大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」第46回~炎のランナー | 日々のダダ漏れ

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大河ドラマ 
「いだてん~東京オリムピック噺~
 



第46回~炎のランナー

 

 

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1964オリンピックイヤー。東京は上を下へと大騒ぎ。
何てったって、新幹線も首都高も完成しておりません。
果たして間に合うのか? どうなる!? 東京オリンピック。
1月20日、市川崑さんが記録映画の監督に就任。


市川崑) やっぱしその~クロさんも、降りたから、やらない

 方がいいんじゃないかと、言う人もおりましたが、亀倉君

 のポスターを見て、あ~記録映画も、美しく撮ればいいん

 だなと、引き受ける、決心を致しました。

3月20日、円谷幸吉選手が、2時間23分31秒の好記録

を出します。そして4月10日、ポスター第4弾が完成。

岩田) 聖火リレー!
大島) 聖火リレー!
(走る聖火ランナーを真横からとらえた写真)

 

**********

 

まーちゃんが組織委員会を去って、1年半がたちました。

 

政治) いい…。今回もバ~ンと来た。いい仕事するね~亀さんは。

(一つ前の、バタフライ選手のポスターを剥がす菊枝)

政治) ちょっと待って。何で? 何で剥がしちゃう?

菊枝) だって、新しいのが出来たから。

政治) いいじゃん、2枚並べて貼っとけば! ついでに言うと、何で

 この前のやつトイレに這った? いいじゃん3枚並べて…いや…。

菊枝) はいはい。

政治) 4枚並べて貼っとけばいいじゃない。

菊枝) 近頃は、誰も来ませんね。

政治) ああ…みんな忙しいんだろう。あと半年だからな~。

菊枝) ここに来て、愚痴をこぼす暇もないのでしょうね。

政治) ちょっと待って。まるで、俺が暇だから、ここで愚痴…。

菊枝) うるさいな、いちいち。

政治) 何!?

岩田) ごめんくださ~い!

菊枝) ほら来た。

政治) 来た…はい!

大島) お久しぶりです。

 見つけましたよ聖火リレー、最終ランナーの候補!

政治) 何!?

岩田) すごいのいましたよ広島に。ほら!

政治) 坂井義則、早稲田! へえ~。

 何だねこれ…彼の、何がすごいんだね?

岩田) 生年月日!

政治) 昭和20年、8月6日…あっ…。

岩田) 違う! そう! 原爆が落ちた日に

 生まれたんです。どこで? 広島で!

政治) ああ…。そうか…。あれから19年か…。

岩田) まあでも…原爆投下の日に広島で生まれた選手が、

 聖火リレーの最終ランナーって、ちょっと、出来すぎでしょうか?

政治) いや…出来すぎなもんか。いいよ、適任! オリンピック

 は平和の祭典なんだ。そこ見落としちゃいかん。うん!

大島) さっそく組織委員会の会議にかけます。

政治) さあ、上がって一杯やろう。

岩田) ありがとうございます。

 

**********

 

<裏組織委員会>

政治) はあ…あ~忙しい。

岩田) すいません、おつまみ、ありがとうございます。

大島) ありがとうございます。

政治) 忙しそうだね。

岩田) 1週間、家に帰ってません。

政治) いいな~。働く男は、まぶしいね。

岩田) いやいや…田畑さんは?

政治) 1週間、家から出てない。一歩もだ。

 アメリカとの交渉は、進んでおるかね?

大島) ええ。聖火は9月6日に沖縄へ渡り、4日かけて、

 総勢5000人のランナーが沖縄全土を回ります。

政治) ほほう。

岩田) ただ、国旗掲揚の許可がまだ下りてません。

政治) 何!?

 

当時、沖縄はアメリカの占領下にありました。この沖縄から

聖火リレーをスタートさせるのが、まーちゃんの悲願でした。

しかし、占領下の沖縄では、日の丸の掲揚は祝日のみと、

厳しく制限されていたのです。

 

岩田) 政府はまだ申請すらしてないようで。

政治) 何をやってるんだよ。アメリカの機嫌を

 損ねるのがそんなに怖いかね? 熱っ!

