大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」第11回~百年の孤独 | 日々のダダ漏れ

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大河ドラマ 
「いだてん~東京オリムピック噺~
 



第11回~百年の孤独

 

 

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「日々のダダ漏れ」

 

 

昭和35年(1960)

<東京都知事室>

 

岩田) ありました!

田畑) 何!? 本当にあったか!

岩田) はい。これで間違いないと思います。

田畑) 「1912 瑞典(スウェーデン)

 ストックホルム オリムピック記錄映畫」。

 ハハハハハ…これだこれだ。

 やったな岩ちん!

岩田) 黒沢さんに知らせましょう。

東) しかし、日本人が初めてオリンピック

 に出た時の開会式が見たいとはさすが

 言うことが違うねえ。

田畑) 当たり前だよ。天下の黒沢明だぞ。

東) カット!

 

志ん生) あっ、そうそう、黒沢さんって有名

 な映画監督が、東京五輪の記録映画撮る

 って、この間新聞で、発表になりましたな。

 まあどうなるかは、分かりませんが、しかし

 何だってそんな、開会式なんか見たがるん

 でしょうかね。例によって、時計を明治まで

 巻き戻してみましょう。

 

**********

 

昭和45年(1912)6月23日)

<ストックホルム>

内田) 事務局から、プラカードの

 表記についての問い合わせが。

治五郎) 表記?

四三) 「日本」でお願いします。

治五郎) うん?

四三) 日本は日本です。

 そのまま、「日本」と書くべきです。

 そうでなければ、おるは出ません!

大森) 西洋人に漢字は読めんよ、君。

弥彦) そうだよ。ここは、英語で

 「JAPAN」が無難だろう。

四三) ばってん、それは英国人が勝手

 に付けらした呼び名ばい。日本人が

 日本のことば、な~しそぎゃんヘンテ

 コな名前で呼ばにゃいかんとですか。

弥彦) しかしだね、金栗君、

 日本は初参加なのだよ。

四三) だからこそ、

 正式に、「日本」と書くべきです。

大森) 読めなきゃ意味がないんだよ!

 東洋の日本が、国際大会に参加するこ

 とを世界に知らせる必要があるんだよ。

四三) ばってん「JAPAN」じゃ

 奮い立たんとです!

弥彦) まあ…うん…。金栗(かなぐり)君

 の気持ちも、分からんでも…。

四三) 金栗(かなぐり)じゃなか!

 俺は金栗(かなくり)ばい!

治五郎) どうした? 日本を出る時には

 みんな、仲よくやってたじゃないか。

 一体何があったんだよ。

安仁子) ひと言では、語られないよ。

治五郎) おいおい…開幕まで、

 あと1週間しかないんだぞ。

弥彦) あんたのせいだよ。

治五郎) えっ?

弥彦) 12秒12秒12秒!

 あんたが記録のことばかり言うから、

 俺は一度押し潰されたんだ!

 今頃来て、勝手なことばかり

 言いなさんなよ嘉納さんよ! わっ!

(治五郎に背負い投げされる弥彦)

内田) ちょ…大丈夫かね?

四三) 「日本」でなければ、

 俺は辞退します。すいまっせん。

 俺は頑固な肥後もっこすだけん。

 ばってん、プラカードば持って

 歩くとはこんおるです! 「JAPAN」なら

 俺は、やめさせてもらいますけん。

治五郎) (ため息)

弥彦) だったら、僕も辞退しよう!

治五郎) 三島君まで何を…。

弥彦) 僕と金栗君は、戦友だ。国の名前

 が違えば、共に戦うことはできません。

安仁子) 頑固な肥後もっこす!

四三) 思えば、九州の山奥から東京に出て、

 その東京ば出て、大陸に渡り1か月。こぎ

 ゃ~ん晴れ舞台に、立つなど、考えもせ

 んかったです。ばってん…くじけそうになっ

 たつも、一度や二度じゃなか。そぎゃん時、

 おるは、日本の…熊本の…東京高師の

 面々の顔ば思い出して乗り越えました。

 西洋人ば、悪く言うつもりはこれっぽっち

 もなか。ばってん、「JAPAN」では対等に

 戦えんとです。

大森) しかし、漢字で「日本」では、君が

 日本人であることも伝わらないんだぞ。

 それでいいのか? いいのかそれで!?

