大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」第25回~時代は変る | 日々のダダ漏れ

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大河ドラマ 
「いだてん~東京オリムピック噺~
 



第25回~時代は変る

 

 

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昭和36(1961)年

 

志ん生) え~今晩から、「いだてん」第二部

 の幕開けです。って聞いたんですが、何で

 も、前回の残、残りもんがあるそうで…。

 

**********

 

大正12(1923)年 関東大震災

 

大正12年、未曾有の地震、関東大震災の

直後、この人が声を上げました。

 

治五郎) 人々が、希望に向かうための、

 最たる力であると信じ、第8回、パリ国際

 オリンピックへの、参加を決意する。

 

パリオリンピックの予選を断行したのです。

 

男性) こんな時にオリンピックですか?

治五郎) こんな時だからこそ、スポーツが、

 人々に力を与えるんです!

 

**********

 

<パリオリンピック予選会>

 

既に現役を引退した、金栗四三。

予選当日は伴走者として、

母校の士気を、あおります。

 

四三) どぎゃんすっか~!

八島) 先生…先に…行って下さい。

四三) バッカも~ん!

 伴走が、先行ってどぎゃんすっか!

 はよ来んか! おい、ついてこい!

 

志ん生) …って言いながら、

 背中でゴールテープを切っちゃった。

 

野口) 1着金栗四三! 2時間36分!

治五郎) おめでとう~!

四三) いやいやいや…。

 

金栗四三34歳、まさかの、

3度目のオリンピック出場です。

 

志ん生) ほぼ本当のお話です。以上が、

 前回の残りでした。ところで皆さん、

 この男をお忘れじゃないですか?

 河童のまーちゃん。

 オリンピックで、日本古来の泳ぎが、

 クロールに惨敗。悔しさいっぱいの

 まーちゃん。

 

政治) チクショー! 

 何がクロールだ~! うわ~!

 

志ん生) そう叫んで、浜名湖に身を投げた、

 田畑政治君。深く沈んで、一向に浮かんで

 こない。そうこうするうち、4年の月日が流

 れまして…

 

政治) プハ~ッ!

 

志ん生) すっかり大人になっちゃった。

 

政治) やっぱり時代はクロールじゃんね~!

男性) まーちゃん、そりゃクロールじゃねえ…。

 片抜手一重伸(かたぬきてひとえのし)だに~!

政治) えっ? 俺がクロールって言ったら、

 これがクロールだバカ野郎め! 何だ? お前ら。

男性) クロールはこうだぎゃ~。

 

(浜名湖からあがり、スーツに着替え、

 丸眼鏡をかけるまーちゃん)

 

志ん生) まーちゃんこと、田端政治。

 後に、オリンピックを東京に呼ぶ男。

 というわけで、第二部は、河童編です。

五りん) よっ、第二部! よっ、第二部!

 

**********

 

大正13(1924)年

 

関東大震災の翌年、大正13年。

東京・日本橋。

 

政治) うわっ!

(橋の上でぶつかりそうになる政治と四三)

政治) な…何だよ!

四三) すんまっせん!

 

韋駄天が、パリオリンピックへ向けて猛練習

を始めた頃、東京帝大、今の東大を卒業した

まーちゃんは、朝日新聞社の面接を受けます。

 

(伝書鳩が政治の頭をかすめ飛んでゆく)

政治) いや…おっ、ハト!

 

記者といえば、今でこそ「エリートでござい」

って顔してますが、昔は「ブン屋に家は貸す

な、嫁にやるな」って言われてたぐらい、荒

くれ者も多かった。

 

**********

 

<朝日新聞社入社試験・口述試験中>

政治) さあ社長、日本泳法とクロールの

 一騎打ち、どっちが勝ったと思います?

 ねっ、社長、社長!

緒方竹虎) うん…田畑君…。

政治) クロールは、茨木中の高石勝男、

 対する我が一高の松澤一鶴は、片抜手

 一重伸だ。さあさあ社長、どっちだ!?

村山龍平) あっ、クロールかね?

政治) そう! 違~う!

 僅差で松澤が勝ったんです~。でも私はね、

 これからの水泳界をあれするのは、クロール

 だと直感しましたね。その日はほら、波が高

 かったでしょう。高石君のバタ足がね、何度

 も空振りしたんですな~。これが、静水プー

 ルだったら、もし、バタ石君の高足があれし

 てたら、クロールに勝てた? 勝てないよ~!

村山) あの~田畑君ね、その話、長くなるかね?

緒方) いえもう、十分長いです。いや参ったな…

 好きなスポーツは何か聞いただけなんだけど。

政治) 水泳です。

緒方) だろうね。

 じゃあ、希望する部署は、運動部かね?

