萌香を知る人が
ここにいる・・
斯波は一気に明るい光が見えてきた。
「萌ちゃんなら・・ずうっとこの辺戻ってきてへんみたいやで、」
娘は言う。
「知ってます。 あの、ぼくは・・彼女の東京での勤めの同僚で。彼女、いきなりいなくなってしまって、」
「え、東京に行ってたん?」
「この春からですが。 それまでは大阪で仕事をしていました。」
「ほんまキレイな子やったなあ。 彼女に舞妓にならへんか~って冗談でいつも言うてて。」
母親のほうがそう言って笑った。
「おとなしくてカワイイ子やったんやけどな。 クラスも一緒やったし。 でも・・中二の時くらいからやったかなあ・・なんかずいぶん変わってしまって。」
娘が言った。
「変わった・・?」
「彼女のお母さんの仕事、知ってはるんですか?」
「え・・」
「隣町にある小さなスナックなんですけど。 実際は・・娼婦たちが集まって・・そういう店やったって。 噂があったけど、」
斯波は彼女の言葉に驚いた。
「娼婦・・?」
「萌ちゃんも急に暗くなって誰ともしゃべらへんようになってもうたから・・店で客でも取らされてるんやないか、とか。 色んな噂されて。 頭はすごく良かったから、府で1、2番の高校に行ったけど。 それからこの辺出て行ってしまったみたい、」
客を・・・?
斯波は一瞬身震いをしてしまった。
「店の場所は知ってますえ。 もし、今も変わってへんとしたら。」
母親は斯波に言う。
斯波は彼女たちにお礼を言って、そこを出て行くが。
覚悟はしていても、少し怖かった。
彼女の母親の店の場所は教えてもらったけれど。
そこにいて欲しいような、いて欲しくないような・・。
彼女がかなぐり捨てたかったものが
少し見えてしまった。
きっと
そんな自分の素性を隠したくて。
生まれ変わりたくて必死に生きてきたんだな。
十和田の愛人になったのも
全てこの世界から逃げ出すために・・。
彼女に会うのが
少し怖くなった。
それでも
今、会わなかったら
きっと一生会えない・・
そんな予感がして、斯波は拳をぎゅっと握り締めた。
彼女を抱いた時の
気持ちが
今も身体から離れない。
本当に
小さな店だった。
この周りを昨日もウロウロしていたのに
全く気づかないほど
裏路地のひっそりとした所にあった。
『静』
と書かれたひなびた看板は
電気もつかないようだった。
このドアを開けていいのか。
すごく
怖い・・
斯波はためらっていた。
するといきなりドアが開いて、
「じゃあ、また来てな~。」
女性が男の客と腕を組んで出てきて、
「ぜったいやで!」
と男に派手に抱きついてから手を振った。
派手な人だけど
ものすごく
キレイな人だ・・・
斯波はその女性を見て
心臓の鼓動が速くなり
嫌な汗が流れてくるのがわかった。
その『女性』とは・・・