岩田) ああちょっと…。

大島) 大丈夫ですか? うん? 銘柄変えましたね。

政治) 気が付いた? 「オリンピアス」。

 1箱につき、10円寄付されんだろ? 俺だって

 こうしてオリンピックに貢献してんだよ。

 頼むよ。ほらガソリン入れて。

大島) ああ…頂きます。

政治) はい岩ちんも…。

岩田) あっ…。

政治) ほれ。

大島) 田畑さんが表にいてくれたらな。

政治) 大島君、それを言われると、俺もつらい。

岩田) 一本頂きます。

政治) あっ、どうぞ。はい。

岩田) 田畑さんも、たまには外出た方がいいですよ。

政治) うん…。そうね。

 

**********

 

<大阪・日紡貝塚工場>

政治) うん? あれ? ウマどうした? 大松。

 ウマ。ウマは、馬小屋か? ハハハ。

大松) 河西昌枝は昨夜、山梨へ帰りました。お父さんが危篤で。

政治) 何?

大松) 水も飲めず、注射して、やっと息をしてるような状態

 ということです。あと3か月で金メダル、それから花嫁姿も

 見せられたのに…。

女性) 河西さん!

大松) おい…。おい…どないしたん? 

 何で帰ってきたんや? お父さんには?

河西) 会いました。

大松) 「会いました」ってお前…

 「そばにおれ」言うたやろ河西。おい…河西!

(コートに入るユニフォーム姿の河西)

河西) お願いします!

(軽く準備体操をし、構える河西)

河西) お願いします!

(コートに入り、ボールを投げる大松)

大松) 帰れ! 「そばにおれ」言うたやろ! 帰れ!

 お父さんのそばおれ! 帰れ山梨へ! そばにおれ!

 河西、返事せんか! ウマ!

河西) はい!

大松) ウマ!

河西) はい!

大松) ウマ! 

河合) はい!

大松) オリンピックのせいや! オリンピックのせいや!

政治) おい…もうよせ大松。

(コートを叩く河西)

河西) バレーボールは続けます! でも…。

大松) 「でも」何や?

河西) やめたくなったら…オリンピックの前日でもやめます!

(ボールを投げる大松)

大松) 勝手にせえ!

選手) 私もやめたなったらやめます!

選手) 私もやめます!

選手) 私も!

選手) 私も!

選手) 私も!

大松) 勝手にせえ!

 

4日後、河西選手の父、栄一さんは、この世を去りました。

 

**********

 

志ん生) 「あっ、痛い、痛い…。あっ、痛い!」。まあ、

 オリンピックまであと3か月。海外から有名な選手が、

 続々とやって来ます。「お~旦那、物干しにつかまっ

 てぐるぐる回ってんのは、ありゃどこの花魁だい?」。

 「あれはお前、食い込み太夫のお前、女子体操の、

 チャスラフスカだお前」。「チェコスロバキの、チャスラ

 フスカ? チャスラフスカ!」。

 

**********

 

<喫茶店>

五りん) あまりウケてないけど、元気そうですね。

美津子) 体が動かない分、人情噺じっくり聞かせるんだって。

五りん) うん…。

美津子) でもマクラは決まってオリンピック。

テレビ・志ん生) チャフラスカ!

五りん) あっ、また言ってる。

美津子) 順を追って話してみな。

五りん) はい。え~…初めは、冗談にしてほしかったんです。

 ほら、俺こう見えて波乱万丈じゃないですか。だからお笑い

 をやるには、背負ってるものが、重すぎて。それを師匠に、

 面白おかしく笑い話にしてもらって、軽くしてもらったんです。

 だからそのお礼に…恩返しができないかなって思って。

美津子) それで二人会を?

五りん) 元気出してほしかったんですよ。

 

(回想)

志ん生) オリンピックが来るまでに、私は、高座に、

 上がれるかな?上がれないような気がするな…。

五りん) 何でも、「志ん生の『富久』は、絶品」だそうですよ。

志ん生) ヘヘッ、圓生じゃねえのか?

 

五りん) 割と単純なんですね。もうすっかりその気になっち

 ゃって。でも…見てたら、だんだん怖くなってきちゃって。

 もしも、目も当てられなかったら、全責任は俺か!?って。

 

(回想)

五りん) どうです? ほら、明日の二人会の成功を祈って、一杯。

志ん生) あ~やめとくよお前。毎回酒でしくじってんだ。

 明日、うまくいかなかったら…それも潮時だ。うん。

 

五りん) 重いですよ、そんなの! いつの間にか引退懸かって

 るし。いや、もうどうしよう…師匠の若い頃だったら、どういう

 ふうに考えたんだろうって、思って、着物を…。

美津子) 曲げて、二人会すっぽかして、1年以上

 音沙汰なし。あげくの果てに「紅白」出て…。

五りん) あっ、実は、そっちの方も、

 ちょっと…しくじっちゃいまして。

美津子) 何やってんのよ~。いつまでもフラフラして。

 五りん、あんた結局、何がやりたいの?

