「大成功だね、」
控室で支度をしていた奏にフェルナンドが訪ねてきた。
「フェルナンド先生、」
奏は上着のボタンを慌てて閉めた。
「・・素晴らしかったよ。 あの神宮寺さんに一歩も引けをとらなかった。 ともすれば彼女の伴奏者になってしまいそうなところ。 存在感もあったし。」
「ありがとうございます、」
奏は嬉しそうに頷いた。
「志藤さんはきみの経験が少ないことを気にしていたけれど。 でも。 それを超えるものがあるよ。」
「いえ、まだまだです、」
恥ずかしそうに俯く彼に
「・・さっきまで舞台に出ていた人と別人みたいだね。 普通の高校生なんだね、」
フェルナンドはふっと笑った。
「全然普通です。 たぶん普段はどこにいるかわかんないくらい、地味です。」
奏は苦笑いをした。
「6月の試験。 楽しみにしている。 正直・・フローリツドルフは大学生くらいの年齢の子たちが多くて。 きみくらいの子はピアノ科でもほんの2~3人。 クライン先生のところよりも、若干厳しいかもしれないけど。 頑張れば年齢なんか関係ないから。 以前ショパコンの選考委員をやっていた先生も数人いるし、コンテスタントを指導していた先生もいる。 環境は申し分ないと思うよ、」
「はい、」
奏はウィーンへの留学を決意してからは、全く迷いなくこれから展開していく自分の運命が楽しみで仕方なかった。
「え・・留学?」
佑真とファミレスに入ったひなたはアイスティーをストローで無意味につついていた。
「6月にその試験受けに行くみたいなんだけど。 ・・パパや先生の話では、たぶん行くことになるだろうって。」
いつも元気の塊の彼女が腑抜けになってる理由がわかった。
「どのくらい、行くの?」
「わかんない。 ・・カナはー・・『ショパンコンクール』っていうすっごいコンクール目指してるんだって。 それって5年に1回しかなくって。 5年後に来るらしいんだけど。 それ狙ってるんだって、 だから・・まあ、少なくともそこまでは帰ってこないよね・・」
「え、そんな?」
佑真は驚いた。
「わかんないけど・・」
ひなたは窓の外の雑踏をぼんやりと見た。
「ウィーンは私も年に3か月くらいは行くから、連絡するわ。 住むところはどうするの?」
奏はその後、綾とフェルナンドと志藤とさくらとともにホテルのレストランで食事を採った。
「ホント、まだ決まっていないので。 ただ、去年の短期留学の時は真尋さんのところでお世話になったんですけど、できれば一人暮らしをしたいかなって思ってます、」
奏は静かにそう言った。
「そうね。 大変でしょうけど。 学生専用のアパートメントもあるし、できれば言葉を早く習得するためにもそういう所の方がいいわ。 良かったら知り合いに聞いてみるわよ、」
とにかくこの公演での練習が厳しかった綾だったが
公演が成功に終わって、打って変わってご機嫌モードだった。
「神宮寺先生がついていてくれたら安心だな、」
志藤も笑った。
さくらはやや引きつった笑いを浮かべた。
一方、奏は順風満帆です。 みんなに囲まれての食事ですが・・
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