神宮御用材の払い下げとおぼしき檜の大木で作られた、
地元の神の子達が大勢集まっている騒々しい居酒屋でした。
渡り蟹を二匹注文すると、当家のは大きいから一匹にしときなさいと、
大きいのが皿にで~んと出てきた。
渡り蟹の♂♀は裏返した時の腹蓋の大きさで見分ける。
腹蓋の大きいのが雌、今夜は雌をいただく。
ペロンと腹蓋をめくってみると”天照大御神”と模様が読めた。
だいぶきてる。
練炭とロープと、もう一つが何だったか?・・三種の神器なんだと。
早くからやりだした私達を残して神の子達が引いていった後、
alcで意識がスローダウンしていたのと、
その種の物に知識が疎いので三つ目が何だったのか思い出せない。
それを家族に見つからぬよう家の何処かに隠しておいて、
帰ってから一人でそれを見る時が唯一安堵の時間だったそうです。
”鰯の頭も心信から”なのか。
防災グッズを押入れに準備し”安心して”災害を待つのと似ているな・・と思った。
しかし
他人から見ると、やはり鰯の頭以外の何物でもなく、
奥様が物を見つけて隠してしまったそうです。
彼はそれを返せと訴え続けてきたのですが、返して貰えないそうです。
永く鰯の頭を信仰してきた彼にとっては、その鰯こそが唯一無二の神であり、
他の鰯には御利益が無いことを知っているのです。
彼は三種の神器が戻ることを願って止まないのです。
そのような辛辣な話をしてくれた彼は、
職場に起こる様々な辛い事柄に耐えながら、
なんとかやりくりをしては凌いでいるのです。
彼の苦労を深く知り得ない私なのですが、
言えるのは、
常用しているらしきクスリには、
練炭ほどの効用を期待せぬようにということだけ。
親身になってくれる者もいる事に安心したのか、
彼は隠された三種の神器に代わる何かを見つけようと、
優しい神々を拝みにネオン街へと消えていきました。
やはり神の宿る地に生きる人は信仰心が違うものだと、
無信心者の私は感心させられること然りなのでした。