五りん) う~ん…。(回想) マラソン…かな。

美津子) はあ?

五りん) 走りたいです。走る家系じゃないですか。

 ばあちゃんも父ちゃんも。果たせなかったオリンピッ

 クの夢、あるじゃないですか。バトンを渡された以上、

 走らなきゃ…。俺…韋駄天になります。

(ポカンとしている美津子)

知恵) ふう~。

五りん) あっ…。

知恵) もうしゃがんだり立ったりが一番こたえるわ。

 ちょっと、肩貸して。

五りん) はい、はい。

知恵) よいしょ…。

五りん) 大丈夫)

知恵) はあ…。ありがとありがと。

五りん) はいはい…。

知恵) よいしょ。

(大きなお腹をさする知恵)

五りん) あっ…何の話でしたっけ?

美津子) 走るのも結構だけどさ、その前に、言うことあるよね?

五りん) あっ! パーマかけました。

美津子) 予定日いつ?

知恵) 10月10日。

美津子) オリンピックの開会式じゃないの。

五りん) あっ、そっちか!

美津子) バカ! どうすんのよ!?

五りん) いや~…。

美津子) 今は走る時じゃない、立ち止まって考える時。

五りん) はい。

美津子) ちゃんと地に足を着けてさ…。

知恵) あ~地に足をつけた五りんなんて

 魅力ないわよおねえさん。

五りん) あっ、うまい! ハハハ。ちーちゃんうまい!

 

**********

 

この夏、東京は、異常気象で雨が全く降りませんでした。

7月18日、川島正次郎氏が務めていた、

オリンピック担当大臣に、河野一郎氏が就任。

 

河野) 旧知の田畑政治が去った今、政治家である前に、

 スポーツマン河野一郎として、全力で取り組む所存です!

 まずは水不足! 都知事、35%の節水で本当に乗り切れ

 るんですか?

東) えっ…利根川の工事が、予定では10月1日に…。

河野) 遅い遅い! 9月には選手村を開く! 外国から

 大勢人が来るんだ。こんな東京見せられるか!

 都知事、災害並みの対応をして下さい。

東) はい…。

 

え~都知事の東龍さん、ますます窮地に立たされます。

 

**********

 

<開会式まで、あと84日>

<早稲田大学>

政治) 8月6日…8月6日…。

男性) あ~これはこれは!

政治) おっ。あ~どうもどうも! 間に合った?

男性) あっ、すいません! 

 まだ、本人には何も話してませんので。

政治) どこだね? 8月6日の彼は。ねっ?

男性) あ~、彼です。

政治) うん?

男性) おい坂井!

坂井義則) はい!

政治) ハハハ…いいね! よっ、8月6日! 

 ハハハハ…。そうか~君か。えっ? ほほう…。

男性) こちら、東京オリンピック組織委員会の…。

政治) 無職の田畑だ! 選考会、落ちたんだって?

坂井) はい…。でも今は頭を切り替え、4年後の…。

政治) いや…間に合うかもしれんぞ、東京。ハハハ!

坂井) えっ?

男性) おい坂井、次だぞ!

政治) ほら、呼んでるよ。行ってこい。へえ…。

男性) よ~い…。

(坂井の走りに目をこらす政治)

 

**********

 

<組織委員会>

大島) 広島に原爆が落ちた日に生まれた青年が、19年

 の時を経て、聖火を掲げ、国立競技場を走るんです。

与謝野) どうですかね? 都知事。

東) 私は、いいと思います。ただ…政府が何と言うか…。

与謝野) そこなんだよ。反戦というメッセージは大事だが…。

 

**********

 

<田畑家・裏組織委員会>

大島) 原爆は政治色が強すぎると言われまして…。

政治) 何!?

岩田) 過去の戦争を蒸し返すようなことは、

 アメリカの心証を悪くするおそれがあるので…。

政治) 与謝野さん東龍さんがそう言ったのか? 情けない。

大島) あっ、いや…政府がそう横やりを入れてくるだろうと…。

政治) なお悪い! 組織委員会は政府の顔色をうかがう、

 政府はアメリカの顔色をうかがう…何だこれは!

 誰のオリンピック? アメリカ? 違う! そう、東京!

 日本人のオリンピックじゃんね!? カクさんは?

 我が盟友、松澤一鶴なら分かってくれるはず。

 

回想・松澤) おじいちゃんがいいよ。平和で。金栗四三さん、

 71歳。手拍子に合わせてジジイが、膝をかばいながら

 ジジイが、ゆっくりと天国への階段を上る。和みますよ。

 

政治) どうしたカクさん! もうろくするには早すぎるじゃん

 ね~! はあ~暑いな~! 菊枝さん、アレ! 冷たいアレ!

