に居て介護しなければならない時期は直ぐそこまで来ている。

一人にしておくことは不安であった。

ひょっとしたら私の定年退職(10月一杯)を待っていたのでは遅いのかも知れない。

迫りくる妻の付き添い時期と私の仕事からの解放時期が追っ駆けっこをし始めた。

永年勤めてきた会社であったから出来れば早期退職は避けたいが何より妻の介護は優先したい。

会社に相談をしたところ、約3か月前からを休暇とし定年退職扱いとするとのこと。

そこで私は7月末から会社に籍を残したまま妻の介護に専念することとなった。

職を解かれた私の解放感は一瞬で消え去り、慣れぬ介護生活が始まった。

トイレや洗面への室内移動は手引き歩行、入浴はヘルパーさんによる介助が必要となった。

私を最も悩ましたのは食事であり、何を作ってよいものやら分からずスーパーへの買い出しの足取りは重かった。

週2回リハビリに連れていったとき私は自由になったが心中には不安が渦巻いており焦燥感のようなものに支配されていた。

何か出来ることを探してむやみに部屋を掃除したりしていた。

やりきれない心中を紛らわそうとアルコールにおぼれていった。

妻はそんな私を冷静に”観察”していた。