「では、アレン君の体に入っているのは…」
「14番目でしょうね、不純物など捨ててきましたから」





長い沈黙だった。
『なぜ、ここに来なかった』
不意に大元帥が口を開く。
『エクソシストでありながら、神の使徒でありながら貴公は教団になぜ来なかった!』
それは懇願に近い問いかけ。
ティアーは大元帥を見上げ思い出したように手を叩く。
「ああ、レイン?レインですよね?
私のかわいい教え子」
『なぜだっ』
問いかけは叫びとなって降りてくる。
ティアーはうっすら笑って口を開いた。
「なにが楽しくて、世界征服をたくらむバチカンに手を貸さないといけないんです?」
『っっっ!』
「イノセンスは天地創造の神が作りたもうたものなどではない」
「やめろっ」
ルベリエがアレンを黙らせようと手を伸ばすもソロカによって押さえつけられる。
「イノセンスとは、前文明の愚かな人が作り出した兵器。
世界を排除し、『浄化』という名の下に自らが世界を操るための手段!」
それは教団の大元帥すらしらない事実。
ほんの一握りの人間しか知らない、知られてはいけない事実。
「ノアとは人類の祖。
13使徒とは世界の真理にして鏡。
ダークマターとはイノセンスとの均衡をとるために『世界』が生んだもの」
「やめろーっ!」
ルベリエの叫びが響き渡り、全員に沈黙が訪れる。
たった一人をのぞいて。
『それでも、私ハ神と人を 信じテイル』
教団の中で唯一全てを知っていた聖女。
永い時間キューブとともにあり、いくつものイノセンスに触れたからこそ、狂わずに真実を知り、わずかに残った可能性を信じているのだろう。
「だからあなたは聖女であることができるんです」
ティアーは悲しげにつぶやく。
「真実がどうであれ狂気に引きずられたノアは倒さなければならない。
悲しみに彩られたAKUMAは救済しなくてはいけない。
全てを世界に返した後、再び歴史が繰り返されればそのときは…」
ティアーはため息とともに吐き出す。
人類は今度こそ、原始に還るだけだと。





「このことは他のエクソシストをはじめ、誰にもいってはいけません。
知って結果戦えないとなれば本末転倒ですからね」


「私の扱うイノセンスは全部で3つ。
クラウンクラウン(神の道化)、フィールド(領域)、ブラッディエンペラー(血塗れの皇帝)」
ティアーはまるで歌うように続ける。





先ほども言ったように、私は不定期に体を再構成します。
そしてあの時、まさに再構成が始まり幼児になったときアイツは私に無理矢理メモリーを植え付けた。
体に、脳に植え付けられた異物のせいで私は再構成を変換せざる得なかった。
成長を止め、性別すら『変換』した。
強制変換と異物のせいで記憶すら曖昧になった」
「じゃあ、なにかね?君はクローンでも作って意志を移したとでも?」
ルベリエが興味深そうに聞いてくる。
ティアーは少し考えてうなずいた。
「そう考えていいでしょう。
体内で新しい器を作りだし幼児の状態から殻を捨て一気に成長するというくりかえしです」
まぁ、女ならではですね。
「14番目のメモリーを植え付けられたせいで性別すら変えた理由は?」
「アレが男だったからですよ。あまりにも強いメモリーに体が引きずられたんです。
私自信の記憶がふっとんだ影響か、クラウンクラウン以外は体内に深く眠りにつきました、ヘブラスカが気がつかなかったのはフィールドがあって気配をたっていたんでしょう」
「記憶がないのに再構成は実行されるものなのかね?」
「私が覚えてなくても、イノセンスは覚えてる」
「イノセンスによって再構成がおこなわれたと?」
ルベリエの目が鈍く光ったのをみてティアーは口の端をつり上げて笑う。
「いったでしょう?私の再構成はイノセンスの作用だと。
私の意志なんか関係ないんですよ、全ては神のご意志」
皮肉げに笑うティアーをルベリエは睨みつける。
彼女の目が語っていた。
愚かな人間とは根源が違うのだと。
「じゃぁ、アレン君は男性体なのにどこで今の肉体を再構成したというんだい?」
ふとコムイが疑問を口にする。
男性体に子宮など存在しない、ならばどうやって彼女は生まれたというのだろう?
「いい質問ですコムイさん。
男性体であった今回、私は再構成ではなく『構成した』んです」
そのせいで数年の月日が掛かりました。ため息混じりにいうティアーに全員が絶句した。
「だからアレンの体はそのまま残ってるのか。
おそらく構成物質を外に出しそこで構成した」
「正解ですよ、師匠」
「なにバカ面してるんです?」
「あ゛?」
「あれ?私のこと忘れちゃいましたか?」
当然クロスにはクスクス笑う少女に覚えは全くない。
いや、あった。
「まさか馬鹿弟子か?」
「正解です」
ティアーの言葉に周囲がざわりと波打つ。
クロスの弟子たるアレンはいまだ眠りから目覚めていない。
ましてやイノセンスを失っていたはずだ。
「アレン君?」
「あらコムイさん、顔色がよくないですね」
「なにがどうなっていやがる」
クロスの地を這うような声にすら楽しげにティアーは笑う。
「説明しますよ。元帥と大元帥、中央の方々とコムイさんそしてヘブラスカにだけね」
にっこりとほほえむティアーにコムイはうなずいた。





「ごきげんよう、聖女様」
『オマエが新たなエクソシスト』
「新たなというのには語弊がありますね」
ティアーはクスクス笑う。
そして集まった面々の中でクロスの横に立つと真っ赤な日傘を一回くるりと回した。
集まった全員を包む赤い壁。
それはもはや結界のようだった。
「何のつもりかね?」
ルベリエがにらんでくるのに対してティアーは余裕の笑みを返す。
「あら、そこらへんの出歯亀に聞かれて困るのはそちらでしょう?
イノセンスとバチカンの真実を子供たちが知ったらショックでイノセンスを扱えなくなりますよ」
クスクス笑うティアーにルベリエは苦虫を噛み潰したような顔をする。
「アレ「ティアーですよ、師匠。大切なかたからいただいた名前ですから間違えちゃダメですよ」
少し背伸びをしてクロスの唇に人差し指を当てる。
誰にも見えないようにクロスにだけささやいた唇は静かに、と動いた。
「ちっ」
舌打ちを了承とうけとるとティアーはルベリエに向き直る。
「さて、なにから話し始めましょうか?」
ティアーはクスクス笑う。
それは余裕なのか哀れみなのか。





長い話になりますよ。
そう前置きしてティアーは話し始める。





「今から数年前、14番目にメモリーを植え付けられるよりもずっと前から教団に属さないエクソシストとして私はAKUMAを壊してきました。
扱うイノセンスの作用か、私は老いることはありません…、というよりも不定期に再構成を行いこの状態にリセットされるというべきですね」