菊枝) 麦茶入れようとしたら水が…。

政治) はあ?

 

ついに東京都は、一日15時間の断水に踏み切りました。

 

(シャツを脱ぐ政治)

政治) ん~! 日の丸は!? 沖縄は!? 

 日の丸問題どうなった?

 

(回想)

大島) 第一走者は、宮城勇君に決定しました。

男性) 宮城君を、日本の、第一走者として、走らせたい。

 そのために、日の丸を掲げて、祝いたいんです!

与謝野) これにつきましては、政府の回答に準じまして…。

 

森西) 政府の回答は、「アメリカと交渉する予定はない」、だそうで。

政治) 何!?

(ズボンを脱ぐ政治)

吹浦) そもそも今の沖縄の工場では日章旗を作れないそうです。

政治) そんなのは言い訳だよ! もう我慢ならない…。

一同) えっ?

政治) もう我慢ならんぞ。

岩田) えっ? 田畑さん…。

(ズボンを履き、シャツを着る政治)

岩田) 田畑さん、どうしたんですか?

 あっ…田畑さん? ちょっと…。

政治) えい!

大島) ああ…落ち着きましょう! 

(菊枝が用意したきゅうりをつまむ政治)

(かじって出て行く政治)

岩田) ちょっと待って…! 田畑さん!

 

**********

 

<組織委員会>

松澤) え~今度はジェット機が、ガガガガガ~ッと、

 大空をガガガガガ~ッと舞います。で、耳がキ~ン

 となったところ…。

政治) どけ! いいからどけ! やい、組織委員会!

 日章旗を今すぐ用意しろ。俺が沖縄まで持ってく。

松澤) まーちゃん!

政治) 沖縄で、日の丸を振って聖火を迎える。これは島民

 の願い! 最重要事項! 政府が何と言おうとやれ!

 それから、聖火リレーの最終ランナーは…早稲田の坂井

 義則君を走らせるべきだ! いいか? よく聞け小役人ども。

 アメリカにおもねって、原爆への憎しみを、口にしえない

 者は、世界平和に背を向ける卑怯者だ!

(議員たちをにらみつけ、報道記者に向き直る政治)

政治) 書きたきゃ書け。田畑の発言だ。

東) まーちゃん!

政治) 邪魔したね、東龍さん。

東) またいつでもいらして下さい。席は、ご用意します。

(頭を下げる東)

(壇上の中央に座る河野に目をやり、出て行く政治)

 

**********

 

<開会式まで61日>

8月10日、新聞記者が、広島に帰省中の坂井

義則君を、有無を言わさず東京へ連れ戻し…。

 

記者) 聖火台の上に立ってみて。

 ここへ立って…そうそう…。ここここ…そうそう…。

坂井) はい。

記者) いいね~平和の申し子!

 こっち向いて、アトミックボーイ。

(どの新聞も、見出しに、「原爆の日」の文字)

 

**********

 

四三) えっ…「十九歳の、坂井君」?

(新聞記事を見つめる四三)

(競技場の入り口に、治五郎の記念碑)

四三) はあ…坂井君…。先生…坂井君だそうです。

 

(回想)

治五郎) 聖火ランナー、頼むぞ!

四三) はい!

 

四三) 先生…すんまっせん…。約束ば、果たせませんでした。

(記念碑に向かい、土下座する四三)

四三) すんまっせん。ばってん…しかたなか。

 平和の祭典だけん。彼ほどふさわしか者はおらんばい。

 

**********

 

最終ランナーが決まり、これで一安心。

…とはいかない。何しろ、日本全国を走る聖火

ランナーの数、総勢10万人! 組織委員会は

全国の教育委員会、スポーツ団体に広く参加

を呼びかけた。え~…なぜか、落語協会にも。

 

美津子) 何ですか? これ。

席亭) 聖火ランナー出してくれってよ。

 お~志ん朝、出りゃいいじゃねえか。

強次) 嫌ですよ、私は。体育は苦手だ。

今松) 売れっ子ですもんね~師匠は。よっ売れっ子! 36人抜き!

強次) やめて下さいよ。

志ん生) おい、五りんじゃ駄目かな?

今松) 「駄目かな?」って五りんは…。

志ん生) あいつ、走らせたら面白えと思うんだけどな。

今松) さあ、行きますよ、師匠。よいしょ…。

席亭) 頼むね。

美津子) 何今の…どういう意味?

