「おれは管理職って言っても。 ほんまに事業部を立ち上げたばかりのころは仕事に行き詰まったり、そっちばっかりに神経が行ってしまって。 部下のこととかも・・・あんまり考えてやる気持ちの余裕もなかった頃。 おまえがみんなをまとめてくれて。 おれが言わなくても、全部こなしてくれてたし。 ・・・一度、おまえとジュニアがNYに転勤になったとき・・・」
志藤は何だか溢れてくるように南との思い出を語り始めた。
8年ほど前。
真太郎は北都の意向でNY支社に勤務をしたことがあった。
真太郎に日本を出て世界を見て欲しい、と思う気持ちからのことであったが、南が日本に残るかどうか非常に迷った経緯があった。
「ああ・・・、」
南はそのときのことを思い出す。
「結局。 ジュニアを一人で行かせることができなくて・・・おまえは2年間彼についてNYに行った。 おれはもうその時におまえが事業部を抜けて、日本に戻ってきても・・・ジュニアと一緒に仕事をするんことなんやって覚悟してたから。」
北都としてもそれを望んでいたのだが、南は日本に戻っても志藤の元で部下として仕事をすることを選んだ。
「ほんまは。 ジュニアよりおれを選んでくれたみたいで。 嬉しかった、」
志藤はいつもの笑顔で微笑んだ。
南は鳥肌が立った。
あの時にタイムスリップしてしまったようで。
真太郎にはたくさんフォローしてくれる人達がいるけど
この人にはあたししかいないって
そう思ったから。
真太郎もそれを大きな心で許してくれた。
志藤がゆうこと結婚して、真太郎と4人でいつも本当に仲がよくて。
まるで家族みたいに過ごして。
南はふっと思い出したようにバッグの中の手帳を取り出した。
「・・これ、」
写真を2枚取り出した。
志藤はそれを手に取る。
1枚は真太郎と南が結婚したばかりで、自分が東京にやって来て間もない頃
ゆうこと4人で海に行き撮った写真だった。
その時はまだまだこんな運命も思いもしなかったころで。
もう1枚はゆうこと籍を入れて、おなかの大きくなった彼女と、真太郎と南と・・やはり4人で海で撮った写真だった。
この2枚の写真の時間には
信じられないほどのできごとがあって。
この写真を見るだけで、胸がいっぱいになってしまう。
自分たち4人はものすごく固い絆で結ばれていて。
友情とか愛情とか
そんな言葉で片付けられないほどの濃密な時間を過ごしてきたのだ。
南は『あのころ』のことをついこの間のことのように思い出します。
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