四三) 構わんです。

 おるは、ジャパン人じゃなか。日本人です。

大森) 嘉納先生…。

治五郎) 頼もしい!

弥彦) えっ?

治五郎) はじめは驚いたよ。私が遅れてき

 たせいで、君たちの気持ちがバラバラにな

 ってしまったのかと。いやそうじゃない。互

 いに認め合ってるからこそ、自分の意見を、

 遠慮無くぶつけ合える。これぞ、相互理解。

 私の不在が、君たちに成長を促した!

安仁子) フフフ。

治五郎) 遅れてきて、大正解!

 ハハハハハ…!

安仁子) フフッ。

内田) …であの…

 プラカードの、表記の方は?

治五郎) 双方一理。

 

**********

 

明治45年(1912)7月6日

<ストックホルムオリンピック開会式>

 

志ん生) 結果は後ほど。

 さ~て、7月6日は、風一つない快晴なり。

 スタジアムの横の広場には、初参加の

 日本選手も加えて、28か国、3000人の

 代表が集まった。

 

**********

 

<ロッカールーム>

(ユニフォーム姿(胸に日の丸)の四三と弥彦)

(肘をくの字に曲げ、胸の前でぐいっと力こぶ

 作って見せ合い、力強く握手する2人)

 

**********

 

<オリンピックスタジアム>

(プラカードを持った四三と国旗を持った弥彦)

 

内田) 嘉納先生、お見えになりました。

田島錦治) あ~どうも、

 ご無沙汰しております、嘉納先生。

治五郎) すまんね、ご足労願って。

田島) いえいえ。なんか、私なんかが

 加わっていいものか。

治五郎) 問題ないよ。

 日本人じゃないのも交じってるから。

ダニエル) (英)大丈夫かな、バレないかな。

弥彦) (英)大丈夫、遠目には分からんから。

大森) オーケー、安仁子。

安仁子) うん?

大森) (英)三島君と金栗君を撮るんだ。

 シャッターは早めに押すんだぞ。

安仁子) (英)わかってるわよ。

田島) おい君、足袋で歩くのかね?

四三) はい。

田島) 笑われるよ。

 (プラカードを見て)しかも何だね? これ。

 「JAPAN」じゃないのかね。イタリアの次

 だぞ? 「I」の次は「J」だよ、「JAPAN」。

弥彦) いいんです、これで。

(頷きあう四三と弥彦)

 

**********

 

午前10時半。

アルファベット順に整列した各国選手団は、

大スタンドを埋める2万人の拍手に迎えられ、

いよいよ、堂々の入場行進です。

 

(各国のカメラマンに交じり、

 スタンドに立つ安仁子)

(進行方向に向かって左に四三、右に弥彦)

(イタリア選手団に続きゲートをくぐる一同)

(拍手と歓声)

安仁子) ワ~!

 フォーティースリー! 弥彦~!

 

「一九一二年七月六日。快晴、快便。

ストックホルムオリムピック、開会式。

三島君が旗を持ち、

私が標識をささげて立てば、

あとに従う選手なし。

たった2人の入場行進」

 

安仁子) キャ~! ハハッ、ニッポン!

 ニッポ~ン!

 

(回想)

治五郎) ローマ字で、「NIPPON」。

 表記は、N I P P O N。NIPPON!

 これなら観客も、外国人選手も皆、

 日本の本当の呼び名を分かって

 くれるはずだ。

大森) いいでしょう。

四三) よかです。

治五郎) よし! みんなで、笑って歩こう。

 

安仁子) ニッポン…ニッポン!

 ニッポン! ニッポン! ニッポン!

観客) ニッポン! ニッポン!

 

「観客席から、『ニッポン! ニッポン!』

の声、起こる。生きた心地なし」

 

**********

 

1960年

(ストックホルムオリンピック開会式の

 映像を見ている東、田畑、岩田)

一同) おお~!

