職員室で先生に囲まれた中、一芝居を打ったその日の夜。

練習を終えて帰宅した私は、事に備えてある準備をしておりました。

何の準備かというと・・・、それはまた後ほど。


そして翌日の野球部の練習。

思いの他急な事の運びに私は少々驚きました。

ユニホームに着替えた部員が揃い、ウォーミングアップのジョギングをしていると

いつものようにグランドに現れたジャイ。

しかし、いつもと違ったのは

その横に部長である、英語の鍋田先生が一緒だったこと。


鍋田先生は、言わば名前だけ形だけの部長という感じで部員ですら時折その存在を忘れがちな程でして。

40代半ばで普段から物腰が柔らかい鍋田先生は

今まで練習など一度も見に来られたこともなかったですし、

体育会系の部活動の担当としてはおおよそ適正ではないといった雰囲気。


そんな鍋田先生の突然の登場に部員たちは驚いた表情を見せますが、

その中で何ともいえない複雑な表情を見せていたのは、ジャイでございました。


恐らく、前日の私の話を受けてジャイは他の先生方に何らかの事情聴取を受けたのでございましょう。

ジャイがその場で、自分の不利になるような発言をしたとは思えませんが、

何せ就任してからすでに二人の退部者を出したという事実がございます。

とりあえず、野球部の現状を知るために部長の鍋田先生を偵察役に、という流れは安易に推測できました。


そして、ジャイという男がこれがまた想像以上に単細胞な男でございまして。

お目付け役がいるということで、理不尽な態度は綺麗さっぱり封印。

前回の大会後に、自分に対して服従の姿勢を崩し始めた2、3年生を虐げるという

前日までの練習とはうって変わって、今までのレギュラーを主導とした流れで練習メニューを指示し、

驚くことに、私までもがレギュラー組と同等の扱いに復活するといった分かりやすい手のひらの返しよう。

当然、ちょっとしたミスやジャイのさじ加減で課されていた懲罰もなし!

バッティング練習やノックの際には


「おお、今のはいいスイングじゃったのぉ。」


とか、


「ナイスプレイじゃぁ!!」


などという、今まで聞いたことこがなかったような賛辞の声をあげ

それどころか、あいまあいまに世間話などを振ってきて

これでもかと言わんばかりに部員との和気藹々ぶりを演じあげる始末。

事情を知らない私以外の部員たちは、戸惑うばかりでございました。


しかし、これはもちろんジャイが改心したという訳ではなく、

ジャイからすれば、しばらくこらえていればお目付け役もいなくなり

また自分の好きなように出来るだろうというぐらいのものだったと思いますし、

私にしてもそれは承知の上で、ここまではある程度想定内。


私の狙いはもうちょっと違う所にあったのですが・・・、

これがまた、この後自分でもびっくりするくらいハマリまくることになるのでございます。


 

                                            (つづく)



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