強次) 俺もあいつが適任だと思うよ。

 何せ、名前が「五りん」だ。ヘッ。

美津子) そんなこと私だって思ってるけどさ~…。

(聖火リレーの貼り紙を剥がす美津子)

 

**********

 

オリンピックまであと1か月半。

ついに、聖火リレーが始まりました。

聖火は、採火式が行われたアテネを出発。

アジア各国11の都市を経由し、東京を目指します。

 

<裏組織委員会>

政治) アメリカと、直接交渉できるのは君しかおらん! 頼む!

平沢) 今回は、お断りします。

政治) このとおり。最後の頼みだ平沢。出ちゃったんだ

 聖火。ギリシャを。来ちゃうんだよ、オリンピックが。

平沢) 沖縄に、日の丸を4日間も掲げるなんて、許可する

 わけがない。下手に交渉したらもう「やぶへび」ですよ。

岩田) やぶへび?

平沢) 認めろと言うから、認めないという話になる。

 そういう時は事後承諾。しれ~っとやっちゃう訳です。

男性) いやいや…。

(台所でこっそり眼鏡を外す菊枝)

政治) 事後承諾に関しちゃこっちは、

 ジャカルタでひどい目に遭ってんだよ?

平沢) 私に考えがあります。

岩田) 何です?

平沢) ああ、奥様…お邪魔しております。

(料理を運ぶ菊枝)

菊枝) いつも見てます。

平沢) ありがとうございます。

(よろける菊枝)

平沢) 大丈夫ですか? こちら、つまらないものですけど…。

菊枝) あっ…。

平沢) よかったら。

政治) 出たなマダムキラーめ。そういうのいいからさ…あの、

 おい…。お前も何だ? 裸眼で、化粧しちゃって…。下がれ。

(扇風機にぶつかる菊枝)

政治) ほらほらほら…。

一同) あああ…。

平沢) 大丈夫ですか?

政治) いや大丈夫だから…下がれ。

(いそいそ去っていく菊枝)

政治) 何だ? あれ。…で?

平沢) テレビを利用するんです。

テレビ) 「次の話題です」。

岩田) テレビを?

テレビ) 「10月の東京オリンピックを前に…」。

平沢) あまり知られていませんが、9月1日から沖縄にも

 マイクロ回線がつながり、中継が可能になるんです。

 その様子を、特別番組として流すんです。アメリカは、

 沖縄との関係が友好的であることをとにかく…とにかく

 世界に向けてアピールしたい。だからテレビカメラの前

 で、日の丸を降ろさせたり、リレーを中断させたり、島民

 を取り締まったり、そんな不粋なまねは決してできない。

 認めざるをえないのです。

 

**********

 

<9月7日 開会式まで33日>

テレビ) 「ギリシャのオリンピアを出発してから18日間、アジア

 各国11都市を回った平和の火は、今日、9月7日の正午、

 ここ、沖縄に上陸したのであります」。

まーちゃん) 来るよ沖縄に聖火がね。ほら。

 

なんと、我らがまーちゃん、自ら600枚の旗をかき集め、

聖火の到着を出迎えました。

 

政治) あ~! 来た~!

(出迎えるテレビカメラ)

(日の丸の旗を振る人々)

(拍手と歓声)

(遠巻きに見ているアメリカ兵)

(聖火の火がトーチに移される)

政治) お~! お~すごい!

(拍手と歓声)

(トーチを受け取るランナーの宮城)

政治) 宮城!

テレビ) 「今日この日から、日本人の聖火リレーが、始まる

 のであります。高らかにトーチを掲げ、力強く走り出した

 のは、第一走者の、宮城勇君。日本人の、宮城勇君で

 あります。待っていたのであります。沖縄は、この平和の

 火を、待っていたのであります。

政治) 行け宮城! 東京までつなぐぞ!

テレビ) 「ご覧下さい。聖火を迎える、人々の波。島民の

 笑顔。日の丸の、波、波、波であります!」。

(畑の道を走る聖火ランナー)

(日の丸の小旗を振りながら一緒に走る子どもたち)

 

**********

 

(平沢のニュース解説)

平沢) 先日の沖縄の光景、まさに平和の祭典に

 ふさわしい、歴史的感動巨編だったと言えるで

 しょう。日の丸の掲揚を容認した、自由の国、

 アメリカの寛大さ、賞賛に値しますね。

 

**********

 

開幕まで1か月。聖火は沖縄から鹿児島宮崎

北海道に分かれ、4つのルートで東京を目指し、

走り出した! 近頃は田畑さん、裏も表も関係

なく好き勝手にうろうろし始めたんですが…

 

政治) どうしたカクさん。血管ブチ切れそうだぞ。

松澤) 「青空に、五輪のマークを描いてみせましょう」

 っつって、1年半!

