のろ猫プーデルのひゃっぺん飯  おかわりっ!! -15ページ目

のろ猫プーデルのひゃっぺん飯  おかわりっ!!

飛びすさって行くような毎日の覚え書き。
私はここにいます、の印。

一年以上前から私はあるソシャゲにはまっている。色合わせのパズルゲームで連鎖することで敵を攻撃する。

パズドラに似ているが、対象年齢はぐっと上である。

ある時、普通に一人で遊んでいたところゲーム画面に「同盟が君を呼んでいる!」と出てきた。「今すぐ参加を!」とボタンが現れたのでポチると、いつの間にか同盟なるものの一員となっていた。

どうやらその同盟のメンバーと力を合わせてモンスターをやっつけたり、別の同盟(日本にとどまらずアメリカ、アラブ、ロシア、ウクライナ、スペイン、英国などなど世界中に同盟がある)と戦争したりするらしい。

同盟の仲間は全部で30人ほど。名前も仕事も住んでいる場所も知らないまま私たちは戦友となって戦い、チャットで会話を交わした。

ちょうど去年の夏ごろからだ。

ブログに書いたがその頃、私の精神状態は非常に悪かった。不安神経症になり、薬を飲みながら暑さと闘っていたころだった。

そんな中でこのチャットは楽しかった。どうでもいい話題に心が安らいだ。

 

主におしゃべりするのはおっとりした性格のリーダー、音楽好きのAさん、同盟を強くしようと頑張るBさん、イタイおやじギャグを飛ばすCさん、そして私であった。

リーダー「みんなどの辺に住んでいるの?」

私「私は東京です。毎日暑くて死んでます」

Aさん「私は東北ですよ」

リーダー「僕も東北」

私「だったら自然がいっぱいですね。羨ましいなぁ」

リーダー「自然ならいっぱいある。自然だらけwww」

私「いいなぁ、行きたいなぁ」

Aさん「私は昔、東京に住んでいたことがあります。高円寺。きっと変わっちゃっただろうなぁ」

そんなユルイ会話が続く。

 

Bさん「リーダー、実は僕の前の奥さんがこのゲームの熟練者としてランキングしているんですが、同盟を強くする方法を教えてくれました」

リーダー「奥さんランキングしているの? すごいね」

Bさん「彼女が言うにはパズルのやり方に一定の法則があるらしくて……」

リーダー「そうなんだ! いろいろ教えてくれてありがとう。いろんなやり方をして少しずつこの同盟も強くなっていけるといいね」

Bさん「その内、また彼女に聞いていきます。僕はこの同盟が好きなんです。リーダー、この同盟を作ってくれてありがとう! 仲間のみなさんもありがとう!」

なんだか西川きよしみたいな人だなぁ、と私は思った。

ただ、たまにBさん(きよし)の熱量は空回りする。ある時「強いメンバーは戦争の時に自分と同等か強い敵に立ち向かって行くべきです! 自分より格下の敵とばかり戦わず!」とぶち上げて、ムカついたらしいメンバーが「どうも僕はやり方を間違っていたようです。皆さん、ご迷惑をかけました。さようなら」と同盟を去って行ったことがある。

「迷惑なんかかけてないのに」とリーダーは寂しそうで、Bさんは「僕の言い方がよくなかったかもしれません」と、これ以降しばらく寡黙であった。

 

そんな風に人員の入れ替わりがあるので同盟は常に一定の人数ではない。少なくなってくると掲示板にメンバー募集の張り紙を貼る。それは主にCさんの担当であった。

Cさん「リーダー、そろそろ掲示板にメンバー募集貼ってきましょうか」

リーダー「いつもCさん、ありがとう!」

Cさん「ガッテン承知! バッテン荒川 いってきまーす!」

リーダー「www Cさん、おもしろすぎ! バッテン荒川、だれ⁈ww」

Cさんのギャグに私が笑うことはまずなかったが、彼が仕入れる情報には助けられた。

穏やかないい同盟だった。

一か月前、その同盟を私は去った。

 

私が辞める少し前、女の子が新しく同盟に参加してきた。

チャットの文面でしか相手を推し量る術はないのだが、おそらく年齢は20代、社会人とは異なるフンワリした雰囲気が漂っていた。素直で明るい子だった。幼い印象でも礼儀もちゃんと心得ていて、教えてもらったことに対する感謝は必ず返してくれた。仮にD子ちゃんとしておこう。