政治) 政治部です。

緒方) えっ?

政治) 政治がやりたくて来ました。

村山) あ~名前も「政治」と書いて、

 「まさじ」だしね。

政治) あっ! アッハハハハ…!

村山) そ…そんなに面白いかね?

政治) そのクロールの使い手、高石の勝っちゃん

 が、パリの代表選手に選ばれた。しかし練習が

 できない。なぜだと思います? さあはい!

村山) プールかね?

政治) 違う! そう、プール! 温水プールが東京

 にはない。ほかの競技は1年中練習できるのに、

 水泳は夏しか泳げないんです! そんなんで、

 世界に勝てる? 勝てないよ~!(咳き込み)

緒方) よし…よし落ち着こう。水飲みたまえ。

政治) 息継ぎするの忘れてました。ハハハ…。

 とにかくプールを…ねっ? 

 日本に、一年中泳げる温水プール。

緒方) よし…よしよし…よし分かった。よしよし…。

 

**********

 

志ん生) なんともせわしない主人公で、

 金栗さんとは、だいぶ違いますが、

 頑張ってついてきて下さいまし。

(客席に向かい頭を下げる志ん生)

五りん) えっ? えっ、ちょっと…。ちょっと、

 師匠! えっ、もうおしまい? ええっ!?

 

**********

 

政治) ふう…。

緒方) 一つ聞いていいかね?

政治) 何ですか? もう時間過ぎてますけど。

緒方) ハハハ…。君の友達や仲間が、

 いい選手なのはよく分かった。

政治) さすが頭いい。

緒方) …で、君は何なの?

政治) 何なんでしょう?

緒方) こっちが聞いてるんだよ。

村山) 君自身は、泳がんのかね?

政治) 医者に止められましてね…病気したんです。

 でも、よかったと思ってます。泳ぎは好きだが人並

 みで、続けていても、選手としては大成せんでした

 からね。ハハハ…。あっ、これ実家です。ハハハ。

緒方) えっ、これ全部君のご実家?

政治) すいません、金持ちなんです。

 ハハハ…逆だったっつって!

緒方) いやこりゃ立派なもんだ。

村山) …で、あの~もう一度聞くがね、

 希望は政治部でいいのだね?

政治) はい。でも、水泳は続けますよ。

 日本を世界レベルにするまでは。

緒方) 世界?

政治) いずれ、世界一になります。

 

**********

 

<面接のあと>

村山) はあ~台風のような男だったな~。

緒方) フッ…。頭に口が追いついてない、

 といったふうでしたな。そして、字も汚い。

 記者には、不向きでしょう。

(不合格の箱に履歴書を入れる緒方)

村山) あっ…。

緒方) えっ、気になります?

村山) う~ん…まあ、顔がいいから、

 採ってやるか、ハハハハ…。

緒方) ですかねえ~?

(合格の箱に履歴書を入れ直す緒方)

 

**********

 

五りん) え~社長の鶴の一声で合格となりま

 して、まーちゃんは朝日新聞政治部の、記者

 になり、そして、立憲政友会の、担当となりま

 した。うん? 顔? えっ、いいですか? とっ

 つぁん坊やでしょう。当時の政友会総裁は、

 内閣総理大臣、大蔵大臣を歴任した大物、

 高橋是清。

 

緒方) 連立内閣か…。

男性) はい。

緒方) 鍵を握ってんのは是清だ。

 政治部は、24時間、張り付くように。

一同) はい!

政治) 何だこのオリンピックの記事は!

緒方) あれ? 田畑?

政治) やい運動部! どういう了見で

 こんな記事書くのかね!?

尾高) 何だ? 君。どこのどいつだ?

政治) 政治部の田畑だ!

河野) 貴様が浜名の河童記者か。

 校閲部の河野だ。何が気に食わん?

政治) これだよ! 岸の写真が真ん中にある

 のも、陸上の連中ばかりが大きく扱われとる

 のも気に食わん!「河童記者」も気に食わん。

河野) 当然だろう! 

 陸上の方が水泳より上なんだから。

政治) 何だと!?

尾高) 河野は、金栗四三の弟子でね、

 箱根駅伝のランナーだったんだ。

政治) ハッハッハ…俺に言わせりゃあれだよ、

 ストックホルムから3大会も出てだな、メダル

 に手も届かん陸上なんてのは、恥さらしだ!

 やめた方がいい。

河野) 何だと!?

緒方) おい…田畑、行くぞ。

河野) パリは勝てる!

 大ベテランの金栗四三先生はじめ…。

政治) 金栗!? このおっさんまだ走ってんの?