(拍手)

田畑) 無声映画だね。

東) そりゃそうだろ明治45年だよ。

田畑) 今じゃ、カラーテレビの時代

 だもんね。へへへへ…。

岩田) 日章旗を持ってるのが三島弥彦

 選手。…で、プラカードが、金栗四三

 選手だそうです。

東) おっ、イタリア来たぞ。次だ、次。

 あっ来た!

田畑) 熱っ…!

岩田) あれ? 飛んだ? えっ、これだけ?

 嘉納先生いました?

田畑) ちょちょ…ちょっと待ってくれ。

 タバコ逆にくわえて見てなかった。

 さっきのもう一回、もう一回。

岩田) あ~分かりました。

 

志ん生) 日本人が初めてオリンピック

 の大舞台に出た、歴史的瞬間。

 たったこれしか残ってないそうです。

 金栗さん、フレームから切れちゃって

 るし、公式な写真も残ってるんですが、

 せっかくの、「NIPPON」、旗で隠れちゃ

 って、金栗さん、写ってないんですよ。

 

(カメラを手に、トラックに入る安仁子)

 

志ん生) 片や安仁子が撮った写真は、

 というと…。三島君が写ってない。

 もうしょうがねえ。とっとと競技に移り

 ましょう。男子100m走、予選です。

 クックックックッ…。

 

**********

 

<スタジアム>

田島) あっ、出てきましたよ。

 でかいな、西洋人は。

(双眼鏡をのぞいている田島)

治五郎) この席は、誰が取ったのかね?

内田) 私が、ひと月前に手配致しました。

治五郎) 遠いよ!

内田) えっ?

治五郎) これじゃどれが

 三島君か分からんよ。

内田) でも開会式は、

 見やすかったですよね。

治五郎) 見てないよ。見れんだろ、

 開会式は歩いてるんだから。

内田) あっ…そうでしたな。

治五郎) 三島君は、何組目だね?

内田) いや、あの…。

田島) あれは三島君?

四三) えっ、三島さん?

田島) いや、チリの選手だ。

 あっ、フィンランド? ああ、チリ。

 

**********

 

<ロッカールーム>

(シューズの紐を結んでいる弥彦)

 

**********

 

(100m走が行われているトラックから

 一番遠いスタンドに四三たち)

四三) 速か…速かですね。

 おんなじ人間とは思えんばい。

 

**********

 

田島) やはりおじけづいて、

 棄権したのかな?

四三) いや、三島さんはやります!

 必ずやってくれっとですよ。

 

**********

 

<千駄ヶ谷 三島邸>

シマ) 奥様、大変です! 奥様…。

 

それは弥彦が、3週間前に

投函した、絵葉書でした。

 

葉書・弥彦) 「拝啓、シマよ。

 俺はもう、何もかも嫌になった。戦意喪失。

 西洋人の脅威におびえるばかりで、とても

 走る気になれぬ。母上、兄上、これが最後

 の便りになるかもしれません。短い人生で

 したが、弥彦は…」。

弥太郎) 今すぐ帰ってくるよう、スウェー

 デン大使に、電報を打ちましょう。おい。

 

**********

 

<ロッカールーム>

大森) たった一人で、外国人相手に

 戦争を仕掛けようって顔だな。

 三島君、短距離はね、

 タイムを競い合う競技だ。

 つまり、敵はタイムのみ。

 一緒に走る選手のことは、ライバル

 ではなく、タイムという同じ敵に立ち

 向かう、同志と思いたまえ。

弥彦) ありがとうございます、監督。

大森) 楽になったかね?

弥彦) はい。もっと早く言ってもらえたら、

 もっと楽になったと思います。せめて

 3週間前に言ってくれたら。

 

**********

 

<三島邸>

和歌子) ハハハハハ! 心配せんでよか。

 「弥彦は勝ちます。薩摩隼人の底力見せ

 てやります」。そう書いて、あるじゃろが。

弥太郎) いや、だって、母上は、字が…。

和歌子) 字など読めなくとも、息子の

 本心は分かります。弥彦は必ず勝つ!

