志藤は部屋に入って周囲を見回した。
「・・もう出て行くばっかりって・・・感じやな、」
小さくため息をついた。
「・・明日。 取締役のみなさんには挨拶しに行くから。 斯波ちゃんから聞いたんやろ?」
南は彼に構わず荷物を整理し続ける。
「ん。 まあ、おれはひょっとしてって思ったりもしたけど。 ・・・ジュニアがこの前ウチに来てな。」
志藤の言葉に背中が止まる。
「それも。 なんだか・・・予測してたような気がして。 おまえがこのまま今までどおりに暮らすことはでけへんて思ったし。」
タバコに火をつける。
「・・さすが。 志藤ちゃんやな。 あたしのこと100%わかってる、」
南は振り返って苦笑いをした。
「ジュニアは。 あの子と・・なんもなかったみたいやで、」
南は一瞬顔色を変えた。
「あのリエちゃんて子と。 1週間もずっと一つ屋根の家にいて。 ・・・もー、さっすがやなっておれはびっくりした、」
志藤はふっと笑いながらも、南の反応が気になった。
しばらくの間固まっていた南だが、また手を動かし始め
「そう、」
薄い反応だった。
「でもあの人はおまえにいい訳をせえへんかったやろ? もうその行動が『浮気』て言われても仕方ないって感じで。 」
真太郎を庇った。
「ジュニアはおまえを裏切ったわけやない。 あの人の弱い部分もおまえはわかってるはずや、」
南はずっと黙っていた。
「おまえがここまで考えるのは・・他に理由があるんやないかって。 ずっと、思ってた。」
志藤は南に近づく。
そして、彼女の腕をぐっと掴んだ。
「志藤ちゃん・・」
その力に南は目を見開いた。
「・・・ジュニアと別れるとか・・・そんなことよりも! おれの前から姿を消すことも! 許さへん!」
怖いくらいの瞳だった。
南は力が抜けるようにうな垂れた。
「・・・あたしは・・・真太郎と・・たった1本の細い糸でつながってただけやねん、」
小さな小さな声でそう言った。
「糸・・・?」
志藤は彼女を掴んだ手の力を緩めた。
南の本当の想いとはいったい・・・
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