目が覚めるとティアーは考え込む。
千年伯爵やロードにはああは言ったものも、本当にどうしたらいいのかわからないのだ。
終わりが来るまで換われずに生きていく自分と、変わっていくクロス。
今はそばにいることができても、すぐに別れなくてはいけなくなるかもしれない。
告白したところで、所詮永遠の愛など誓えない。
では、一時の快楽を楽しむ?
また再構成が始まれば繋がった証すらなくなるけれど…。
「虚しいなぁ」
永い時間を生きてきた、これからも生き続けるかもしれない。
ティアーにとっては『今』がいいのだ、『今の状態』が歯がゆくも愛しい。
嬉しかった、クロスが自分を変わらず弟子と扱ってくれるのが。
嬉しかったのだ、受け入れてくれたことが。
だから、告げることができない真実に苦しむ。
自分とヘブラスカ、そして千年伯爵が互いに口に出すことすら禁じている真実。
結晶型となり、ブレスレットになっている3つのイノセンスを撫でる。
「願わくば今代でこの愚かしき戦いに終止符がうたれますように」
祈るようにつぶやいたティアーの声にイノセンスは鈍く輝くだけであった。





その日、ティアーはクロスの部屋へは行かず監視官を外に追い出し自室に鍵をかけて引きこもっていた。
誰がきても追い返すように監視官にいってあるせいか誰も来ない。
静かな部屋に降り出した雨の音が沈み込んでいく。
ハートがティアーに訴えてくる。
イノセンスを手に入れろと、適合者を探し出せと。
今まで幾人のエクソシストを育てただろう?幾人の子供たちを死に追いやっただろう?
どれほどの人を神に差し出したのだろう?

そういえば、と思い出す。
レインと名を付けた最後の教え子はいまだ健在だった。
今はいくつになっただろう?
生き残っていることにおもわず笑みが浮かぶ。
あの子に授けたイノセンスはちゃんとあの子を守ってくれたようだ。





「っ!!」
思い出に浸っているときに唐突に『感知』した。
雨に紛れるようにして誕生したAKUMAを。
見えもしない映像が目の前でブレる。
(ああ、また愛ゆえに人は罪を重ねる)
静かに瞼を閉じて、ティアーは涙を流す。
愛されて誕生するAKUMAに、愛するが故にAKUMAを誕生させてしまう人に。

『だから、私が愛して愛して…愛して、壊してあげる』


「どこもかしこも認めませン!v」
「はぁ?!そんなこと千年伯爵に言われる筋合いありませんねっ」
「女ったらしで酒浸りであげくにエクソシスト、なにが楽しくてかわいいティアーを嫁にやらないといけないんですカ!v」

「なんか話し飛んでるし」
思わず突っ込むロードだが二人は聞いちゃいない。

「あんなに頭が良くていい男なんて早々いるもんですかっ!」
「ティアー目を覚ましなさイv
あんなのは所詮やりたい盛りの獣でスv」
「獣結構!手なづけてやりますよっ」
「エクソシストごときにティアーが手をつけられるなんておとーさんは耐えられませンv」
おいおいと泣き出した千年伯爵にティアーとロードは呆れたように視線を投げつける。

「なに泣いてるんでしか、いい年のおっさんが」
「酷イv」
「千年公ってば結局誰が相手でも認めないじゃん」
数百年前もそれで大喧嘩して国一つ滅ぼしてたような? とロードは首を傾げる。
おいおいと泣き続ける千年伯爵に嫌気がさしたのか、ティアーは夢から覚めるべく月を見上げた。
「とにかく!私は師匠が好きなんですから邪魔しないでくださいね!」
相談して時間の無駄だったとぶつぶつ言いながら消えるティアーを見送ってロードは千年伯爵を振り返る。
「認めないったら認めませンv
トコトン邪魔してやりまスv」
不気味笑って小躍りまでする千年伯爵にロードは若干ひきつりながら思う。
「毎回こうなるんだからティアもいちいち言わなきゃいいのに」
それでも相談というなの報告をかかさないのは愛情の表現なのかもしれない。
これからの戦いが世界をかけたものじゃなくただ単に親子喧嘩になりそうで、それはそれでおもしろそうだとかおもったりしたがあえてなにも言わなかった。

「戦場でかえって愛が強くなるとか、あったりしてね~」
きゃははっと笑いながらロードたちも現実へと戻っていった。


崩れた神殿が沈む湖が三日月を映し出す場所にティアーはいた。
「ってわけなんですけど、どうおもいます?」
「ってわけといわれても意味が分かりませンv」
ティアーが呼んでるからとロードに(ほぼ強制的に)つれてこられた場所で当の本人は眉を寄せていた。
「ああ、やっぱり千年伯爵なんかにきいても無駄ですか?
枯れちゃったおっさんには無理難題ですか?」
「なんかわかりませんが酷イv」
ティアーのあんまりないいようにショックを受ける千年伯爵の横でロードは大爆笑する。
「きゃははっティアってば相変わらずだね~」
「だってロード、娘の気持ちもくみ取れなくなったら父親として終わってる気がしない?むしろおわってるよね」
「確かにー(笑)」
「確かにじゃありませンv
いったいなんだっていうんでス?v
我が輩たちは一応敵同士のはずでスv」
「敵同士だろうと名付け親でしょう?
父親でしょう?
だったら娘の気持ちの一つや二つ汲み取って恋愛相談ぐらいのってください」
父親といわれて喜ぶも恋愛相談と言われて途端に千年伯爵は不機嫌になる。
なにが楽しくてかわいい名付け子の恋愛相談なんぞ聞かなければならないのだろう。
そんな千年伯爵の気持ちを知ってか知らずさティアーはかわいらしく頬を染めながら続ける。
「こんな風に誰かにトキメクなんてあんまりにも久しぶり何で、どうしたらいいのか思い出せないんですよ。
とりあえず何だかんだ理由をつけてそばにいるんですけどね」
「ティアってばかっわいい~v」
盛り上がる少女二人の横でこめかみをひきつらせていく千年伯爵。
「やっぱり告白じゃない?
むしろ襲っちゃうとか!」
「いや~、逆に教われそうよ?そんなことしたら」
「いいじゃんいいじゃん!既成事実だよ~」
「なるほど」
中身と実年齢がかけ離れている少女二人の会話に青筋が浮かびまくりの千年伯爵。
「はぁ、師匠が気づいてくれたららくなのに」
「あ~、クロスって意外に鈍いの?」
「そんなことはないとおも……。どうしました千年伯爵?」ティアーとロードが振り返ればそこには今にも血管をぶちぎりそうな千年伯爵の姿。
「クロスなんておとーさんは許しませン!v」
「なっ!師匠のどこがだめだって言うんです!」
ぶちぎれる千年伯爵にティアーもまたぶちぎれた。


「二人とも沸点ひっく」