『鳩の撃退法 上』 佐藤正午 著 | 今日もこむらがえり - 本と映画とお楽しみの記録 -

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備忘録としての読書日記。主に小説がメインです。その他、見た映画や美術展に関するメモなど。

 

 

友人から面白かった、と聞き図書館で借りてみました。初読み作家さんです。その友人が「面白かったけれど読むのが大変だった。文字量が多くて頭の中で追いつくのが大変だった」と言っていた理由は、実際に読み始めて納得。

 

頁数が多いとか、長い文章がぎっしりだとか、そういうことではなく・・・なんというか情報量が物凄い、といいますか。頭の中の想念をそのまま全部文字におこしました、という感じで、ひとつのことに対して3倍(3通り)くらいの情報がのっかっているし、あっちにいったりこっちにいったり、過去未来現在もいったりきたり・・・脳が受け止めなきゃいけない情報量がものすごく多いのです。文章自体は難しいことはなくスラスラ読めてしまうので余計にドバドバドバーって留めなく流れ込んでくる文字情報たちを、能が処理するのがとても忙しい。なるほど、こういう意味ね。これはちょっと、初めての体験かもしれません。

 

でも、確かに面白いのです。なんだろう、何が起こってるんだろう、どういう小説なんだろう、と次から次へと気になって、早く先へ先へと読み進めていきたくなります。上巻の1/3を超えても未だに何も起こらない、いや色々起っているのですが、つまり具体的にどういう事件が起こっているのか、今読んでいるものはいったいどういう情報なのか、がまださっぱり見えてこないのですが。いや、だからこそ余計に先へ先へとさらに突き進んでいきたくなってしまいます。これ、まんまと作者の戦略にハマってるパターン?(笑)

 

昔は直木賞を2回も受賞して本も10冊出版したそこそこ有名な小説家だったのに今はすっかり落ちぶれて、根無し草で女性の部屋に転がり込んで居候してお小遣い稼ぎにデリヘル「女優倶楽部」の専属ドライバーとして働く、ザ・依存系ダメ男な津田伸一。主に彼が物語の主体にあり、彼の回想や彼が実体験に基づいて書いている小説、という体で構成されている、おそらく(なにせ上巻読了してもまだ物語のほんの玄関先くらいしか見えていないので^^;)ミステリー小説。

 

1/3を超えても何が起こっているのかよくわからない、と先に書きましたが、わからないながらも取りあえず何かが起っていることだけは、わかっています。例えば、とある3人家族がある日揃って姿を消した「神隠し」事件。同じ町では若い郵便局員も行方不明になっています。「女優倶楽部」のコンパニオンの1人もやがて姿を消します。その町のよそ者である津田伸一の数少ない知人である、古本屋主人の房州老人、彼は2年の間に亡くなったらしいこと。町には裏社会を仕切っているような、関ったらヤバい存在の人がいるらしいこと。津田伸一の行きつけのドーナツショップの女性店員。偽札事件。

 

そのうち、どっかであの人とあの人が繋がっていたんだ、とか、あの時の場面での会話に出ていた人物は実はこの人と同一人物だったんだ、とか思いがけない関係性もちょっとづつ見え隠れしまうが。しかしまだまだ、いったい何がどうしてどうなったのか?上巻のラストスパートでようやくいくつかの事件の繋がりぽいものが見えてきて、特にラストは不倫愛ストーリー的な展開になり、おや、ここからいよいよ物語風に突入か?という予感。

 

・・・の、予感を、思った通り下巻の最初でまた一度肩透かしくらうのですがね(笑)。佐藤正午さんの頭の中っていったいどうなってるんだろう?!ピーターパンやモームの引用や、往年の女優たちの名前や、怪しげな人たちや、普通に見える人たちや、色んなものがいっぱい、いっぱい、箱が締まらない程にめいっぱい詰め込んでギュっとして、てんでバラバラに飛び散りそうで何気にバランスよくまとまってる、魔法のおもちゃ箱のような小説。今までに体験したことのない感覚。下巻がどういう展開になって、物語はどこへ終着するのか。気になってしかたがありません( *´艸`)。