途中、小和とも別れ
「んじゃタクシーで帰ろかな。ナル、途中まで乗ってく?」
さくらは成に声をかけた。
「会社もち?」
「・・あたしの! ポケットマネーです! そうそう経費無駄遣いできませんから!」
成は笑って手を上げてタクシーを止めた。
「・・おまえ、変わったよな。」
成は外の景色を見ながらぽつりと言った。
「え?」
「前は。 あんま人のこととか考えなかったっていうか。」
「なにそれ、」
さくらは鼻で笑った。
「すごく懐が深くなったっていうのかな。 まあ・・激しさは相変わらずだけど、」
「人間。 環境とか・・出逢う人によって変わるよね。 それは思う。 設楽さんと別れて。 奏と知り合って。・・うん、たくさんのことが変わったかな。 耕平さんと出会って結婚して。 子供もできて、」
さくらはお腹を撫でた。
「だからね。 カジも変われると思うんだ。 人とコミュニケーション取りずらいってのは変わらないのかもしれないけど、彼の周りの人たちは変わる。だからね、きっと変われる。」
「ん・・」
成は肘をついてずっと窓の外を見たままだった。
「ナルだって。 結婚して変わったんじゃない?」
話を振ると、笑って
「や、おれは。 変わんないと思うよ。 たぶん設楽さんの所にいたおれと今のおれ。 変わってないと思わない?」
ようやくさくらを見た。
「まあ・・確かにね・・」
「でも。 彼女と出逢ったことで・・ これからの人生何を思って生きるかは変わったかもね・・」
「え?」
「・・彼女ねえ。 ガンを患ってたんだよ、」
成は何でもないようにあっさりとそう言った。
さくらは驚いて目を見張った。
「もう6年前、だけどね。 若年性の乳がんで。 左胸を全摘出してる、」
いつもの軽い調子で言う成の気持ちがわからなかった。
「おれの産みの母親も同じ病気で亡くなってる。 びっくりした、」
ふっと笑った。
「6年経過して今は半年に一度の検査で経過見てるけど。 ガンに『全快』はなかなか難しいからね。 彼女自身もそういう身体になっていつ再発するかわからない自分は一生結婚なんかしないって思ってたんだって。」
「・・じゃあ・・ナルはそれわかってて・・」
さくらはようやく言葉が出た。
「うん。 おれだって明日死んじゃうかもしれない。 人の命なんかさ、わかんねえじゃん。 それ怖がってたらなんもできない。いつまでなのかわからないけど・・生きてる間は二人でいたいって。 それだけじゃない? 彼女から『命』をつきつけられて、初めて死んだ母親の気持ちとか。遺された家族の思いとか。ようやくこの年になってやっと気づいた。 彼女と出会わなかったら一生そんなこと思わなかったよ。」
成はまた窓の外の流れる景色に目をやった。
加治木の過去を知り成はさくらに妻の柚の病気のことを打ち明けます…
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