政治) ブルーインパルスか。

松澤) 訓練に訓練を重ねて、今これですよ。

政治) 何だ? これ。だんごか? 串に刺さっただんごか?

松澤) あいつ口ばっかりじゃんね~!

 

**********

 

<日本橋>

テレビ) 「今日の千歳地方は、晴れたり曇ったりですが、コース

 にあたる沿道には、小旗を持った市民が連なって、聖火を

 歓迎します。聖火は今、弾丸道路をひた走り、一路札幌に

 向かっており、午後2時札幌に着く予定です」。

(人だかりの隙間から街頭テレビを見ている四三)

四三) 失敬、失敬、失敬…。

(再び走り出す四三)

 

**********

 

テレビ) 「聖火は今、ここ、広島原爆ドームを通りまして、平和

 記念公園にやって参りました。平和の火であります。平和の

 火が、広島を駆け抜けております。

 

**********

 

電・森西) ちょっと…。

政治) 森やん何やってんの?

森西) コンゴですよコンゴ! 8月締め切りなのにもう、今頃

 エントリーしてきやがって…。国旗も国歌も間に合いません

 よ、本当に! ♪フンフフ~ン フ~フフ~フフ~ン

 

表彰式の楽団は96か国の国歌を完璧に演奏できるようにしな

くちゃならない。ですが、中には楽譜がない国もありまして…。

 

**********

 

(喫茶店で食事をしている五りん)

テレビ) 「北海道の千歳を出発し、青森を通った聖火は、

 矢立峠を越え、秋田県は大館市に入ってまいりました。

 秋田では、4400人の若者が、聖火をつないで走ります。

 堂々たる走りであります。このあと、聖火は、日本海を

 望む能代、そして秋田市を目指します」。

(テレビを見る五りんの足が、走るリズムを刻む)

(テレビから目をそらし、水を飲む五りん)

 

**********

 

テレビ) 「四国4県を走り続けた第2コースの聖火は、昨日四国

 最後の香川県に入りました。高松市役所で一泊し、今日四国

 の最終ランナーがささげ持ち、市役所を出発しました」。

(きゅうりを聖火のように掲げ、テレビを見ながら走るまねをする菊枝)

テレビ) 「このあと聖火は、聖火船こんぴら丸によって、

 瀬戸内海を渡り、いよいよ本州に入り、東京を目指します」。

 

**********

 

このころ、VIPの接待を担当するコンパニオンの最終面接

が行われ、総勢34名が選ばれました。その中には…

 

あつ子) あっ、お父さん。

政治) おう!

あつ子) 今何してる? 忙しい?

政治) 何もしないけど忙しいよ。何だ?

あつ子) 彼女、選手村まで乗せてってくれない?

政治) えっ、選手村?

あつ子)  ボランティアの通訳なの。

政治) ああ…。

あつ子) よろしく。

政治) まあ、行けば分かるじゃんね~。

 

**********

 

<選手村>

政治) おっ…おっ…おっ! おっ…ああ!

 おいおい、おいおいおい…出来ちゃってるよ~!

 おい! 出来ちゃってるよおい! ハハハハ!

大河原) ちょっと…。どこ行くんですか!? 待って下さい。

 

聖火が全国を走る中、まーちゃん悲願の選手村が、開村。

米軍から買い受けた、代々木ワシントンハイツ。66万平米の

敷地内で、およそ6000人の選手が、寝食を共にするのです。

 

岩田) 係の者に従って下さいね~。田畑さ~ん!

吹浦) 田畑さ~ん!

政治) お~い!

岩田) 来ましたね~!

政治) おい…どうすんだ岩ちん! 

岩田) えっ?

政治) こんなすごいの造っちゃってもう!

岩田) ハハハ…バ~ンと来ました?

政治) 来たよバ~ンと!

岩田) よし!

政治) この先きっと、何回も言うから聞き流していい

 けどね。これ…嘉納さんに見せたかったな~!

岩田) それ、東さんも言ってました。

政治) あっそう?

岩田) ええ。

政治) 来るんだろうね? 選手はちゃんと。えっ?

 こんなの造って誰も来なかったら、そりゃもう

 アレだよ、えっ? もう…悪夢だよ。いや~…。

大河原) 田畑のお父さん! 

政治) うん?

大河原) 一人にしないで下さい!

政治) あ~すまんすまんすまん…。どうした?

(通訳の女の子・大河原が走ってくる)

大河原) 何か…ついてくるんです。

政治) うん? 

