「初音さん、今のカフェの企画の仕事。楽しいですか?」
真緒がふいにそう訊いてきた。
「えっ、」
思わず言葉に詰まった。
「あたしはすごく楽しいし毎日充実してます。この仕事で結果出してこれからもこういう仕事やれるようになりたい!とかまではまだ思えないんですけど。」
初音は湯飲みに両手を当てて温めた。
「楽しい、です。本当に。」
そう言ってふと微笑んだ。
「・・よかった。全然楽しくない、いやいややってますって言われたらどうしようって思ってたから、」
明るく笑う彼女に
「そんなことないですって、」
初音も笑ってしまった。
「・・貧乏性なんですかね。仕事を楽しいって思うことが贅沢な気がして、」
そしてポツリと言った。
ドアの外で聴いていた天音は思わず拳を握ってしまった。
「自分の人生なんだから。楽しくしてもいいはずなのに。あ、楽しいって思ってしまったってすごい罪悪感を感じてしまう。」
何もかも完璧に思えた初音がそんな闇を抱えていることが真緒には意外だった。
楽しいって思ってもええやん
天音はそんな簡単な言葉で兄の『枷』は外れないことを悟った。
両親が離婚してからずっとずっと自分の気持ちを封印して。
それがずっと続いて。
一度高野で仕事して結果残しても
楽しい
と思った自分を責めて、丹波に戻って。
黙々と農業と役所の仕事を続けた。
翌朝。
「あ、おはようございます、」
一度南たちの住居の自分の部屋に戻った天音は朝7時ごろもう一度階下の会長宅を訪ねた。
真緒がリビングで朝食を摂っていた。
「昨日、すみませんでした。飲みすぎちゃって、」
苦笑いでぺこんと頭を下げると
「ああ。だいじょぶだった?もー全然起きないから、」
真緒は笑った。
「で。兄ちゃんは朝一番の新幹線で帰ることになったので。みなさんにご挨拶できなくて。よろしく言ってました、」
「あ・・そうなんだ、」
一瞬彼女が寂しそうな顔をしたのを天音は見逃さなかった。
「・・会長ご夫妻にもご挨拶できなくてすみません、」
「ああいいのよ。最近あの二人起きるの遅いし。」
すぐにいつもの彼女に戻った。
天音は少し考えたあと
「・・地元で初もうで行った時。会っちゃったんですよ、」
思わせぶりに振ってみた。
「え?」
「兄ちゃんの・・高校時代の元カノに。」
明らかに真緒の表情が再び止まった。
我慢できなくなった天音は真緒に初音の元カノの話をわざとします・・
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