m氏が好む釣りが黒鯛釣りです。
この辺ではチヌと言います、小さいのはチン○ン・チンタ・カイズ、などとも呼びます。
素人には向かないベテラン玄人が好む魚です。
警戒心が強くて鼻先に餌が有ってもなかなか喰いつかないのです。
ハフッ、ハフッと熱い物を食べた時の様に、口の中で餌を転がして、異物が仕込まれてないか警戒します。
そのときの”あたり”と言われる、竿先に伝わる微妙な変化を読めないと釣れません。
ここぞというときに渾身の力で竿をしゃくり上げます。
初めてその動作を見る人は驚きます、船がひっくり返るほどすさまじいエネルギー放出です。
今まで眠ったように静かだった瞑想人が、突然に炸裂するのですから。
チヌのパワーは強烈です。
警戒心に応じた細いハリス(釣り糸)を使う為、釣り人とチヌの駆け引きは真剣勝負なのです。
ハリスの破断点寸前でのスリリングなやり取りになります、ハリスからキンキン音が出る程です。
名人は50cmのチヌを2号ハリス(目が弱いと見えません)で釣り上げます。
私は30cmで精一杯、右腕にプルプル震えの後遺症も出ました。
チヌとの駆け引きに勝利した場合は、
う~む、これ一枚に○△万か。と、
はまり込んだ自身の境遇を嘆いて見せて、心の中にはファンファーレを鳴り響かせます。
ばらした(逃がした)ときは苦笑いをし、先にある栄光に向けて新たな散財の誓いを立てます。
餌も色々ですが、アケミと名付けられた二枚貝を使う人が多いのです。
アケミちゃんは色々な形態で使われます。
丸貝・半貝・むき身、
固く閉じた貝に釣針を差し込むむ丸貝、
片側の貝殻を取り、柔らかい身に釣針を射す半貝、
むき身はすっぽんぽんの無防備状態、
チヌの食欲次第によって使い分けます。
喰いの激しいとき(産卵期)は丸貝のままバリバリも有るのです、
瞑想しているときはむき身にも知らんぷり。
アケミの大きさはアサリより少々大きく、殻は少々柔らかい。
さてさて
真っ当な人は知らぬ世界ですが、
好き者は自前でアケミちゃんを採ってくるのです、
市場で買うとアサリよりかなり高く、韓国産がほとんどです。
経済事情も少しは有るけれど、チヌ釣りへの情熱がそうさせるようなのです。
自分で汗して採ったアケミちゃんでやりたい・・と。
一日中砂浜で土木工事をするのです。
スコップで砂を掘り起こして採ります、積み上げた砂山に人が隠れる程にです。
チヌ釣り一回分のアケミちゃん4~5kgを採る為には、2・3日寝込む程の労力を要します。
好き者達は情報網を持ち、どの辺で良く採れるかを絶えず探っています。
上質のアケミ鉱脈が発見されると、翌日にはその辺一面に砂山のオブジェがそびえます。
m氏も昔、体力が余っていたとき”やって”いました。
m氏は仕事中にこの”労働”をやっていたのです。
業務車の荷台に有った道具で、要領よく。
社員が語った真実
「今朝サービスカーに乗ったときから臭ってたんスよ~
おれの体かな~と思って、気になってたんだけど
昼過ぎになって戻しそうになったんスよ~
こりゃ、ぜって~変だ、何かが・・”いる”
床やら荷台を探したけど死骸なんか無いんスよ~
手を拭こうと思ってウエス缶のふた開けた途端
ぎょへ~!
こっ・・これだ~
貝じゃ貝、貝が一杯、口開けてたんスよ~、ウエス缶の中で・・・」
m氏
「あっ、忘れとったわ」
ウエス缶の中のアケミちゃんは釣行2回分、大量虐殺だったそうです。
仕事中に片手間でこんな偉業をこなし、且つ・・それを忘れてしまうとは。
こんな人ですm氏。