 

**********

 

<ロッカールーム>

大森) おっ、行くのかね?

弥彦) はい! よ~し!

 

**********

 

葉書・弥彦) 「これが最後の便りになる

 かもしれません。短い人生でしたが、

 弥彦は、三島家の誇りのために、

 命を賭します」。

 

**********

 

<スタジアム>

四三) あっ、来た…来た!

 来た来た来た来た!

 三島さ~ん! 三島さ~ん!

治五郎) ああ、間違いない、三島君だ!

四三) 遠か~もう!

大森) (英)敵はタイムのみ

(ストップウォッチを握る大森)

(ユニフォームの日の丸を握る四三)

 

「ああ、神よ、神よ。

無神論者でも物質論者でもこの瞬間、

祈らずにいられようか。

どうか、我が友に勝利を」

 

(号砲)

四三) 三島さん! 三島さん、いけ!

治五郎) いけいけいけいけ…。

四三) 三島さん、そこから!

 そこからそこから! 三島さん!

ダニエル) (ス)え、もう終わり!?

田島) ビリですか。

治五郎) いや…しかし…

 立派な走りだった。うん、立派!

安仁子) ヒョウ。

(弥彦に駆け寄る大森)

大森) エクスキューズミー。

(ストップウォッチを掲げる大森)

四三) えっ?

(双眼鏡をのぞく四三)

四三) 笑っとります。

治五郎) 何?

四三) あっ…三島さん、笑ってます!

 笑ってます。行きましょう!

治五郎) よっしゃ!

 

**********

 

<ロッカールーム>

大森) おめでとう。

弥彦) ありがとうございます。

四三) 三島さん!

弥彦) やあ、金栗君!

治五郎) ご苦労さん! よくやった。

 私の記録、11秒8だそうです。

 12秒切りました。負けはしましたが、

 自分の最高記録を出したんだから、

 成功だと思っています。これから、

 いかにして世界レベルに追いつくか

 ですね。

治五郎) うん! 

 そうだそうだ、その意気だ!

大森) 実に、立派だったよ、三島君。

弥彦) ありがとうございます。

安仁子) ヒョウ。

大森) オー マイ ラブ。

(握手をし、抱き合う弥彦と四三)

弥彦) 金栗君…やはり日本人には、

 短距離は無理なようだ。

四三) えっ?

弥彦) 君に懸かっている。頼んだよ。

四三) えっ…ばってん、まだ、200と400が。

弥彦) お~安仁子、サンキュー。

 

**********

 

「この日を境に、大森氏の病状は悪化す。

宿舎には、ナマリ色の重い空気、漂う。

三島さんは4日後、200m走の予選に

出場するも、やはり惨敗」

 

**********

 

<東京・浅草>

(弥彦の新聞記事を読んでいる円喬)

円喬) フン。わざわざスウェーデン

 まで出向いてかけっことは…。

 (せきこみ)いいご身分でげすな。

先輩噺家) 花魁、そんなこと言って

 うそじゃないんでしょうね?

孝蔵) 師匠、あたしと同じ名前の

 噺家がいますよ。

円喬) ああ、そうかい。

孝蔵) 見て下さいよ。「三遊亭朝太」って。

円喬) ああ、それ、君だよ。

孝蔵) えっ?

円喬) 私が席亭に頼んで入れて

 もらたんだよ。(せきこみ)

 まずかったかい?

孝蔵) えっ、でも、まだ、小ばなしの

 一つも伺ってねえですし。

円喬) できるよ。君には、何かあるから。

孝蔵) えっ…何か?

先輩噺家) はいお疲れさん。

円喬) ちょいと兄さん。いけませんなあ、

 あそこんとこああいうふうにやっちゃあ。

先輩噺家) あ~分かってるよ。

円喬) 分かってねえから言ってんだよ。

 吉原にあんなゲスな女郎がいるかい!

孝蔵) 師匠、出番です。もう、太鼓が。

円喬) じじい!

先輩噺家) はい分かったよ!

