緩くも長い上り坂でした。
ママ・チャーリー号で通りがかった私は、
降りて押すほどの急坂ではないだろうと、
ここまでのぼって来たけどそろそろ苦しくなってきました。
のぼりきれるだろうか?
楽を選んで降りて押そうか?
と、迷い始めたとき後ろに2台の自転車が追いついてきました。
「ペチャクチャ・ペチャクチャ・・・」
女子高生のふたりは坂道に苦しんでいる様子はない。
2台並んで追い抜いていった。
ウソだろう!何故?
精一杯ペダルを漕ぎながらあっさりと抜かれてしまった私は敗北感に襲われた。
セーラー服を纏った鋼のアスリートには見えなかったよな~。
通学で何百回もこの坂道を通っているうち登り切る攻略法をマスターしたのか。
彼女たちのママチャリはギヤ比を調合したスペシャルなのか。
いや、攻略法などあり得ないし、私のチャーリー号もギヤ比に違いはないだろう。
やはり、
最も恐れていた事実が露呈しただけなのか?
鉄棒にぶら下がった私は嫌な予感の中、何十年ぶりかで懸垂をしてみたときの失望の腕力を思い出した。
衰えは感じていてもか弱き女子高生に負けるという事実はとてもいただけないのである。
そもそも負けた勝ったなんて気にしているのはこっちだけだ。
彼女たちは普通に、平然と、おまけにペチャクチャ談笑しながら、
私を抜き去っていったのだから。
彼女たちが坂道の向こう側に見えなくなってから、私は自転車を降り敗北した。
そして、
敗北の事実を自分自身の精神回路でどう消化すべきか思案した。
そうだ、
下り坂で抜き返して敗北は無かったことにしてしまおう。
そうでもしなければ惨めに過ぎるだろう。
そんな負け犬の遠吠え的手段を思いついた私は、
失望の脚力ではなく希望の重力に頼ることにした。
下り坂でおしゃべりのためスローダウン走行しているふたりを、
ノーブレーキで転がり落ちていき追いつき抜き返してやったのだ。
嗚呼、こんなことがいったい何になるというのか。
自分の精神を自ら窮地に落とし込めるだけだ。
私は自信を喪失した惨めな老人に着地するのか。
周りからも、そして自分自身からも見放されたように哀れに崩壊するのだろう。
そんなことは解りきっていた。
大人げないことをやる前から解っていた・・・。
ところが、
大人げないことはやってみるもんですな。
重力に加速させ猛スピードで追い抜きざまに、
スカートの中に隠されていた太ももと「Li-ion」と書かれた箱が見えたのですから。

 

危うく自己崩壊するところやったで~。