 断れよみっともない! 30半ばのおっさんが、

 今さら勝てる? 勝てないよ~!

河野) 先生を侮辱するな。

 

**********

 

<第8回パリオリンピック報告会>

四三) 三度目の正直…これが、最後のレース

 と覚悟ばして、意気込んで臨んだばってん…

 意気込んで臨んだばってん…やはり酷暑に

 は勝てず、32km地点で、意識ば失うてしまい

 ました。ばってん、敗れて悔いなし。幸せな、

 選手人生でした。

(拍手)

(四三と握手をする治五郎)

治五郎) よくやった、韋駄天!

四三) ありがとうございます。

治五郎) え~明治45年、ストックホルム、途中

 棄権。大正9年、アントワープ16位!

河野) よっ!(拍手)

治五郎) 大正13年、パリ、棄権!

野口) ミスターマラソン、金栗四三選手に

 いま一度大きな拍手を!

(拍手)

政治) おい…何だ? 今のおい! 大きな声で

 読み上げた割には大した記録じゃないよ。

河野) うるさい! 黙って聞け!

四三) ありがとうございました!

政治) いい、いい…。

野口) 続いて、水泳。

政治) は~い! はい待ってました! 

 静粛に! 静粛にね。

野口) え~時間の都合で、結果のみとする。

水泳選手たち) はあ!?

政治) 何だと!? 

 おい体協、もう我慢ならん。おい…。

河野) 田畑! 貴様いい加減にせんか!

政治) 体協の陸上びいきは目に余るものが

 ある。出場選手8名? 多すぎるじゃんね!

 しかも何? 長距離走は全員棄権?

男性) おい!

政治) 何? 何してたの? のんきにパリ観光かね? 

河野) 水泳だって6人行ってるだろう!

政治) 結果を出したじゃんね! ここにいる

 高石は5位。野田はリレーで4位。どうだ? 

 もっと行ってりゃもっと入賞できた!

男性) テニスだって勝てたぞ!

男性) レスリングも!

男性) こっちだって一生懸命やってんだよ!

野口) すべて私の責任です!

 すべて私の責任です!

四三) 野口君!

野口) 世論の反対を押し切って参加した

 パリの惨敗、弁解の余地なし。責任を持

 って私野口は、体協主事を辞任します!

政治) あんたじゃ話にならん。トップを出せ!

 嘉納治五郎名誉会長の、引責辞任を求める!

治五郎) 彼は何者だね?

岸) 田畑とかいう新聞記者らしいです。

政治) あれがトップにおる限り、

 日本はあれだ、何だ…勝てん!

男性) 何だと貴様!

政治) 老害め。なにが「逆らわずして勝つ」だ。

 逆らってでも勝て、バカ野郎め。あっつ!

治五郎) ハハハハ! 彼は、口が韋駄天だねえ。

政治) そこ、何がおかしい! おい!

(治五郎、向かってきた政治を一本背負い)

(どよめき)

 

五りん) これは驚いた。韋駄天は嘉納先生に

 だっこしてもらいましたが、河童のまーちゃん

 は、会ったその日にぶん投げられた。

 

政治) やいジジイ! 嘉納治五郎に伝えろ。

 水泳は体協から独立する。援助も受けん

 代わりに、指図も受けんとな!

四三) こちらが嘉納先生ばい、こんバカもんが!

政治) 何? えっ…

 わ…割と大きいんですね。あっ…。

治五郎) よかろう。好きにしたまえ。

政治) はい。そういうことなんで、

 よろしくお願いします!

 

五りん) まあ…え~落語に出てくる粗忽者の

 類いだと思えば、まあこの主人公…許せな

 くもない…。まあ、八つぁん、熊さん…。

(※)粗忽者=そそっかしい人

 

政治) カクさん、出来たぞ!

 

五りん) 早いんだよな~出てくるのが。

 まだ途中!

 

政治) 見ろ。看板と、当座の資金だ。

一同) お~!

政治) 今日からここ、が水連の本部だから。

野田一雄) 水連って何の略ですか?

政治) うん? あっ、あれだよほら…水泳の…

 水泳だろ? …で、何? 何何…?

高石勝男) 何?

政治) 連盟!

松澤一鶴) 大日本水上競技連盟だね!

政治) 違う! そう! …書こうか?

松澤) あっ、まーちゃん…。

 

五りん) 松澤一鶴、通称カクさん。日本泳法

 の達人で、ここ、東京帝大水泳部のコーチ。

 

松澤) 連盟…。

政治) 名前なんていいんだよ!