 

志ん生) そんなわけで、初高座の日取り

 が決まっちまった。師匠の高座ぶりって

 えのは、きちんと座布団に座ってね…。

 懐から、小菊の紙を1枚抜いて、2つに

 折って、チ~ンとはなかんで、鼻の下を、

 ひょいとこすって、座布団の下に入れる。

 そしたら、九谷焼の湯飲みを、押し頂い

 て…。飲むんじゃねえ。喉湿らせるんだ。

 でもって、さびた声で…。

 

円喬) え~まだ、

 江戸と申しました時分に…。

 

**********

 

(神社の境内に孝蔵)

孝蔵) え~まだ、江戸と申しました

 時分に…。駄目だな。

 

志ん生) 九谷焼の湯飲みを

 押し頂いて、飲む。

 

清さん) 駄目だろ、飲んじゃ。

孝蔵) バカ野郎、分かってんだよ。気ばっ

 かり…焦っちまってよ。それならいっその

 こと、一杯でもかっ食らっちまった方が力

 抜けていいあんばいになるかと思ったら、

 これだ。へべのレケだ。へへへ。

女性) 孝ちゃん、お久~。

孝蔵) よし! あ~行こう行こう行こう。

清さん) 今日はいいんだ。

 今日はいいんだ。今日はいいんだ。

女性) 何よ野暮~。

孝蔵) これがへぼなわけじゃねえから。

清さん) おい孝ちゃん、初高座はいつだい?

孝蔵) うん? 下席だから、あ~16日か。

清さん) 小梅誘って見に行くからよ。

 おい、今度はしくじんなよ。

 しくじんなよ。ヘヘッ。

 

**********

 

志ん生) え~何事も初めてってのは、要ら

 ぬ力が入っちまうもんで、飲んじゃうやつ

 もいれば、こんなことするやつもいて。

 

**********

 

マラソンレース3日前

 

治五郎) あっ、金栗君、

 何をしておるんだね?

四三) 押し花ば、しとります。

治五郎) 押し花? フフッ。

 大丈夫か? 君。外へ出たまえ外へ。

 北欧の空気を吸って、元気を出せ。

(小さな花を両手で持ち、

 そっと匂いを嗅ぐ四三)

四三) 午前中…スタジアムばのぞきに行

 きました。大歓声ば聞いとると、あん旗

 ざおに日の丸ば揚げんといかんと思って、

 焦って、モヤモヤして。気ば静めるため、

 押し花ばしとります。

治五郎) 金栗君…オリンピックに出る

 ことで、君が過重の責任を負うことは

 一切ないんだ。国民の期待など考えず、

 伸び伸びと、やりたまえ。

四三) はい。

 

**********

 

(マラソンコースを走る四三)

(他の外国人選手も練習をしている)

ラザロ) ア~!

四三) あっ。ハーイ、ラザロ!

 カーペンター!

(脇目もふらず走るラザロ)

ラザロ) アア~! ハ~!

 

(回想)

大森) 負けたら切腹らしい。

 

**********

 

<ホテル>

(弥彦の部屋の前に立ち、ノックする四三)

四三) 金栗です。

弥彦) 入りたまえ。

四三) 失礼します。ばっ!

弥彦) あっ、すまん。

 たまには、上半身も、鍛えようと思ってね。

(ふんどし一丁で腕立てをしている弥彦)

四三) ああ…。あっ…明日、400mの、

 予選だけん、激励に来ました。

弥彦) うん、ありがとう。

四三) どぎゃんですか?

弥彦) 実に楽しみだね。

四三) 一つ、聞いてもよかですかね?

弥彦) 何だい?

四三) 100m走ったあと、

 三島さん、言いましたよね?

 

(回想)

弥彦) やはり日本人には、

 短距離は無理なようだ。

 

四三) あれは…どぎゃん意味ですか?

