それから色々日本であったようで、彼から契約を承諾した、と電話をもらったのは
3日ほど経ってからだったと思う。
私が思っていたよりも早くそのようなことになったので、意外だった。
「真太郎がさ。 土下座してくんだもん。 キタネーよな。 おれなんかどうなるのかもわかんねーのに。」
「だけど。 お兄さんの気持ちが通じたってことでしょう?」
「まー・・・。 悔しいけどな。 あいつに使われてたまるかって思うけど。 こんな日が来るとは思わなかったなって、」
「え?」
「おれと真太郎はずっと正反対の人生を歩いて行くと思っていたから。 同じ目標に向かって仕事をしたりする日が来るなんて・・・ほんと思えなかったから。 なんだかちょっと不思議な気がして、」
彼らしい感想に
「真尋の才能は。 誰よりもお兄さんやお父さんがわかっているわ。 心配することないわよ。」
私は微笑ましくてフッと笑ってしまった。
たぶんお兄さんとすごいケンカもしてしまったんだろう。
でも
彼は基本、家族のことは大事に思っているとわかっていたから
解決はすると思っていた。
あまり深く考えないタチの彼は北都と契約することがどうなることなのか、までは思っておらずに単純にお兄さんの手助けをするくらいのつもりだったのだろう。
その後、私も初めて日本での仕事をこなしたり、少しはプロっぽくなっていったのだが
彼は相変わらず自由にバーのアルバイトを続けていた。
そして
その後、真尋は志藤さんと出会う。
そこから
まるでジェットコースターのように彼の運命が動いていった。
志藤さんはクラシック事業部の責任者で、サラリーマンではあるが
国立の音大の指揮科を出るほど音楽のことは専門家と言ってもいいくらいの人だった。
その人が
真尋の眠っていた『欲望』を引き出してくれたのかもしれない。
北都フィルのデビューコンサートのピアノコンチェルトのソリストに抜擢された真尋は長い休みになると日本へ行った。
このころには『Ballade』にはほとんど行けなくなって、彼のピアノを聴けなくなった人達はとても寂しがった。
学校の成績も実技以外は丸っきりダメだった彼にとって
本当に大変だったと思う。
北都フィルのデビューコンサートで、真尋の名前は日本中に広がっていく。
志藤さんは私と共に真尋のプロデュースに一生懸命になってくれて、彼も徐々に仕事が増えた。
そろそろCDデビューかなんて話にもなり
真尋は本当に順調にピアノを続けた。
忙しかったけど
私たちの気持ちは離れることはなかった。
共に過ごせる時は片時も離れず、私は益々彼への愛情と
そして
『依存』
を深めてしまったのかもしれない。
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「え~? なに? 桜井先生来たの??」
真尋が久しぶりに帰国したのは、桜井先生がやってきてから1週間後のことだった。
初めて柊と対面して、ベビーベッドで手を動かす彼をあやしていた。
「そうなの。 もうお義母さんたちも懐かしがっちゃって。 お義兄さんや志藤さんもいらして・・・すごく楽しかった、」
私は彼の荷物を少し整理しながら言った。
「なんだよ、いきなり・・・。 おれがいるときに来ればいいものを、」
「真尋の子供のころの話も聞いたわ。 すっごくおもしろかった、」
「おもしろがんなよ・・・。 フツーだろ?」
「話をしているうちにね。 なんだか・・・ウイーンでのこと思い出しちゃって、」
私はふっと微笑んだ。
「ウイーン?」
「音楽院に留学したてのころ。 いろいろあったなーって、」
思い出すともう洪水のように次から次へと溢れてきた。
「・・まあ・・楽しかったな。 いろいろ。」
真尋も思い出して笑った。
「いつか。 子供たちを連れてウイーンに行きたいな。 まだフランツの店はあるかしら、」
「もうあの場所にはないんだけどね。 もちょっと田舎の方で頑張ってるよ。 ちょっと前に行ってきた。」
「がむしゃら・・だったわね。 お互い、」
私は彼を見てニッコリ笑った。
「おれは絵梨沙を落とすのに必死だったけどな、」
真尋は相変わらずだった。
私たちのそれからは
まだ山あり谷ありで
結婚をするまでも大変なことがたくさんあった。
結婚をしてからもまだ大変だった。
「・・そうだな。 そんで・・・いつか絵梨沙とウイーンで二人のピアノコンサート、開きたいな。」
真尋のその言葉が
私にとってなにより嬉しかった。
私たちの愛が生まれて育ったウイーンに思いを馳せて・・・。
おはなしは一段落です。 真尋が志藤と出会ったころのおはなしは…こちら!→Go! Nocturn(20)
このあと真尋の運命は思わぬ方向に向かって行きます…
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