 嘉納治五郎にぶん投げられた男だぞ俺は。

 おかげで箔が付いた。水連は立派な競技

 団体だ。これからは、選手選考も自分たち

 でやる。

3人) お~!

 

五りん) 新聞記者の仕事もそっちのけで、

 水連に入り浸るまーちゃん。

 

高石) ロン!

政治) 何!? 何…えっ?

高石) リューファー カン トン ホンイーソー。

政治) あっ…。

 

五りん) しかし夏以外は、選手も皆

 悶々とした日々を過ごします。

 

松澤) 野田、この動き、平泳ぎの訓練になるぞ。

野田一雄) そうですか…。

高石) ツモはクロール…。

政治) そんなことしてる場合か? くそ。次の

 大会、どこだっけ? あれあれだ、あの…。

松澤) アムステルダム。

政治) 違う! そう! だからプール! 一刻も

 早く、温水プールをあれせんと、勝っちゃん、

 あれだぞ、世界に勝てんぞ勝っちゃん…。

 勝っちゃん、200点お釣り早くして。

高石) 投げるから。

政治) 早く。

野田) アメリカは、

 大学に温水プールがあるそうですな。

野田) いいですよね~。

 冬はハワイに遠征に行くんでしょ?

(床に落ちた点棒を拾う、水泳代表高石勝男)

政治) どうした? 溝に挟まっちゃった?

高石) 何だ?これ。 何か、ある…。

政治) 何?

野田) 収納ですかね?

政治) えっ? ホホッ…。開けてみるか。

(床に四角形の蓋)

松澤) やめて下さいそんな!

 大学の施設ですよ! ちょっと…。

政治) 野田野田…ほらいけ。

 いくぞ、せ~の! よいしょ! 臭っ!

野田) おお…。

高石) はしごがありますよ。

政治) うん?

高石) はしごがある。

(人一人が通れるほどの四角い穴)

政治) 行け、野田。

松澤) ちょっと野田!

政治) 気を付けろよ。

野田) うわっ、臭っ! クモの巣が…。

(地下に降りていく野田)

野田) 船だ…。

政治) えっ?

野田) 船がありますよ!

(高石も降りる)

高石) 船だ!

松澤) おいおい…。

(政治も降りる)

政治) おいちょっと…。うわっ。

松澤) ちょっとまーちゃん? 

 まーちゃんちょっと…。

 

五りん) そこは帝国大学工学部の船舶

 実験用の水槽で、当時の学生は、

 タンクと呼んでいたようです。

 

政治) 見つけちゃったな、カクさん。

松澤) えっ?

政治) 何メートルあるかな?

松澤) えっ、まーちゃんまさか…。

政治) 20mは取れるじゃんね~。

松澤) えっ!? ちょっとまーちゃん…。

 臭っ! ああっ! くっさいな~。

 

**********

 

野口) 「陸連発足、体協から独立」。

 水泳は水連が、陸上は陸連が、

 選手を選考するとなると、我が体協

 の存在意義って、何なんでしょうね?

岸) 統括団体ってことになるだろうね。

野口) 統括団体…。

 

五りん) 当時体協は、銀座にある岸会長の

 弁護士事務所に間借りしておりました。

 

(事務所のガレージを見る野口)

野口) 卓球台でも置きましょうか?

岸) 何だね? 唐突に。

野口) あまりにも人が来ないんで。

 

**********

 

<朝日新聞社>

細田) 特ダネ、特ダネ、特ダネ…!

 普通選挙法の原文を借…借りてきました!

(どよめき)

細田) 12時までに戻す約束で借りてきたんです。

 

五りん) 普通選挙法の成立は、

 当時の国民の一大関心事でした。

 

緒方) よし、とにかく、手分けして書き写そう。

一同) はい!

緒方) おい、政治部、号外だすぞ。

 

五りん) 法案の中身をどこよりも早くスクープ

 しようと、新聞各社はしのぎを削ったのです。

 

河野) 書きました!

政治) か…書きました!

緒方) おい…おいおい、

 この、第五条書いたの誰だ?

政治) 田畑です。

緒方) だろうな。1文字目から読めん。

政治) えっ?

緒方) これ何だ?

政治) 「文」ですか? いやいや…「又」?

 いや…「夫」か? いや、書き直します。

緒方) いや、書かんでいい。

 おい、これ、誰か代わってやれ。

政治) 田畑が…田畑が書きます。

緒方) 書くな! 書くな。

 頼むから書かんでくれ。

河野) 河野が!

緒方) 今日は、時間がない。すまん。

(河野をのぞきこむ政治)

緒方) 田畑!

