「おめでとう。 よかったわね、」
梓は奏を出迎えた。
「ありがと。 ぜんぜん緊張しなかった。 いつもとおんなじだったよ、」
奏は屈託なく笑った。
「・・もっと早く。 こうしてあげてたらよかった、」
梓はポツリと言った。
奏はそんな母の気持ちを汲むように
「今で良かったんだよ。 ウン、おれは今で良かったと思う。」
精いっぱいの笑顔を返した。
「あ、いたいた。」
志藤は二人を見つけて手を振った。
「すみません、遅くなって。」
奏と梓は申し訳なさそうに一礼した。
「いやいや。 けっこう取材とかあるやろ?」
「びっくりしました。 ぼくなんかのとこまでくるなんて、」
奏は苦笑いをした。
「このたびは。 本当にありがとうございました。」
梓は改めて志藤に深々とお辞儀をした。
奏も慌ててまた頭を下げた。
「・・おれは別に。 何もしてないし。 全てはお母さんの決心と・・きみのピアノをやろうという気持ちやったと思うよ、」
志藤は謙遜でも何でもなくそう思っていた。
「でも。 沢藤先生のような方に教えて頂けるようになったのも・・志藤さんのおかげですから。」
梓は静かにそう言った。
「それはたまたま知り合いでしたから。 何ていうかなあ。 こういう運って確かに人の手引きみたいなモンあると思うけど、やっぱり自分がどれだけ引っ張ってこれるかやと思うよ。 いろいろあったかもしれへんけど、これからは自分の力で精いっぱい頑張ってな、」
奏は神妙に頷いた後、志藤の影に控え目に立っていたひなたを見た。
「ほんと。 志藤さんに会えて、運命が変わった気がするよ。」
そう言うと
「・・この間っから。 そればっか、」
ひなたは恥ずかしそうに少し顔を赤らめた。
そしてさっきから言いようのない胸の苦しさを感じていた。
きっと。
いつか本当にあたしの知らない世界に行ってしまうんだろうな
そう思わずにいられない。
ひなたは自分の気持ちをグッと抑えつけた。
そこに
「あ、志藤さん。」
絵梨沙が現れて驚く。
「あれ? エリちゃんも来てたの?」
「えー・・。 まあ、」
絵梨沙は苦笑いをして後ろのソファに不機嫌そうに座っている竜生をちらっと見た。
「ああ、そっか。 竜生も小学生の部に出たんやったな。」
「3位、だったんです。 それでもう、あんなに落ち込んじゃって。」
志藤はクスっと笑ってそっと竜生に近づいた。
ひなたは奏が手の届かないところに行ってしまった気がしています。そして竜生も…
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