蒼い幻影 (2015年NHK杯ショート・プログラムを振り返る) | ショピンの魚に恋して ☆羽生結弦選手に感謝を込めて☆

ショピンの魚に恋して ☆羽生結弦選手に感謝を込めて☆

清冽な雪解けの水のようにほとばしる命の煌めき・・・
至高のアスリートにしてアーティスト、
羽生結弦選手を応援しています。

2015年11月27日。長野で開催されたNHK杯男子シングル・ショート・プログラム。君の冷たく、美しいショパンのバラードに、蒼い炎が宿った。

2

 

情熱の炎を氷に閉じ込めると、このような作品になるのかもしれない。心からほとばしる激情を見事にコントロールし、少年は大人になった。

「レスブリッジの悲劇」からわずか数週間後に、このようなものを見せつけられるとは・・・。いったい誰が想像できただろう。

自ら打ち立てた世界記録を塗り替えるのは、このプログラムでなくてはならない。この日をどれほど待ちわびてきたことか、言葉では言い尽くせない。


1


静寂に包まれたアリーナ。冷ややかな風を感じながら氷の中央にすっと進んだ君は、目を閉じただけで世界を掌握してしまった。


冒頭、天から突き落とされたピアノの一音で、永遠に語り継がれる物語が始まった。

動きの一つ一つがレスブリッジからさらに研ぎ澄まされ、繊細かつ洗練されていた。にもかかわらず、大胆な力強さが潜んでいる。冷たい薄氷の壁の向こうに、めらめらと揺らぐ蒼い炎を見ているかのようだ。  
                   

1


指先から放たれるひと粒の火の粉も意のままに操りながら、炎の魔術師のように静と動を支配するスケーティング。

君のジャンプは寸分の狂いもなく音と連動し、氷刃のように現れては闇に消えてゆく。躍動感に溢れ、さらに研ぎ澄まされたステップ。

ブレードが、鍵盤の上を滑る細い指先のように音を拾ってゆく。5年に一度開催されるショパン・コンクールの覇者たちが、もしこの氷上のバラードを目にしていたならば・・・。

1


君がピアノを弾く舞台がひと月前のワルシャワでなかったことに、ほっと胸をなでおろしたことだろう。

疾風のスピンが銀盤に蒼い火花を散らす。その花びら一枚でさえ、緻密な指先にコントロールされている。高まる感情の全てが氷上に高速で集約されゆく。

最後の一音が氷に落とされた。闇を切り裂くように両腕を広げた君は、氷原に胸の火を放ち、アリーナを灼き尽くした・・・。

2


・・・君が世界に放った蒼い幻影が、今も目に焼き付いている。それがたとえ地上波を通して伝えられた映像であっても、その時間を君と共有できたことは、生涯忘れることのできない瞬間となった。

男子ショート・プログラムの世界新記録が更新された。

結弦くん、おめでとう。そして、ありがとう!


photo : http://chopincompetition2015.com/, newscom