政治) はい。

 

五りん) この世紀のスクープにまーちゃんは、

 一切関係なかったのです。

 

**********

 

大正15(1926)年 12月

 

五りん) 仕事は大してできないが、

 どういうわけか上司に可愛がられた、

 河童のまーちゃん。

 

<日本橋のバー・ローズ>

政治) あっ!

緒方) おいおいおいおい。

政治) すいません。すいません。

緒方) すいませんママ。

(乱暴に落花生を出すママのマリー)

緒方) 頼むぞ、田畑。新聞の未来は、

 君たち若者に懸かってるんだからな。

政治) …って言ってる編集局長が、何で

 こんな場末のどぶ臭え店で、ウイスキー

 なめてんですか? ママも何かしょっぺえ

 女だし。

緒方) おい…。

政治) こういうところを変えてかないと、

 若者はついてきませんよ。

マリー) 緒方さんは、ここがいいの。

政治) 金欠ですか? おごりましょうか?

マリー) 特ダネでしょ? 験担いでんのよね。

政治) えっ?

ラジオ) 「お脈拍144…」。

マリー) 緒方さんはね、たまたま入ったこの

 店で、三浦梧楼先生にお会いしたのよ。

政治) えっ、三浦…? 

緒方) うん。

政治) 誰ですか? 

マリー) 枢密院の大物よ! あそこの席でね。

 

(回想・明治44年)

三浦) 外交の要は、満州だよ、君。

緒方) 問題はその舵を、誰が取るのか

 ということではないでしょうか?

三浦) ここだけの話だがね…。

 

緒方) 若造だったが、臆することなく、

 日本の将来を論じ合ったよ。翌年、明治

 天皇の崩御に際して、新聞各社は、次

 の元号が何に決まるのか、取材合戦を

 始めた。私は、一か八かね、三浦先生

 の自宅で張ってたんだ。すると先生が、

 車に乗せてくれてね。

 

(回想)

三浦) 「明治」の次は、「大正」だよ。

緒方) えっ…どうして私に?

三浦) 君は日本橋のバーで話したこと

 を一切新聞に書かなかった。だから

 見込みがあると思ったからさ。

 

政治) あっ!

緒方) ハハハ…。

(その時の号外を掲げるマリー)

政治) えっ…ワオ。

 

**********

 

志ん生) こいつはいいこと聞いたぞってんで、

 まーちゃん年の暮れに、一か八か日本橋の、

 どぶ臭えバー、ローズに行ってみた。

 「こんばんは、こんばんは!」。

 

政治) はいこんばんは!

マリー) おにいさん、もう閉店だよ。

政治) いや、そこを何とかお願いしますよ!

 私は、三浦って人に用があるんです。

 その方とおしゃべりをしてね…いや、記事

 には書かないよ。そうすると…。

 

志ん生) 「お前さんなかなか

 見込みがあるね」ってんで…。

 

政治) 「『大正』の次は」…。

 

志ん生) 「何とかだよ」って。

 

政治) こっそり教えてくれるって寸法だ!

 やい、出てこい三浦!

マリー) 何言ってんの、三浦先生は

 とっくに鬼籍に入られたのよ。

 お亡くなりになったの。

政治) えっ? じゃあ、「大正」の

 次の元号は、誰に聞けば…?

マリー) そこに書いてあるよ。

政治) どれ? どれ?

マリー) さっき日日新報の記者が電話借りに

 来てさ、新しい元号が…まあ、どうとか言い

 ながらそこのコースターに走り書きしてた。

(コースターを手に取る政治)

政治) 「光文」!? よっし、もらった!

 

志ん生) 「『大正』の次は「光文』だ」ってんで

 駆け出そうとした、まーちゃんの腕を、

 ママが、ぐいっとつかんで…。

 

マリー) 手相、見てあげる。

政治) 結構です。急いでます。

マリー) いいから座って。

 私の占い、すっごく当たるんだから。

政治) えっ?

マリー) ほら。

政治) ねえママ、急いでよ。ねっ?

 よそに抜かれちゃうから、早くして。

マリー) あら? 

政治) 何?

マリー) あらあら…。

政治) どうした? えっ?

マリー) まあ…。

政治) 何?

マリー) とっても…いい手相。

政治) 嘘言っちゃいけない。泣いてるじゃない。

マリー) 行きなよ、早く! 特ダネなんだろ!?

政治) いやいや…気になるよ! 言ってくれよ!

 泣いてるじゃない。ねえ。出世は約束されてる。

 多少の不幸は覚悟するよ。何?

マリー) 30で、死ぬと出ています。

政治) あっ…。何で知ってんの?

マリー) えっ? 何を?

