今年は北海道に行かないことが決定した。もう母の体力では長距離移動は無理なのだ。それは去年からある程度は覚悟していたのだが、ここにきてのコロナ騒動で100%確実になった。もう母が北海道を訪れることはないだろう。

もっともかの地の母の知り合いもほとんど鬼籍に入ってしまったので

「行ったところで誰もおらんしね」

と母は淡々としている。

残っているのはよろず屋のアベさんくらいだ。そのアベさんも85を過ぎてぼんやりと商いをしている。年老いた牛のような店だ。眠っているかと思えば、時折尻尾を振ってハエを追うので「ああ、起きているのか」と知る。そんな印象の店なのだ。

「もう店じまいかな」と思うと、お盆の団子なんかを売っている。ミネラルウォーターを買いに行くと「もう置いてないんだ」、でもかろうじてオロナミンCはある。数年前はまだ雑誌コーナーにエロ雑誌が並んでいた。が、去年はマガジンラックがいよいよこんな様相になって悲しくなった。




アベさんの事務所にはかつて仲間と写した写真が額に入って飾ってある。「佐藤愛子の北海道の仲間たち」ということで雑誌に載った一枚だ。漁師仲間四人とアベさんとでジンギスカン鍋を囲んでいる。写真のアベさんは髪は黒々、顔は真ん丸でパンパンにはちきっている。今は髪も眉毛もすっかり白くなり、丸顔もしなびてアンコの抜けた大福みたいだ。

私は写真を眺めるたび、遠い昔に思いを馳せる。幽霊騒動がひどかった時代だ。けれど生きていた人間は母を含め、エネルギッシュでイキイキしていた。イキイキと怖がり、ワァワァと元気よく騒いだ。

なつかしい。「怖さ」よりも「なつかしさ」が勝るから人生とは面白いものだ。


ま、滞在しないとはいえ、そんな感じでかの地は因縁が深いから毎夏、毎冬、龍神さんにお参りしなくてはならない。そうして土地を鎮めるのだ。夫が師事しているご住職より作法と手順も授かっている。

母は無理でも、私は夫と二人、二泊三日ぐらいで別荘に行くつもりであった。そのため飛行機と地元のビジネスホテルを予約した。(別荘に行くとはいえ泊まることはできない。別荘に泊まるには水道のモーターを再起動させて水を上げ、鬱蒼と茂った夏草の刈り取り、虫だらけの家の掃除をしなければならない)


予定は8月16日、お昼の便だ。ところが予約をした翌日、住職から夫に電話が入った。

「別荘に行くんだって? 」

と、私も夫も誰にも話していないのに住職はご存じで

「今年は来なくていいってよ」

そう教えて下さった。

聞けば前の晩にかの地の龍神さんがメッセージを伝えに住職の元に現れたのだという。メッセージというのは次のようなものだ。

「こちらに来るのはよくない。罹患の危険性がある。その上、地元民も東京モンに気が立っているから例年のようには歓迎しないだろう」

そりゃそうだ。東京モンの私自身、都民がよその土地に出かける話を聞くたびに「それっていいのか?」と訝っていた。

北海道に行ったら龍神さんのお参りだけしてさっさと立ち去るつもりだったが、それを察した龍神さんが自ら止めにいらしたのだ。

ありがたいなぁ。

心の中で一生懸命にお祈りしよう。


というわけでずっとStay Homeだ。

何をしているかといえば収穫したトマトのスケッチなんかしている。

トマトは毎年、浦河のパン屋さんで買う「ぷちぷよ」というミニトマトだ。今年はパン屋さんに行けないことを見越してベランダで栽培していたのだが、これが本当に甘い!! 皮が分厚いのがミニトマトの特徴だが、このぷちぷよはまるでサクランボかブドウのように薄いのだ。

ベランダの家庭菜園でさえも甘く育つから、「トマトづくりでもしてみようかしら」とお考えの方はぜひ来年あたりトライしていただきたい!



「プレバト」という番組の中で色鉛筆画の採点があるのだが、見ている内に自分でもやってみたくなってきたのだ。

いろんな色を重ねて実物に近い色を探すのが楽しい。

野菜の「赤」は下に「緑」や「黄色」が隠れているんだなぁ、と研究していく。次第に「色」の中に植物の成長過程が潜んでいることを発見した。


大体、私はすぐに影響を受けるタチなのだ。プレバトで俳句をやれば指を折り折り一句ひねり始める。

「母さんが早速影響受けて俳句作ってる~」

とか娘に指摘されるとシャクなので見えないテーブルの下なんかで隠れて指を折っている。


雨あがる

ボロ屋の樋の

青葉かな


最近作った句だ。

「物置小屋の樋に積もった枯葉を土台に青々とした若葉が芽生えていたのを詠んだ句です。雨の後の曇天に鮮やかな緑が美しかったのを表現しました」

とテレビに出ていたら説明しているところだ。

「才能アリです!」

言われたいなぁ。


それにしてもなんて私は単純なんだろう。

自分でもびっくりしたのは映画「ジュラシックパーク」だ。「ジュラシックパーク」を見ている内に、孫が生まれたら恐竜展に連れて行ってやりたい、という気持ちがフツフツと湧いてきたのだ。

恐竜展では孫の気に入った恐竜のフィギュアを一個買ってやろう。

帰りの電車の中で孫は靴を脱ぎ、座席に膝をついて窓に向かうに違いない。窓のヘリに沿って恐竜を歩かせながら孫は言う。

「おばあちゃん、恐竜の名前十個言える?」

そうだ! きっとそう聞いてくるに違いない!

というわけで私はその日の為に恐竜の名前を十個暗記しています。

孫、いないけど。

それ以前に、娘、結婚していないけど。


そんなStay Homeだ。