(2人のアフリカ人がすごい勢いで走ってくる)

岩田) うわうわ…。

政治) おい逃げろ逃げろ! 何だ何だ?

岩田) 何何…わわわ…ちょっと…。

政治) どうした? どうした?

アフリカ人) (仏)

岩田) ストップストップストップ…。

大河原) フランス語? もしかして…。

(大河原の手から旗を取るアフリカ人)

吹浦) ああ…コンゴですね。コンゴ共和国。

岩田) えっ、もう来たの!?

ヨンベ) ヨンベ。

ウランダ) ウランダ。

大河原) ヨンベ、ウランダ。

政治) ヨンベと、ウランダ君。ハハハ…。

ヨンベ) (仏)

大河原) あっ、お腹がすいたって言ってます。

 

**********

 

<富士食堂>

政治) すまんね村上さん。大至急お願いします。

村上) 分かりました。

岩田) いやまさか一番最後にエントリーしたのが

 一番最初に来るとは。

政治) ハハハハ。競技は? 2人だけかね?

大河原) (仏)

ヨンベ) (仏)

ウランダ) (仏)

大河原) あっ、2人だけで陸上だそうです。

岩田) すごい! 金栗三島だ。

大河原) (仏)

政治) あ~! うんそうそう…。

岩田) うお~来た!

村上) いや~…。最初に出すのがアフリカ

 料理だとは思いませんでした。手で?

政治) 箸で?

ヨンベ) (仏)

大河原) 練習してきたって。

政治) いや、無理だろう…ボッソボソだぞこれ。ボッソボソ!

ヨンベ) ボッソボソ?

可児) 懐かしいね~。いや~僕も、やったよ、テーブルマナー。

 ストックホルムに行く前ね。安仁子に、こっぴどく、叱られたもんさ。

ヨンベ) セボン。

可児) まあ、行けなかったんだけどね、私は。ハハハハ…。

政治) 誰だ?

可児) いや、誰って…。ミスター クラブ。

(笑い声)

政治) 誰だ? 知らないよ。

岩田) ハハハ、後で教えます。

吹浦) 田畑さん? 田畑さん岩田さん! いけます。

政治) お~いけるかい?

 

**********

 

(ヨンベとウランダが、組織委員会に案内される)

(♪楽団の演奏)

森西) どうだ? 合ってるか? あれ?

政治) 駄目?

(ヨンベとウランダが歌い出す)

森西) あれ? いけてる?

政治) 合ってんじゃない?

森西) 合ってる? 合ってる? ねえ、合ってる?

 合ってる! 合ってるってよ!

(拍手と歓声)

 

(回想)

(ストックホルムの人々を前に、君が代を歌う四三と弥彦)

(ストックホルムで過ごした四三と弥彦の姿)

 

(日本でコンゴ国家を歌う、ヨンベとウランダ)

 

**********

 

9月26日、コンゴ、ルーマニア、韓国、オーストラリアの選手

による入村式が行われ、9月27日、羽田から浜松町へモノ

レールが開通。10月1日、東海道新幹線、首都高速道路の

一部が開通。え~なんと、開会式の、9日前です。

 

(千葉の農村を走る聖火ランナー)

(一緒に走るちびっ子たち)

(神奈川の海岸を走る女子の聖火ランナー)

 

**********

 

<日本橋>

テレビ) 「今日10月9日、4つのルートに分かれ、日本中を走

 ってきた聖火は、ここ、皇居の前で、再び一つになりました。

 この、平和の火は、明日の開会式で、最終ランナーの手に

 より、国立競技場に高らかにともされることになります」。

(人だかりの外で見ていた四三が走り出す)

(街頭テレビを見ている五りん)

 

**********

 

そして、10月9日、いよいよ、東京オリンピック開会式、前日!

 

政治) 抜かれちゃまずいぞ。

大河原) 頑張れ頑張れ!

政治) よしよし…ヨンベウランダ!

 お~来た~! いいぞ、ウランダ! 1秒縮んだじゃんね~。

大河原) 逆です逆!

政治) えっ?

大河原) ヨンベ、ウランダ。

政治) あっ…。

大島) 田畑さん!

政治) うん? 何だ?

大島) 田畑さん…。田畑さん、ちょっと、よろしいですか?

 

**********

 

<国立競技場>

政治) どれ?

大島) あれ?

政治) どこだい? よいしょ…。あれ? ちょちょ…。

大島) あ~はいはい。

(双眼鏡をのぞく政治)

政治島) あ~いたいたいたいた!

大島) えっ?

政治) ほら…。

大島) あ~本当だ!