政治) 待て待て待て待て…待って。えっ30?

 何で? 田畑家が、代々男が早死にする

 家系だって言った? 言ってないよ~!

マリー) 遺伝じゃ、しょうがないよ。

 私の責任は、軽くなったよ~。

政治) じいさんが55。親父が43で俺が30!?

 

**********

 

(通りを行く政治)

(人々が街灯ラジオを囲んでいる)

ラジオ) 「天皇陛下、今12月25日、午前1時25分、

 葉山御用邸において、崩御あらせらる。陛下は、

 6000万国民が…」。

政治) 30…30って…。

 あと2年しかないじゃんね~。

(日本橋から川を見下ろす政治)

(川面から顔を上げ、歩き出す政治)

(欄干に、政治の手の跡)

 

**********

 

<新聞社>

政治) えっ? 何、何? どうしたの?

男性) 号外! 日日が号外出すらしい。

政治) あっ! あっ…しまった。

緒方) おいおいおい、政府筋からの情報まだか? 

 こんだけそろって、誰もつかまえられんのか。

男性) すいません!

緒方) おい、政治部。

 号外どころか朝刊も間に合わんぞこれ。

政治) あの…。

緒方) 何だ? お前何か知ってんのか?

政治) あれ? あれ? いや…あっ…。

 

志ん生) 「え~っと何だっけな? え~っと…漢字

 が2つだよな。うん、2つ。『余命』、余命、違うな

 これな。『寿命』…。あのババアが30で死ぬとか

 変なこと言うからおめえ、こっちはおめえ忘れち

 ゃったよ。落ち着け。落ち着いて漢字2つ。『浜松』

 …あっ、土地になっちゃったな。何かねえかな? 

 え~っと…あっ、「光』って字がいた。こう、こう…

 こうもん…肛門元年」。

 

政治) ハハッ。

 

志ん生) 「何だ変だなこれ」。

 

緒方) おいどうした? 田畑。

 何か知ってるなら早く言え。

 

志ん生) 「一か八か言ってみるか」。

 

政治) (せき払い)こう…。

河野) 「光文」です! 「光る文」と書いて「光文」!

政治) 危ねえ…。

河野) 日日の号外です。

 新橋の駅前に売ってました。

男性) 「光文」か…朝刊今なら間に合うぞ。

河野) 刷れ刷れ刷れ刷れ!

緒方) おい待て待て待て待て待て。

 これ間違いだったらどうするんだよ。

河野) 出遅れたら、いい笑いものです。

緒方) いや~どのみち1着は逃した。

 うちは正確さで勝負する。裏が取れる

 まで、元号に関する、記事は出さん。

政治) はい。

 

志ん生) 緒方の、この判断は、

 吉と出ました。新元号は、「昭和」。

 

マリー) 昭和? 昭和…。

 

志ん生) 「光文」は、誤報だったんです。

 この元号騒動にも、まーちゃんは、

 一切関係ありませんでした。

 

**********

 

昭和2(1927)年

 

ラジオ) 「しかしあれですな、お殿様は何で…」。

 

志ん生) え~昭和を迎え、震災復興は進んでも、

 私ら庶民の暮らしは、一向によくなりません。

 

(荷物と美津子を乗せた大八車を押すおりん)

りん) あら落語?

(街灯ラジオから流れる落語)

りん) おとうちゃ~ん、

 ラジオで落語しゃべってるよ。

孝蔵) うるっせえな、聞こえてるよ!

りん) おとうちゃん、どうやったら

 ラジオに出られるんだろうね?

 

**********

 

<高座・(落語・火焔太鼓)>

孝蔵) 「俺だ。今帰ってきた。あの太鼓な、

 300両、300両で売れたんだ、あの太鼓がよ!」。

 「ふ~ん。本当に売れたの? じゃあ、ここに出せ。

 見せろ。…やい!」。「脅かすなこの野郎。この

 金見やがっててめえ、座り小便してバカになって

 ひでえ目に遭わせんぞコンチクショー。いいか?

 これが小判で、50両だ」。「まあ、あんた!」。

政治) あれ? あんた朝太か?

孝蔵) 「これで、100両だ、100両、150両だ」。

政治) ハハッ、何だ志ん馬ってえから気付かな

 かった。へえ~真打になったの? よくなれた

 もんだねえ。「火焔太鼓」なんかやっちゃって。

孝蔵) 「200両だ!」。

政治) おい…俺だよ俺。

孝蔵) 何だい!?

