用美道 | 小さい会社にしかできない労務管理のことを話そう

小さい会社にしかできない労務管理のことを話そう

労働エッセイストの松井一恵です。小さい会社には小さい会社にしかできない労務管理の方法があります。
丸17年社会保険労務士として生きてきて、みんなに知ってほしいこと、未来に残したいことを書き残そうと思います。



「用美道」という言葉があります。
武道家の方はご存じかもしれません。
用 実用に足る
美 無駄を削いで美しい
道 使う人間の覚悟と勇気
武道の三要素なのだそうです。

会社の労務管理にも通じます。

「用」
実用的でなければなりません。たとえば、もうお忘れかも知れませんが、「プレミアムフライデー」は定着しませんでした。月末の週末は世間では大抵普段より忙しいのです。2時間早く帰りましょうと言われても、逆ですよねって話です。
定着したのは「クールビズ」です。本当の目的は省エネだったかもしれませんが、みんな常々思っていたのです。「くそ暑いときにネクタイと背広は嫌だな。よし、みんなで、いっせいのせでやめよう」というのは、実用にかなってたということです。実用に足らない仕組みは作ってみても自然に淘汰されます。現場に寄り添って考えた仕組みなら、今までの常識からはずれた制度でも定着します。何かを変えるときは、「用」を意識しましょう。

「美」
良くできた制度・運用は美しいです。
先日、ある会社の組織図を拝見したら、女性職員は全員「課長補佐」となっています。
課長補佐に部下はいるのですか、とお尋ねしましたら、
「居ません」
ときっぱり言われました。どの課長を補佐しているのですか、とお尋ねしましたら、
「決まってません」
これまたきっぱり言われました。松井、心の声は→だったら、ヒラなのでは?
別に法律には反していなくても、シンプルにすれば美しくなるのにな、と思います。
「伊藤課長補佐」「柳井課長補佐」と呼び会うのも、大変そうでした。
良くできた組織図、良くできた賃金体系、良くできたシフト表は美しいです。
「調整手当」「特別手当」連発の賃金台帳、「ただし、」連発の就業規則は「美」を基準にシンプルにしてみてはどうでしょう。

「道」
就業規則も制度も使う人の胆力が試されるものです。
ある介護サービス(仮)の会社で、ヘルパーが利用者さんのお金を盗むという事件が起きました。就業規則に従えば、懲戒解雇です。しかし、そのヘルパーは理事長が声をかけて、よその会社から引き抜いてきた人だったのです。額が少額だったこともあり、理事長は悩みました。悩んだ末、配置転換とシフト時間を減らすことで、済ませてしまいました。そして、何が起こったのか?
ヘルパーのほとんどが退職していきました。
そういうエコヒイキは、なんとなく知れるものです。もちろん、「エコヒイキだから、
退職します」と社員は言いませんが、不公平は人を遠ざけます。
「泣いて馬謖を斬る」といいますが、勇気と覚悟をもって、運用することが肝要です。
「道」は胆力であり、まさに次への道でもあるのです。次世代にまで残す覚悟、勇気が必要です。


私は全く武道を知りませんが、
会社の労務管理を考えるとき、「用美道」を基準軸にしています。
何かあったら、この軸に戻ってきてください。
きっと解決の近道になります。