失敗するヘッドハンティング | 小さい会社にしかできない労務管理のことを話そう

小さい会社にしかできない労務管理のことを話そう

労働エッセイストの松井一恵です。小さい会社には小さい会社にしかできない労務管理の方法があります。
丸17年社会保険労務士として生きてきて、みんなに知ってほしいこと、未来に残したいことを書き残そうと思います。

ヘッドハンティングってけっこうむずかしいんですよね。

「すごい人採用するんです、元○○自動車の方で、定年退職されたんですけど60歳いうたらまだお若いし、うちの経営の建て直しならこの人しか居ないと思うんです」

有料職業紹介を受けられるそうです。なんでも、テレビにも取り上げられたことのある方なのだそうです。紹介料は150万円+消費税。月給50万円、年収600万円を出すのだそうです。「これで、うちも大企業並みといきたいところですわ」と社長はいたってご機嫌でございます。

 

でも、松井は失敗するなぁと思います。

理由は3つあります。

 

1)社風に合わない可能性が高いです。

要するに「カサ高い」おじさんが会社に入ってくるのです。

大企業でそれなりに長く勤めておられたら、それなりに仕事で業績も上げてこられたことでしょう。しかし、そのやり方が、必ずしうちの会社で通用するとは限りません。成功体験が邪魔になることがあります。「○○自動車ではこうしていた」「○○自動車のやり方が正しい」と頑なになればなるほど、社内で浮きます。

社長も「大企業並みに」と○○自動車のやり方に同調すれば、ますます他の社員が能力を出せなくなります。10,000人の会社で能力を発揮できない人が1人いれば、1/10,000の力で下に引っ張られるだけですが、10人の会社では、1/10の力で会社全体が下に引っ張られるのです。面接のとき、よくよく因果を含めといてくださいね。

 

2)60歳では、時間が少なすぎます。

何歳まで働かせるか、また、何歳まで働けるつもりなのかわかりませんが、仮に5年程度であれば、年30万円の紹介料がかかるということです。60歳は残り時間が少なすぎます。紹介料は通常3ヶ月程度継続勤務をした場合、全額紹介会社のものとなる場合が多く、そこまでお金をかけるならせめて40代の人でないと高すぎます。紹介料150万円でも20年稼動なら1年当たり7.5万円。このぐらいの金額が妥当なのではないかなぁと思います。ちなみに、社会保険料の事業主負担は年収の約15%かかります。大きな紹介料を払ってる場合か、ということです。もっと若くていい人、探しませんか。

 

3)前職で再雇用されなかった理由があるはずです。

大企業で、普通に60歳まで勤めておられたら、何らかの形で再雇用制度が入っているはずなのです。そこに残らずに、よそに再就職をするには、それなりの理由があるはずです。そして、それはあまりいいことではない可能性が高いです。せめて、その理由は確認しておかなければなりません。社長のほうも、「せっかく大企業の人をとるんだし、その人の人脈を利用して、販路拡大とか受注増があるのでは」と下心がムラムラかもしれませんが、私の経験上、その期待は十中八九打ち砕かれます。社内の人間関係がうまくいってれば残留しますよ。社外の人脈は「○○自動車の看板」があればこそですから、おいしい話なんて出てきません。ムラムラはむりむりですわ。

 

ということで、このあたりを踏まえて、再考していただくようにいたしました。

ヘッドハンティング、思ったより難しいものなんですよ。気をつけてくださいね。