政治) 勝鬨亭の、お茶子んもまーちゃん。

 河童のまーちゃん。

孝蔵) 何言ってんだこの野郎。

男性) 座って下さい。

孝蔵) 「これで250両、残りの50両で、300両だ!」。

政治・孝蔵) 「水ちょうだ~い!」

(笑い声)

孝蔵) 「ざまあ見やがれこの野郎!」

政治) 「俺もね、そこで水飲んだの」。

 あっ! 300両で思い出した。あんた…

 あんた財布盗ったろ、弁天橋で。ええ?

 おい、返せバカ野郎め!

男性) お客さん、座って!

孝蔵) 「当たりめえだこの野郎。

 半鐘買ってたたいちゃわ」。

政治) 「半鐘はいけないよ、おじゃんになるから」。

客) おっ!

(拍手)

政治) っておじゃんにされてたまるかよ!

 財布泥棒! 待て財布泥棒! 財布泥棒! 

 待て! 朝太!

男性) 座って!

政治) 待て財布泥棒!

(笑い声)

 

**********

 

<体協本部>

(卓球をしている野口と岸)

岸) 卓球台置いたら、可児が来たよ。

可児) …で、協賛金集まりました?

 

**********

 

<内務大臣室前>

治五郎) 融資の件で貴族院議員の

 嘉納が来たと言えば分かる!

 

**********

 

<体協本部>

可児) 嘉納先生、アムスは選手60人

 連れていくって言ってましたよ。

野口) えっ!?

 

**********

 

<内務大臣室前>

男性) オリンピックの件ならもう

 お話しすることはないと…。

治五郎) オリンピックの件でなければ、

 誰がこんなとこ来るか!

 

一年後に迫った、

アムステルダムオリンピックの

招待状が届いたのです。

 

**********

 

<水連本部>

政治) おい、みんな…みんな~! 

 おい…。IOCから招待状が届い…。

 どうした? 何やってんの? えっ?

(水が流れる音)

政治) 何? 何これ…。な…何~?

(地下の船舶実験場を見る政治)

松澤) まーちゃん!

政治) 何?

(地下に降りる政治)

政治) どうしたのこれ!

松澤) どうしたもこうしたも、

 まーちゃんが造れって言うから。

政治) 言った? 言ってないよ~!

松澤) 遅いですよもう、出来ちゃったんだから~!

高石) 出来ちゃったんだから!

(プールに飛び込む高石)

政治) かっこいい! 勝っちゃん! アハハハ!

 いけいけ~みんな! 勝っちゃんいけ!

 いけいけ勝っちゃん! 泳げ!

松澤) お~い!

政治) 冷たっ! えっ? ちょっと待って。冷たっ。

 カクさん、これ、夏以外はどうするんだ?

松澤) よく見て下さいよまーちゃん。

野田) 医学部病棟のスチーム引き込んでますから。

 冬は、温水プール…熱い! なります。

 つまり、1年中練習できますよ~!

政治) アハハハハ! おっ!

(プールに飛び込む野田)

政治) カクさん!

松澤) はい。

政治) 君って男は…。でかした! 

(松澤をハグする政治)

松澤) アハハ!

政治) ありがとう!

(松澤をプールに突き落とす政治)

松澤) イエ~イ!

政治) よ~し、お前たち全員、

 オリンピックに連れてくぞ~!

(歓声)

政治) 泳げ泳げ~! かけかけかけ! かけ!

 よいしょ~よいしょ~よいしょ~!

 

**********

 

<体協本部>

政治) あ~いたいたいたいた。岸さん、岸さん、

 水連のエントリー、12人でお願いします。

 ねえ、岸さん、岸さん。

野口) 分かった分かった。ちょっと待て。

河野) どうしても12…。

政治) どうしても12人でお願いします!

河野) ちょっと待て! 水連が12人なら、

 陸連は15人! これは譲れん!

政治) 何? だったら水連は18、いや20人だ!

岸) もう~勝手にやってくれ。

河野) 勝手にやるために陸連を作ったんだ!

男性) そうですよ!

岸) だったら、金も自分で集めてきたらどうだ。

 えっ? 渡航費、国からぶんどってきたら、

 20人でも30人でも、連れていくさ。

野口) そうだ!

政治) 上等だバカ野郎め!

野口) 貴様…!

(逃げていく政治)

 

**********

 

<新聞社>

緒方) おい。河野どうした?

男性) あっ、出てます。陸連に用事で。

緒方) 田畑は?

男性) 水連です。

緒方) あいつら…。

 運動部にすっ飛ばすぞ、もう

男性) 河野さん、お電話です。

電・緒方) はいもしもし。

電・是清) あんたんとこの若い者が、

 来とるんだがね…。

電・緒方) ハハ…せわしないのですか?

 暑苦しいのですか?

