「で、なんでここにいやがる」
クロスは目の前で優雅にイチゴを食べるティアーに疲れたようにいう。
「だって~、14番目とは面会禁止って言われるし~、外を歩けばうざったい視線がまとわりついてくるし~」
だる~と、ティアーは答える。
心なしか態度までだらけたような気がする。

あの後ティアーは監視はつくものも14番目との接触以外行動に制限は特になく、クロスも監視は相変わらずだが同じく14番目との接触と本部を許可なく出てはいけない以外制限はなかった。
というか、監視はあそこにいた全員についているのだがそれはまぁティアーにとってどうでもいいことだった。

あてがわれた部屋にいたらいたでブックマンやらリナリーやらラビやらがおしかけてくる。
クロスの部屋ならばおいしいモノも食べられるし、クロスを怖がってそうそう誰も来ないし万々歳だ。
監視さえ気にしなければここはティアーにとって快適な場所であった。

「ってわけだからここにいます」
「意味わかんねーんだよ馬鹿弟子がっ」
クロスはティムにイチゴを食べさせて喜んでいるティアーにいらつきながらワインをのどに流し込む。
部屋にきてもティアーはクロスにかまうことなく過ごす。
時にティムを構い、時に監視をいたわり、時に来訪する元帥やらと談話する。
(この俺を差し置いていい度胸じゃねーか)
構われないということは実際ないのだが、というかだいぶクロスの相手をしているのだがどうやら足りないらしい。
「おい」
「いい加減飲みすぎですよ」
そういいながらも空いたグラスにワインを注ぐティアーにクロスは鼻で笑うだけで答える。
ティアーはクロスのこういう変わらないところが落ち着くなぁと思ってたりするのだがあえて言わない。
ぶっちゃけ、静かさを求めるならヘブラスカのところにいけばいいし、むしろ監視を撒いて本部から逃げ出せばいい話しなのであって、わざわざクロスの部屋に来ることはない。
理由を付けてここにきているのはただクロスのそばにいたいからだ。
もちろんそんなことクロスには言わないが。
「私ってどうしようもない人に弱いのかな?」
「あ゛?」
「なんでもありませ~ん」
ティアーは久しくなかったトキメキに胸を躍らせるのであった。




夜が明け、眠れぬ夜を過ごしたリナリーたちの前にコムイたちが帰ってくる。
真実は多い隠し、都合のいい事実を伝える。
「じゃあアレン君の体を14番目のノアがのっとったことに反応したイノセンスがアレン君を分離させたってことなの?」
「そうなるね」
リナリーとラビは納得行かないような顔をしている。
「じゃあなんで女になったんさ?なんで教団の外に脱出したんさ?アレンが使うイノセンスが増えたのは何でさ?」
「それはっ…」
いえば真実に近づいてしまうのではないかとコムイはいいよどむ。
彼らは知るべきではない、まだ知ってはいけないといいわけを考えるコムイの後ろから救いの声がした。
「一つ目、もともとは女性体だったのが14番目のメモリーに引きずられて男性ホルモンが活性化されて男性的に成長したんですよ。
二つ目、気がついたら外だったんです。イノセンスが少しでも14番目と私をはなしたかったのかもしれませんね。詳細はわかりません、なんせ自分の意志じゃなかったので。
三つ目、これも気がついたらありました。クラウンクラウンも寄生ではなく結晶型になってますし、まったくもって謎だらけですね」
まるで用意していたかのように、いや 用意していたのだろう彼らに知らせるべき事実をスラスラとティアーは答える。
「あと、『アレン』は私の名前ではありません。
どうか『ティアー』と呼んでください。
私が大切な方につけていただいた名前です」
畳みかけるように言えばリナリーは呆然とうなずく。
ラビはまだ納得が言っていないようだが仕方がない。
コムイはそっと息をつく。
ティアーはもはや自分の知るアレンとかけ離れてしまったかとおもっていたが、本質は変わっていないのだと安心をする。
同時に思う、どれだけの枷をこの少女は背負っているのだろうと。
「ともかくっティアー君になっちゃったけど彼女はまぎれもない今まで通りの仲間だ!」
少し強引かともおもったがこのぐらいの強引さは許されるだろう。
「そうよね、ちょっと変わっちゃったけど何も変わってないのよね」
「……だな」
どこか安心するリナリーとまだ納得行かないものもリナリーに話を合わせるラビや、ほかのエクソシストをみてコムイは人知れずいきをついた。

「ではなぜ我々にいう?」
ティエドールはどこか確かめるようにいう。
その瞳をみるに答えはわかっているのだろう。
「今、ここに居る人々は、真実を知ってもすすみ続けるでしょうから。
でなければ臨界点を越えることはできません」
コムイさんとルベリエ長官は知らなければならないら、エクソシストを導くものとして、バチカンの手先として。




ティアーの言葉に大元帥と元帥たちがうなずき、コムイも決意を新たにする。
だがルベリエはティアーをにらみ続けたままだった。
暴いてはいけない真実を暴いたティアーこそ、彼にとって悪魔そのものだから。
「安心してください。
私はバチカンに手を貸さないだけで敵対している訳じゃありません。
今まで通りAKUMAは壊しますし、あなた方の邪魔はしませんよ」
ティアーは微笑む。
そして悲しげ眉を寄せる。
(あなた方が第二の狂った神にならない限りは、ね)





どれほどの時間がたったのだろう。
ルベリエが目を閉じる。
「その言葉に偽りはないのだな」
「ええ」
「ならば、よかろう。
くれぐれも我々の邪魔はしないでくれたまえ」





そして、教団の長い夜が明けた。





誰もいないフィールドの中、ティアーとヘブラスカが対峙する。
そこにあったのはまるで儀式のような緊張と恭しさを含んだ静寂だった。
「………イノセンスの再製は進んでいるのですね」
『ああ、お前ノハートがある限リ イノセンスは何度デもよみがえる』
「彼らに嘘をつきましたね。
4つめのイノセンスハートのことをあかしませんでした」
ティアーは自らの胸を押さえる。
そこに埋まっているのはもはや心臓ではない。
イノセンスの核にして鍵たるハート。
始まりにして終わりのハート。
「神がおわす領域につながる鍵を守りし血濡れた道化たる女帝。
その名をティアー、世界の光を生み出した女神。
……よくいったものです」
『神へ続く道を歩きしモノを裁定する番人たる聖女ヘブラスカ、どちらがより愚かナノだロウ』
「決まっていますよ」
『ソウだナ』
ティアーは自嘲気味にいう。
どちらも同じぐらいに愚かだと。
神に愛され楽園にとらわれながらも神を愛さない娘と、楽園に入ることを許されなくとも神を愛し続ける娘。
「どちらも救われないほどに愚かですよ」