なんか違うな、
と思い始めてから毎日毎日、自分のピアノの変化を感じ取っていた。
毎日どのくらいピアノを弾いているのか、もう記憶がなくなりそうだった。
曲を仕上げながらも、毎日30分はシェーンベルグの作った指の運動のための楽譜を弾き込んだ。
何も考えなくても
指がどんどん動く。
自分の意識の外で
旋律が完成されていく。
コンクールまであと1週間。
そのころ
NYの絵梨沙は。
「いちいち気にするもんじゃないよ。 いろんなことを言う人はいる。」
「・・わかってる、」
絵梨沙は雑誌をバサっと置いた。
あのコンサートの批評はNYではまっぷたつに別れていた。
彼女の美貌とその華やかさを賞賛する一方。
『見た目に惑わされる』
『評価に値しないレベル。 この程度のピアニストなら星の数ほどいる。』
『人形のように感情のないピアノ』
批判もあった。
彼女はやはり実力よりも見た目で注目されることが多く、そんな彼女の上辺しか見ていない評論家から先入観できちんとピアノを聴いてもらえてないようでもあった。
絵梨沙は
世界の舞台に出れば出るほど自信を失っていった。
真尋・・・
ペンダントにつけたあの指輪を握り締めた。
ウイーンにいた4年間は
あなたがいたから私はやってこれたのね。
ひとりになった私には何の力も魅力もなくて。
全身を寂しさが包んだ。
・・会いたい・・・
一人の部屋で毎日のように涙した。
真尋は目の前のコンクールにむけて必死だった。
本番が近づくと、シェーンベルグのスタジオで夜通しピアノを弾いたりしていた。
絵梨沙の寂しさを知らずに。
「もういいの?」
「うん・・なんかあんまり食欲ない、」
絵梨沙は忙しい毎日を過ごしていたが、それと比例するように疲労が見えるようになっていた。
食欲もなく、痩せてしまったようだった。
「一度病院で診てもらおうか、」
父の言葉に
「平気よ。 そんなんじゃないし、」
父に心配をかけまいと笑顔を作った。
しかし。
絵梨沙の心が決定的に折れてしまう事件が起きてしまった。
絵梨沙は夢だったピアニスト生活に疲れています・・・
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