政治) 熱っ! あっつ…あっつ…。

電・是清) せわしない。

電・緒方) あ~じゃあ、田畑ですね。

 かわいがってあげて下さい。

 失礼ですけど、どちら様で?

電・是清) 高橋是清だ。

電・緒方) えっ? 

 あっ…いや、これはこれは、是清先生。

 おっしゃるとおり、つまみ出して下さい。

電・是清) 分かった。

 

**********

 

<体協本部>

治五郎) これは、極論だがね、
 初心にかえったらどうだろう? 
野口) 初心に?
可児) それは、個人負担という意味ですか?
治五郎) うん。金栗君や、三島君のように、
 誰の援助も受けずに、自腹で参加した方が、
 かえって、身軽でいいんじゃないか?
岸) ハハッ、お話になりませんな。
可児) 私は賛成です。
 初心にかえる、大いに結構!
野口) ちょっとあんた黙っててくれ!
可児) 明治、大正、昭和…時代をまたいで
 僕らはいつも金がない! ハハハ。
 毎度おなじみの光景で、結構ですな!
治五郎) じゃあいっそやめるか?
可児) えっ?
治五郎) オリンピック出るのやめよう。なっ?
 どうせ勝てない。勝てなきゃ文句言われん
 のは体協だ。もうやっとれん! 震災不況の
 折、オリンピックなどと、浮かれている場合
 ではないだと!? 冗談じゃない! 浮かれ
 たことなど一度もないよ! 常に真剣、必死
 だよ。ケツに火をともすような思いで…。
野口) ケツじゃない! 爪です。
治五郎) もう火だるまだよ!  
 もうやめたやめた! 何が平和の祭典だ。
(ドアを叩く音)
政治) ごめんください!
治五郎) 開いてるよ! 誰だ!?

孝蔵) 「俺だ! 今帰ってきた! ハァ…あの
 太鼓がよ、300両。300両で売れたんだあの
 太鼓がよ」。「ふ~ん。本当に売れたの?
 …やい!」。「脅かすなこの野郎。この金見
 やがっててめえ、座り小便してバカになっ
 てひでえ目に遭わしてやがるこの野郎」。

政治) この金見て、
 座り小便してバカになんなよ。
治五郎) 何を言ってるんだ?
政治) 国から、水連に補助金が出たんですよ。
治五郎) 何?
政治) ただ、ちょっと頂き過ぎちゃったんで、
 お裾分けに来ました。
岸) フッ…そんなバカな…ハハハハ。
政治) はい。
(札束を渡す政治)
岸) うわっ!
政治) はい。
治五郎) おっ…。
政治) 水連と陸連で、6、4でどうです?

孝蔵) 「いいかい? 50両ずつ見せてやる
 からな。これが小判で、50両だ!」。

政治) はい5000円。
岸) ああ…。
政治) はい、1万円。1万5000。2万。
治五郎) み、み、み…水くれ。
政治) 俺もそこで水飲んだ。フフッ。」
 水ちょうだ~い!

孝蔵) 「水ちょうだ~い!」。「ざまあ見やがれ
 コンチクショー。俺もそこで、水飲んだんだ」。
 「まあ、お前さん何だね…」。

政治) 2万5000。

孝蔵) 「太鼓儲かったね」。

政治) 3万円。

孝蔵) 「当たり前だ、太鼓儲かった。

政治) 4万円!

孝蔵) 「これからお前さん何だよ…」。

政治) 5万円!

孝蔵) 「音の出るもんに限るよ」。「当たりめえだい」。

政治) 半鐘はいけないよ。
 おじゃんになっちゃいますからね。

孝蔵) いや…早いって!

政治) はい! 締めて6万円。
 オリンピックの特別予算です。
岸) 貴様…こんな大金どこで?
政治) そんなの話してる暇ないですよ。
 私、30で死ぬんだから。
野口) 答えろ豆タンク!
政治) 若者のために使うと言ったらくれました。
治五郎) 誰が?
(自慢げに微笑む政治)
政治) 高橋是清。

 

**********

 

<屋敷の応接室>

(せわしなく控える政治を、

 静かに見る大蔵大臣。高橋是清)

 

**********

 

そう!違~う!もしくは違~う!そう!が口癖!?

せわしない、じっとしていられない男、まーちゃん。

主人公が…そして物語の色が鮮やかに変わった。

コツコツと寡黙に走り続けた四三に対して、常にエ

ネルギッシュにちょこまかと動き続ける政治の図。

いいね~面白い。実に面白い。ワクワクしてきたよ。

最後にかっけえショーケンが見られて、嬉しいよ!

 


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