(バスルームで水を飲む弥彦)

弥彦) 見ただろう、僕のレース。

 完敗だよ。日本では、無敗の僕が、

 100も200も、最下位。圧倒的、敗北さ。

 明日も勝てるとは思っていない。

 でも…楽しみだ。

 明日も走れることが、僕は楽しいよ。

 こうなったら、徹底的に負けてやるさ。

 ハハハ。

(窓辺でガウンを着る弥彦)

四三) おるは駄目です。(ため息)

 な…何かこう…。モヤモヤした、モヤモヤ

 した何かが、ず~っと居座っとっとです。

 羽田は、10里の距離ば完走できるか、

 そんことで頭がいっぱいで、勝とうとか、

 オリンピックとか、考える余裕もなかった

 ですけん。

弥彦) 何も考えずに、走ればいいんだよ。

 金栗君、我々は、走ればよか。精一杯、

 やりさえすれば、それでよかっですよ。

 ハハハハハ…。

四三) それができんけん、つらかですよ!

弥彦) す…すまん。

四三) 何ね!? 人が真剣に悩んどっとに、

 熊本弁で、バカにして!

弥彦) 君が言ったんだけどね。

 

(回想)

四三) 我々は、走ればよか。精一杯

 やりさえすれば、それでよかっですよ。

 

四三) あれは…。

 あっ、あれは、短距離の話だけん。

 短距離と、長距離は、別だもんね。

弥彦) ああ…そうかい。

四三) そりゃあ、短距離ば12秒とか…

 400でも、せいぜい1分の勝負だけん、

 考えんでも走れるばい。ばってん

 こっちは、2時間以上ありますけん。

 考えてしまうばい。

 モヤモヤしたもんば、ずっと…。

弥彦) そのモヤモヤは君…

 プレッシャーだよ。西洋人はそれを、

 プレッシャーと呼ぶそうだ。

四三) プレ…プレッシャー?

弥彦) プレッシャー。

四三) こん…こん、モヤモヤは…プ…

 プレッシャー…プレッシャーですか?

 西洋人も、持っとっとですか? これば。

弥彦) うん。君だけじゃない。

 無論、僕も持っとる。

四三) そぎゃんですか…。はあ~…。

(ベッドに座り、仰向けになる四三)

四三) 正体さえ分かれば、

 こぎゃんもん…怖くなかです!

弥彦・四三) (笑)

四三) お邪魔しました!

弥彦) プレッシャーが大きいと、

 スランプに陥るからね。

四三) ス…スランプ?

弥彦) ハハハ…いや…うん、何でもない。

四三) スランプ?

弥彦) いやいやいや…。

 忘れてくれ。ハハハハ。

四三) ス…?

弥彦) 大丈夫だ金栗君。

(部屋から出される四三)

四三) スランプ?

 

**********

 

「七月十二日。

三島氏の最後のレース、

四百メートル予選、病気の大森氏に

代わって、コーチ役を仰せつかる」

 

弥彦) どうせなら、正面から撮ってくれよ。

四三) はい。

(カメラを受け取るネクタイ姿の四三)

弥彦) よっしゃ…うん。行ってくる!

(弥彦を目で追う四三。ゼッケン743)

 

**********

 

<男子400m予選>

男性) ナンバー 743 

 フロムジャパン ミシマ。

治五郎・田島) 三島君!

男性) レディー…。

田島) えっ、2人だけ?

 

なんと、5人中3人が、

直前に棄権したんだそうです。

2着までが予選通過なんで、わざわざ

走らなくてもいいようなもんですが。

 

男性) セット。

(号砲)

治五郎) よし! いいぞいいぞ! 三島君! 

 いいぞ、いけいけ! いけ、三島君!

四三) 三島さん!

治五郎) 三島君!

四三) 三島さん!

治五郎) いけいけ~! 

田島) 頑張れ~!

治五郎) よ~し、いいぞ!

四三) 三島さん!

(走る弥彦)

 

(回想)

弥彦) 僕は、勝ち負けにはこだわらない。

 むしろ僕は、一度くらい負けてみたいと

 思っている。

(回想)

治五郎) 世界の中心で、

 走ってみたいと思わんかね?

弥彦) 面白そうですね~。

(回想)

弥彦) 本当の僕は違う。もう限界だよ。

四三) 三島さん、我らの一歩は…

 日本人の一歩ばい!

