「おやまぁ」
ティアーがついたとき本部は戦場だった。
どうやらまだ14番目は目覚めてはいないらしい。
目覚めていればAKUMAなどすぐに撤退するだろうに、と『色』のノアも撤退せざる得ないだろうに。
まぁ、目覚めていればいたで自分が一発分殴るが…。






阿鼻叫喚の中ヘブラスカは感じ取る。
クラウンの接近と新たなイノセンスを。

AKUMAはみた。
真っ赤な日傘を差して舞い降りる女神を。

そして、生きているモノは聞いた。
天使の唄を。





『お眠りなさい愛しいあなた
愛した夜にそっと目を閉じて帷に微睡みましょう
夜明けは遠く長い時の向こう側
暗闇があなたを守るから静かにお眠りなさい』
ふわりとAKUMAの前に白い女神が降り立った。
「ごきげんようAKUMA。成長おめでとうございます、かな?」
『なんだオマエ』
「私はティアー、エクソシストにしてあなたを愛するものですよ」
ほほえむティアーにAKUMAは戸惑う。
『意味が分かりません』
「そうですか。 でもあなたは愛されて生まれた、そして私はあなたを愛して愛して愛して…壊してあげる」
そして、ティアーはAKUMAに真っ赤な日傘を向ける。





「あれは、クラウンクラウン。
アレン君?」
リナリーは呆然と戦闘を見つめる。
さっきまで元帥ですら苦戦したレベル4と対等に、いや…むしろ圧倒している。
クラウンクラウンを纏った知らない少女が、みたことのないイノセンスを使い慈しむようにAKUMAを壊す。
「なんで、アレン君はまだっ」
目覚めていないのにっ…。
リナリーは叫ぶように少女とAKUMAの戦いを見つめる。





「もう、終わりにしましょうか」
『なんでオマエなんかにっ』
AKUMAは絶叫する。
そして笑う、それはそれは幸せそうに。
「サヨナラ、AKUMA」
ティアーの日傘がAKUMAを二つに引き裂いた。
『サヨナラ、ティアー』





爆発が収まり人々の視界がはれると、そこには真っ赤な日傘をくるくると舞わす少女がいた。
そしてある人物を見つけるとそれはそれは楽しそうににっこりと口の端を持ち上げて笑った。

だからもう使わない古い『殻』はくれてやった、と アレンであったものはいう。
「なるほドv」
千年伯爵は納得したのかうなずいて目の前の『彼女』を改めて見る。
昔と変わらない『彼女』は昔と同じように自分の前に平然と座りほほえみかけてくる。
「我が輩を呼んだのハ…?v」
『彼女』に壊されたであろうAKUMAが伝えてきたのはたった一言。
『アナタの娘は約束の地で待っている』
なぞめいたメッセージだった。
本来ならくる予定なんかなかった。
何の気まぐれか、訪れてみればそこには見知ったイノセンスをまとう少女がいた。
「この姿のお披露目と記憶が戻ったことのお知らせと、14番目についてはついでです」
そして、と『彼女』は続ける。
「いつものように、『名前』をくださいな」
にっこりとほほえみかけてくる『彼女』に千年伯爵もまた笑い返した。
「お前は相変わらず背信の使徒ですネv」
神にアイされながらも敵である千年伯爵に名前を授けられる行為。
『彼女』は神を愛さない。
憎みもしない蔑みもしない縋りもしない。
ただ、認識している。
『神』といわれている『モノ』のことを。
「いいでしょウv お前の名前は『ティアー』、我が輩がお前に与える名前はこれしかありませンv」
「光を生み出した女神でしたっけ。 ありがとうございます千年伯爵、これでやっと本気で戦える」
瞬間、ティアーの目の前に透明な赤い壁が出現する。
「卵は取り返しに行きまス、皆さんによろしクv」
その壁にふれる直前に千年伯爵は浮き上がり宣言する。
「お前の『フィールド(領域)』がどこまで守れるか見物でスv」





「守りましょう。
偽りの正義が真実であっても私は人間を愛してるから」
ティアーはそういうと『クラウン』を纏う。
「帰りましょうティム。今のことは削除しておいてね」
ティアーの言葉に答えるようにうなずくティムにほほえんで歩き出す。
千年伯爵が本部を壊滅させる前に間に合えばいいけど…と、少し首を傾げた。
それはある日唐突に起こった。

最初、アレンが目を覚まさないとリンクが気づいた。



それよりも数時間前
誰もが寝付いているその時間帯にことは始まっていたのだ。

アレンの監視が始まって三日目
眠りについたアレンは不意に目を覚まして口のはしをつり上げる。

音に出さずにつぶやいた言葉
「構築完了」

発動されたイノセンスがアレンの体を離れていく。
まるで何かを守るかのように窓から音もなく飛び立っていった。
金色のゴーレムをしたがえて空をかける姿は誰かみるものが居たら神をみたというかもしれない。


そして深い夜が明け
朝日が射し込み始めたとき人は最初の異変に気がついたのだった。


「アレン君が起きない?」
「そればかりかイノセンスも消えただと?」
リンクの報告を受けてコムイとクロスが眉を寄せる。
確認すれば確かに左腕はふつうの腕でイノセンスのかけらも見あたらない。
アレンを起こそうにも騒ごうが攻撃しようが殺気を向けようがまったく目覚めない。
「いったいどうしたんだろうね」
ため息をつくコムイと不機嫌なクロスにリンクは長官に報告してきますといってでていった。


その頃、ヘブラスカはある異変に気がついた。
臨界点を越えたイノセンスが再び現れたことを感じ取る。
だがそれはいつなく静かで、それでいて歓喜に満ちていた。
『イノ、セン…ス』


そしてまた別の場所。
そこに『彼女』はいた。
白銀の長い髪を風になびかせて、金のゴーレムを従えてそこに悠然と立っていた。
あたりにはAKUMAの残骸。
そんな場所に『彼女』は誰かを待っているかのようにただ佇んでいた。

「ごきげんよう」
待ち人がきたのか『彼女』は振り返って『彼』にほほえみかける。
「こんにちは」
座りませんか?と『彼女』が言えば、『彼』もうなずいていつの間にか現れていたテーブルセットに向かい合わせで腰掛ける。
「14番目が」
そう切り出した『彼女』に『彼』の眉がピクリとつり上がる。
「14番目が再び出現しましたよ」
「ならばどうしてここにお前が存在するんでス?v アレン・ウォーカー」
おまえが宿主なのにと姿を変えた『彼』、千年伯爵がいう。
「数年前、アレにメモリーを移されたせいで私は『再構成』を途中で『変換』せざる得ませんでした。
イノセンスは全て中途半端に『発動し続け』ざる得ませんでした。
だから仕方がないから新しく構成し直したんですよ。」