Liebesträume(13) | My sweet home ~恋のカタチ。

My sweet home ~恋のカタチ。

せつなくてあったかい。
そんなラブストーリーがいっぱいの小説書いてます(^^)

一気に3曲弾いて

 

初めて真尋は息をついた。

 

 

 

「・・ウィーンの。 あの小さなピアノバーで弾いていた頃は。 おれもへったクソで。 だけどおれのピアノでみんなが喜んでくれるのが嬉しくて。 それだけで弾いてた。 今、こうしてピアノを仕事できてるのは・・そのころの気持ちが今も忘れられないからだ、と思ってる。」

 

 

 

 

小さな店なので

 

 

 

真尋の吐息まで聞こえてきた。

 

 

 

「ほんと、この年になるまで『誰かのために』だなんて思って一度もピアノなんか弾いてこなかった。 自分が好きだから。 ただ好きだってだけでここまで来て。 今日、どうしても・・もう一度Balladeみたいなとこでピアノを弾きたいと思う自分にちょっとびっくりってゆーか、」

 

 

 

 

少し苦笑いを浮かべた。

 

 

 

 

そして

 

 

 

前に座っている設楽に目をやった。

 

 

 

「記憶って。 音に残るんだなって。 ほんとにそう思う、」

 

 

 

 

そして

 

 

 

 

そっと鍵盤に指を落とした。

 

 

 

 

リストの『愛の夢第三番』。

 

 

 

 

この曲と言えばいまや真尋の名前が出るほどの十八番。

 

 

 

 

奏は息をするのも忘れたかのように口をきゅっと結んで目を見開いたままでいた。

 

 

 

そして

 

 

愛の夢が始まったとたん

 

 

となりのひなたの手をぎゅっと握りしめた。

 

 

 

え・・・

 

 

 

 

驚いてひなたは一瞬隣の彼を見やったが、ずっと前を見据えたままだった。

 

 

 

もう夢中になっていて

 

 

いきなり手を繋いできたことも、ひょっとしてわかってないかもしれない

 

 

そう思ったらふふっと笑みがこぼれて

 

 

その手をそっと握り返した。

 

 

あたたかくて

 

 

大きな手。

 

 

ひなたはそおっと頭を彼にもたれかけた。

 

 

 

あのときとかわらない

 

 

 

 

絵梨沙は自然と涙がこぼれた。

 

 

 

みんなは彼が成長したと言うけれど

 

 

私にとってはずっとあのころのまま。

 

 

 

普段はとっても理解できないくらいの人間性の持ち主でも

 

 

 

この音だけは

 

 

かわらず胸を打ち続ける。

 

 

 

隣に座る竜生は膝の上に握り拳をのせたまま

 

 

 

まんじりともせず

 

 

父親のピアノを聴き入る。

 

 

 

あのころに戻りたい

 

 

 

 

とは思わないけれど

 

 

 

こうしてお金や名誉のためじゃないピアノを弾く真尋のそばにいつまでも寄り添っていたいと

 

 

そう思う。

 

 

全ては15年前のウィーンの小さなピアノバーから。 そこにいるみんながそれぞれの思いを抱いて…

 

 


人気ブログランキングへ  

↑↑↑↑↑↑

 

読んで頂いてありがとうございました。

ポチっ!わんわん お願いします!