「お金・・」
ひなたは思わず繰り返した。
「藝高は国立だから、私学の音大より遥かに授業料安いし、頑張れば藝大への道も開けるかもしれない。 だから、」
奏は頬杖をついた。
彼の家はずっとお母さんと二人暮らし。
いわゆる母子家庭なので、お金のことを考えたりするのも普通なのかもしれないのだが。
ひなたはとある疑問を彼にぶつけた。
「・・設楽さんが、息子って認めてくれたんだよね・・? んで、いろいろ助けてくれるとかって、」
以前、志藤から聞いたことを思い出した。
「・・この前、お母さんが設楽さんと電話をしてるの聞いちゃってさ、」
「え?」
「なんかおれの進学のことについて話しててさ。 どうやら設楽さんが学費を全面的に負担してくれるって言ってくれてるみたいで。」
「やっぱり、そうなんだ・・」
「でも。 お母さんが、『大学までは私が責任を持って出します。卒業後はあなたの力を借りることがあるかもしれないけれど』って言ってたんだ、」
「えー? そうなのー?」
「本当の所はわかんないけど、お母さんの性格すると全面的に僕のことを設楽さんに頼るのがイヤなんじゃないかって、」
奏は宙を仰いだ。
「イヤって・・」
「だってさ。 15年間もずうううっと子供のことを言わないで黙ってたんだよ? いくらだってカミングアウトするチャンスあったんじゃないかと思うんだ。 でも、一人で産んで育てるって決めたからには絶対に頼らないって決めてたとおもう、」
確かに。
もちろんまだまだ母親の気持ちどわかるほど大人になっていないひなたでも、たった一人で奏を産み育てていた奏の母のスゴさはわかる。
「もう、『意地』なんじゃない?」
奏はふっと笑った。
「意地?」
「何が何でも・・おれを自分の手で育てるってのが。 ピアノの先生の仕事だって、そんなに稼げるわけじゃないし、贅沢も全くしないで質素に生きて来て。 まさか・・おれがピアノをやっていきたいって真剣に考えてるとか・・まあ、あんまり思ってなかっただろうから今まではそれでもよかったんだろうけど。
れがピアノを真剣にやりたいって言ったから。 ・・金銭的には大変になって行くだけだよ、」
おんなじ14歳だろうか。
ひなたは奏のあまりのしっかり者さに魂が抜かれそうだった。
「・・でも。 子供がやりたいって思うことは絶対にやらせるって・・・そう思ってくれているんだと思う。」
高遠くんのお母さんって
すごく大変な思いしてきただろうけど
幸せだなあ・・
こんなに子供が自分の気持ちをわかってくれていて。
もう
奏が自分と違いすぎて途方に暮れた。
「だから。 その夢もかなえられて、お母さんにも負担をかけない方法は・・・藝高に入ることだなって思った、」
ニッコリ笑う彼にそのまま吸いこまれそうだった。
ひなたがあまりに抜け殻になっているので
「どした?」
奏は怪訝な顔で彼女の顔を覗き込む。
「・・ごめん、おなかいっぱい・・・」
本当にそういう気持ちだった。
「え? おなかいっぱいなの? これ、残り食べていいの?」
奏は勝手に解釈してまだ3個残っていた彼女のたこ焼きをひょいひょいと食べてしまった。
あ・・・・
そうじゃなくて。
と思ったものの
もうそう言うことさえもどうでもよくなって
そのまま彼がおいしそうに食べるのを見るだけだった。
きちんと母親の負担まで考えて進路を決めようとしている奏の姿にひなたは軽いショックを覚えて・・
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