政治) うん…。

(トラックを走っている坂井)

大島) あ~…。

政治) あ~本当だ。元気ないね。何だよ…

 駄目だあんな顔してちゃ。えっ? あっ…。

(聖火台に駆け上がる坂井)

政治) おい! どうした? 8月6日。

 君の笑顔が、平和の象徴なんだぞ。

坂井) (すすり泣き)

政治) ああ…泣いてどうするよ。おい、8月6日!

坂井) 8月6日じゃありません!

(報道記者たちも一斉に見る)

坂井) アトミックボーイでもない! 僕は坂井です!

 坂井義則! オリンピックの選考会で負けた、坂井です!

(坂井を見つめる政治)

大島) うん?

政治) うん?

大島) あれ? 

政治) えっ、あれ? あれ!?

(政治の顔に落ちる雨粒)

 

**********

 

<田畑家>

菊枝) タッタッタッタッ…ボワッ。

(模型で遊んでいる菊枝)

菊枝) あっ!

(聖火台が転がる)

菊枝) えっ…。

(雨音)

(洗濯物をいっぱい干した庭に、雨)

菊枝) あれ?

 

**********

 

<バー・ローズ>

政治) 何かやな感じしてたんだ~もう!

マリー) あらお久しぶり田畑さん。

政治) 何で10月に!

マリー) お待ち合わせじゃなくて?

政治) えっ?

政治) 東龍さん…カクさん。何してんの? 

 式典課がこんなとこで。ブルーインパルスは!?

松下) 残念ながら、中止でしょう。見せたかったですな~。

 青空のキャンバスに描かれる五輪マーク。

 うん…というわけで、残念会やってま~す。・

一同) ウエ~イ。ウ~!

松澤) 1回もできなかったくせに!

松下) できますよ。

松澤) えっ?

松下) 何なら今ここでやりましょうか? タバコの煙で。

(笑い声)

松澤) おいやってみろよ。ここでやっても仕方ないんだよ!

松下) 痛い!

松澤) 戻れよ! できねえじゃねえかよ!

東) インドネシアと北朝鮮の不参加が正式に決まった。国

 と国の交渉なんかやってると、オリンピックが平和の祭典

 だなんて言わない方がいいんじゃないかと思えてくるよ。

政治) それでもね、選手は真剣だよ。

 競技場と、選手村は聖域なんだ。

 それを、俺たちジジイが守らなきゃいけないんだよ!

東) どうしたの? まーちゃん。

政治) 坂井君が、ナーバスになってる。

東) あ~。

政治) 彼は…走れんかもしれん。くそっ…

 なぜもっと早く気付いてやれなかった。

 どんな時も、選手第一でやってきたじゃんね~。

松澤) どっちみち明日は、雨だから。

マリー) 占ってあげようか。

政治) うるさいな。入ってくんなよ。

マリー) 明日の天気、占ってあげようか。

政治) いい! あんたの占いが当たらないってこと

 はもうみんな知ってる。あんた自身も知ってる。

テレビ) 「明日の天気をお伝えします」。

マリー) じゃあ、当たったら…。

テレビ) 「全般に雨になるでしょう。明日の開会式は、

 残念ながら、雨に見舞われる可能性が高そうです」。

マリー) カラーテレビ、買って。

一同) ウエ~イ。

政治) 何だよ「ウエ~イ」って。いいだろう。

テレビ) 「東ないし北東の風。朝から、雨でしょう」。

マリー) 明日の、天気は…。

松澤) あっ…。

テレビ) 「朝から雨でしょう」。

(東京の地図の上に、カードを並べるマリー)

マリー) 雨! 豪雨と出てるわ。

(マリーを見る政治)

政治) 本当か?

マリー) 世界中の雨雲を、全部東京に

 持ってきちゃったような、曇天よ。

松下) よしママ。ボトルもう一本。

松澤) 飲むな! もうお開き!

 さあ今すぐ帰って…さあ! 帰れよ! 帰れって!

(マリーを見つめる政治)

政治) ありがとう。

 

え~明日は、一番面白いことが、起こるはずです。

 

**********

 

「8月6日」だの「アトミックボーイ」だの、酷いよね~。

ていうか…今でも酷いあだ名で選手を呼んでたりす

るじゃんね。褒めてるつもりなのがホント始末が悪い。

 

アメリカにおもねって、原爆への憎しみを、口にし

えない者は、世界平和に背を向ける卑怯者だ!

 

我らがまーちゃん最高じゃんねえ! 今、正面切って

これを言える政治家はどれだけいることか。いよいよ、

一番面白いことが、東京オリンピックが始まるよ~!



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