D子ちゃんが入ってしばらくするとまた一人女の子が入って来た。D子ちゃんの職場の先輩らしい。印象は30代前半といったところか。たまに書き込む文面は事務的でそっけなく、絵文字を多用するD子ちゃんとは対照的だった。

間もなくその二人が一気に爆発した。

ある時ゲームを開いてチャットルームに50以上の新着が届いていることを知った。あんまり活発ではないチャットルームにそんなにたくさんの文言が届いていること自体異常だった。

何事だろう、と開けて私は目を瞠った。

女子二人による乱痴気騒ぎだった。

二人は酔っぱらっているらしい。

遡って読んで、正直、ドン引いた。

彼女たちの職場とは風俗のことだった。AVにも出ているらしい。現場でのエロエピソードが短い言葉のやりとりで語られていた。

いや職業が問題なのではない。下ネタが問題なのではない。私はそんなことで引いたりはしない。

ただ酔っぱらって話す彼女たちの話題はあまりにもあけすけ過ぎるのだ。性を職業にするうちに彼女たちが気がつかない内に失ったものがあるのを感じた。それは多分、自分の身体や性をモノとしか捉えられなくなってしまった「感覚」だ。彼女たちの中にある「なげやり」な感じに私は引いていたのだ。

時間を見るとふたりは短いやりとりで一時間以上会話している。

途中、メンバーが「この会話、まじめなBさんが見たらどうするかなぁ」と遠回しに諭したが

「大丈夫。Bさんもカモーーン」

「私たちがいいとこ連れて行ってあげる www」

と二人は意に介さない。

こういう雰囲気は私は苦手だ。

このままこのテのやりとりがこの同盟の普通になってしまうのは不快だ。とはいえ「そういう会話はやめようよ」とも言いずらい。

それとも世間はこういうものなのだろうか。こういう会話は一般的なのか。私は娘にスマホを見せた。

スマホを読んでいる娘のそばに腰を下ろして私は話した。

「もう私も還暦過ぎたんだし『キャッ‼』と顔を覆うわけではないんだよ。でも下ネタってこういうことじゃないと思う。私の思う下ネタっていうのはおばあちゃんの『ムラサキカタキン』とかそういう奴なんだよ。昔、おばあちゃんに聞いた話、あんた聞いたことない? おばあちゃんの女学校時代の友達のサキサンがさ、ある時おばあちゃんに相談してきたんだって。自分の彼氏の金玉が片方だけ紫色なんだけど、何だと思う? ってさ。それでおばあちゃんは『それやったらムラサキカタキンやね』って答えたの。そうしたらある時、おばあちゃんとおじいちゃん、サキサンとムラサキカタキンで喫茶店でお茶してた時よ。いきなりサキサンがブッと噴き出してさ、ゲラゲラ笑うんだって。『何なのよ、サキサン』っておばあちゃんが聞いたら、サキサンが彼氏に『アイコったら、あんたのことムラサキカタキンって呼ぶねんよ』って。あんな参ったことないっておばあちゃん言ってたわ。みんなキョトンとしてたってさ。それが私の好む下ネタだね」

「一体、何十年前の話だよ。ムラサキカタキン、もう死んでるよ。本名も忘れられたまま」

 そう言いながら娘は私にスマホを返した。

「これは確かにひどいね。同盟、やめてもいい案件だと思う」

 やっぱりそうか、と部屋を出る私に「それとムラサキカタキンは下ネタ以前にサキサンが変人すぎるって話だよね」と娘は言った。

 

私は同盟をやめた。

後ろ髪をひかれる思いだったが「わぁ、盛り上がってますね。おばちゃんにはちょっとハードル高いです。修行の旅に出ようと思います。今までありがとうございました。みなさんお元気で」と書いて離脱した。

ニ三日してして同盟を見てみると件の女子二人の名前がなくなっていた。

ちょっと心が痛んだ。

さらに一か月後に何があったのかAさん、Bさん、Cさんの名前がなくなって、知らない人が入っていた。何があったんだろう。Bさんなんかあんなにリーダーを慕っていたのに。

穏やかなリーダーを思うと少し心が痛んだがネットの世界なんてこんなものなのかもしれない。

 

下ネタは難しい。

下品であるがゆえに絶対に笑えるものでなければいけない。

面白い下ネタは実は高等技術なのだ。