 

(スウェーデンの選手が、弥彦を追い越す)

(カメラを手に、弥彦を見つめる四三)

(日の丸の正旗を振る治五郎)

(鬼の形相でゴールする弥彦)

 

四三) 三島さん!

田島) 結局ドベか。

治五郎) ドベでも2着だ! 予選通過!

(倒れ込む弥彦を支える四三)

治五郎) 56秒!

 三島君、よくやった!

 準決勝に残るとは、大したもんだ!

 日本スポーツの、記念すべき日だ!

田島) 次も頼むぞ。

弥彦) 次は…ないです。

 準決勝は、やめます。

田島) 棄権するのかね。

弥彦) 日本人に、短距離は無理です。

 100年かかっても…無理です。

治五郎) 三島君…。

弥彦) もう十分…走りました。察して下さい。

治五郎) 三島君。

(四三を見る弥彦)

弥彦) 撮れた?

四三) あっ…すんまっせん。そっが一枚も。

弥彦) もう走れ~ん! 勘弁してくれ!

四三) すんまっせん。

 三島さん…。楽しかったですか?

弥彦) ああ。

治五郎) 悔いはないのか?

弥彦) はい。

治五郎) ならばよし!

 準決勝は棄権しよう!

(弥彦と抱き合う四三)

四三) よか走りでした! お疲れさまです。

治五郎) よかったぞ…うん。

弥彦) ダニエル…テイク ア フォト…。

ダニエル) オフコース。

(全員で写真を撮る)

ダニエル) レディー?

(写真を撮る音)

弥彦) サンキュー。

四三) 帰りましょう。

弥彦) 足が痛いよ。

四三) ああ…。

(弥彦を肩で支える四三と治五郎)

治五郎) 大丈夫か?

 

**********

 

「七月十四日、快晴、快便」

 

四三) ひゃあ~!

 

「マラソン競技当日なり」

 

四三) ひゃあ~!

弥彦) 昨夜は眠れたかね?

四三) はい! ひゃあ~!

 うそです。白夜と、プレッシャーで。

弥彦) そうかい。

四三) モヤモヤして、頭がさえて、

 もういっちょん眠れんかったです。

 どう走ろうとか、どこでペースば上げ

 ようとか、ず~っと考えとりました。

 もうこうなったら、俺はとことん考え

 ます。考えて考えて…プレッシャーと、

 二人三脚で走ります。ひゃあ~!

 ばっ…三島さん? (笑)

(素っ裸で川に入ってくる弥彦)

弥彦) 一度、やってみたかったんだ。

 ひゃあ~!

四三) あっ!

弥彦) ハハハハハ!

四三) ひゃあ~!

弥彦) 気持ちいいね! ひゃあ~!

四三) 三島さん、400m、見事な走りでした。

弥彦) うん。ありがとう!

四三) がむしゃらな、鬼の形相、奮い立ち

 ました。俺も、三島さんのように、笑って

 ゴールばします。そっだけは決まってます。

 見とって下さい。

弥彦) うん。

(笑い声)

弥彦) 今日も暑いぞ~! ひゃあ~!

四三) ひゃあ~!

(笑い声)

 

**********

 

いよいよ、ストックオリンピックが始まった~!

プレッシャーという謎のモヤモヤ感と闘う我ら

が韋駄天四三くんの乙女っぽさときたらもうw

押し花をしている姿が、なんとも乙女っぽくて。

ヒーローというよりはヒロイン、しかも、本人は

大真面目なのが分かるだけにもう、こみあげ

てくるおかしさよ。押し花が史実だってのもね。

本当にそんなことする?ってことは大抵史実

というドラマの法則にクラクラする今日この頃。

 

弥彦のレースに胸熱になったあとでの、四三

と弥彦のダブルの冷水浴って…もうもうもうw

川の中でひゃあ~!と叫ぶまっ裸の男が2人。

いや~もう、なんてものを見せてくれるんだ!

面白すぎるでしょ。おかしいでしょ。最高だよ。

ここまでくるとやってみたくなるよね、ひゃあ~

!って。意外とストレス解消できそうな気が…。



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