週間予報では水曜日はずっと晴れの筈だった。
安心し切っていた。
しかし火曜日の夕方に家に帰ると、父が「明日、雨だな」と言った。
「え、そうなの?」
急いで天気を検索すると、確かに傘マークがついてる。
低気圧が張り出しているらしい。
先週までそんな話は無かったのに。
雨のゴルフは嫌だなあ。
10ヶ月ぶりにコースに出る父にとっては、僕以上に恨めしい空模様だろうなあ。
そう思いながら僕は飲み会に出掛けた。
翌朝、二日酔いの頭を振りながらカーテンを開けた。
予報通りの細かい雨が、庭の新緑を濡らしていた。
ふと見ると、隣の家の濡縁にクラブが3本立て掛けてある。
父が昨日、久し振りに庭で素振りをしたんだろう。
僕は顔を洗った。
軽い朝食をとって、着替えて出掛けた。
出発までの時間は短かったが、練習場で少し打ってから行こうと決めたのだ。
僕の運転で妙高へ向かった。
助手席で父が
「南葉山が見えてるから晴れてきそうだけどなあ。」
と呟いた。
水口君のセブンで2人分のドリンクを買った。
ゴルフ場に着くと、佐藤社長ご夫妻が出迎えてくれた。
去年大きな手術をした佐藤社長は、すっかり元気になられたようで安心した。
以前と変わらぬ挨拶や冗談が、僕たちの間を往き来した。
キャディバッグの中から出したそれぞれの雨合羽を着て、4人はインのスタートホールへ向かった。
10番のティショットはまずまずだった。
いつもながら朝一番のショットが当たるとほっとする。
セカンドはグリーン手前の花道に運んだが、次のランニング・アプローチはグリーン奥にこぼれた。
「あー、雨だし上りだし、強めに打ったんだけどなあ。」
「強すぎるんだよー。」
佐藤社長が笑った。
奥のラフからの返しの第4打、5メートルの下りのスライス。
パターで打つと僕のボールは緩やかにど真ん中からカップに吸い込まれた。
チップ・イン・パー。
「なんだよそれー。」
佐藤社長が、今度は呆れて叫んだ。
その後は僕にツキが来たらしかった。
12番のロングは3オン1パットのバーディ。
次の左ドッグのミドルでは、ドライバー・ショットが綺麗なドローが掛かってバンカーを超えていく。
残り130ヤードを9番で打つと、ボールは低い弾道でピン奥に落ちて、スピンで戻った。
その頃には雨も上がり、雨合羽は不要になっていた。
午前中は望外の43、パットなどは打てば入る感じでなんと11パットだった。
(午後は神通力が落ちて49の18パットだったのだが)
しかしこの日のハイライトは14番のパー5だった。
父が残り70ヤードから放った第4打は、優雅な放物線を描いてピン手前2メートルに落下、そのまま転がってフラッグの根元に消えた。
なんとチップ・イン・バーディ!
本人も僕らもひっくり返らんばかりに驚いた。
神様も粋なことするもんだ。
馬鹿ヅキ親子に当てられて、佐藤社長はすっかり調子を崩した様だった。
スコアは本人も忘れたんじゃないだろうか。
しかし久し振りにゲラゲラと笑いながらラウンドできたのは嬉しかった。
佐藤社長が楽しみにしていた桜は盛りが過ぎていたが、散ったばかりの花びらが、ラフのグリーンに美しい小紋を染めていた。
雨上がりの青空と雲も、池に映えて油絵のようだった。