ごちそうさん 第63回
「大嫌いっていわしたい」
～詐欺と匂い袋と報われない和枝
正蔵） いや～けど、あの、和枝が再婚するとはなあ。
世の中何が起きるかわからんなあ。
め以子） お姉さんって、ホントに、気が回るというか、細
かいんですよねえ。まあ、そうじゃなきゃ、あんな
的を射たイケズできるわけないんですけどねえ。
改めて気がついたっていうか。
正蔵） あの子な、小さい頃からよう気の利く几帳面な子
でな、わしがこう、墨すっといて～いうて頼んだら
な、ほなちょうどええこの加減の濃さに、すって出
してきよるんや。それを褒めたら…。はあ、お父は
んの時には、100と68回。お母はんの時は、92回
と決めてある～って言いよった。お父はんは、濃
いめが好きやさかいな～って。
め以子） はあ～。あ、あの、一つ聞きたいんですけど。
正蔵） うん。
め以子） あの…お姉さんが持ってる、匂い袋って、
ご存じですか？
正蔵） ん…ああ。
め以子） あれ、何なんですか？
正蔵） あれ、和枝の死んだ子供の着物で作ってある。
め以子） 形見ってことですか？
正蔵） ま、せやな。
め以子） けど、それ、もう擂り切れてもいいって仰って
たんですけど。
正蔵） え？
め以子） それ。どういう意味ですかね？
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
安西） お子さん、おいくつだったんですか？
和枝） ６つです。池に落ちて亡くなったんです。
それを理由に嫁ぎ先を追われて。
安西） 追われ？
和枝） わてはえらい姑に嫌われましてな。
几帳面すぎて鬱陶しい言うて。それからも、苦労
続きで。何とか踏ん張ってこられたんは、この子
のおかげです。
和枝） 気持ちが挫けそうになるたんびに、この子を握り
しめましてな。この不幸を忘れたらあかん。こん
だけ不幸なんやから幸せになってええはずや。
せやないと、人生のそろばんが合わんやろって。
とどのつまり、恨みを力に気張ってきましたんや。
安西） もう、擂り切れてますね。
和枝） もう、そういう生き方やめえって言われてるんや
と思います。同じ生地で新しいの作ろう思てます
ねん。今度はもっと、やさしゅう撫でてやろう思い
ます。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
竹元） な…。
竹元） 梅…梅…。
何だこの、人の心を惑わす、罪深い黒い魔女は。
悠太郎） 気に入ったんですね。
竹元） 追加を。
桜子） ああ、すいません。
お一人様一杯までにさせて頂いてます。
竹元） 何だと！？
悠太郎） 好評なんですか？
桜子） この暑さでしょ？ 来る人来る人、みんな焼氷で。
馬介さん、手の筋違えちゃって。
申し訳ありませんが、また、いらして下さいませ。
竹元） まあ、それなら仕方ないな。
悠太郎） あっ、そういえば、経済学部の安西教授って、
知ってはります？
竹元） あ？
悠太郎） 縁のある方で。
竹元） 安西？ ああ。
あの、夢と現（うつつ）の間を行き交う先生な。
悠太郎） 夢と現（うつつ）？
竹元） ぼーっとしてて、人の話を聞いてんだか聞いて
ないんだかわからんような先生だろう？
そのくせに、言うことはやけに鋭い。
悠太郎） いや、あの、シュッとしたええ男の。
竹元） お前の審美眼はどうなってんだ？
懇親会の写真があったな。見るか？
竹元） これが安西先生だ。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
和枝） ただいま。お土産買うてきましたで。
め以子） あ…ありがとうございます。
和枝） どないしたん？
静） さっき、悠太郎さんが、血相変えて出ていってなあ。
和枝） ふ～ん…。
希子） あ・・・。
悠太郎） はあ…はあ…。姉さん…。
この会社はありません。
和枝） …え？
悠太郎） 登記もされてませんし、この住所もありません。
これは、この世にない会社の株券やったんです。
詐欺やったんです！
和枝） 何言うてはんの？
悠太郎） とりあえず、警察に行きましょう。
和枝） あの人も、おんなじの買うてはったし、
あの人も騙されたんと違う？
悠太郎） それも警察で確かめましょう。
和枝） ちょっと待って。ちょっと待って。あさって、あの人
と約束してるから。話ちゃんと聞いてからでええや
ないの！ 悠太郎さん、ちょっと待って。
それからで、ええやないの！
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
待ち合わせの日、
待てど暮らせど、安西は来ず。
しばらくして、
詐欺事件として報道されました。
複数の人間による組織ぐるみの犯行で、
被害者は延べ５０人。
被害総額は１００万円以上に上る
大規模なものでございました。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
室井） めいちゃん。これ、お姉さんに話…。
室井） イテっ！
桜子） どういう神経してんのよ。
…お姉さん、相変わらず？
め以子） うん…。寝込んだまま。
馬介） 食事は？ 食べてはる？
め以子） あんまり…。
今日、師匠に相談しに行こうと思って。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
倉田） 和枝ちゃん…どない？
悠太郎） 抜け殻みたいになってます。
倉田） そらそやろなあ。
悠太郎） 倉田さん。
倉田） うん…。和枝ちゃんが、あんまりにも、可哀想で
なあ。いつもいつも、報われんで。何であの子だけ、
こんな目ぇに…。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
正蔵） 和枝はどないや？
め以子） 食べれば、少しは気力も出ると思うんで。何か
好きな物でも、作ってあげたいって思うんですけ
ど。口きいてくれないんですよ。なにか、お姉さん
の好きな物、わかりますか？
正蔵） まあ…子供の時から、好き嫌いのない、手ぇの
かからん子やったからなあ。ああ、強いて言うたら、
イワシかいなあ。
め以子） あっ、そういえば…。イワシイワシって…。
正蔵） いや、鯛やヒラメは確かにそりゃ、美味い。けど、
イワシは、「七度（ななたび）洗たら鯛の味」、いう
てな、扱いと手ぇのかけ方で味がもう全然違う、っ
て言いよる。
め以子） 私…イワシだけは、
どうも、好きになれないんですよね。
正蔵） 何でやな。美味いがな。
め以子） パサパサしてるし、小骨も多いし、そういうの
が気になると、生臭さも気になっちゃって。
正蔵） なら、習（なろ）たらどうや？ 和枝に。
あいつのイワシ料理は、絶品やで。
め以子） ああ…お父さん、今は…。
正蔵） め以子さん、
頼られるっちゅうのも、張り合いの出るこっちゃ。
め以子） そうかもしれませんね。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
希子） お姉ちゃん、具合どう？
静） 和枝ちゃん、
水ようかん買うてきたさかい、食べへん？ 開けるで。
め以子） どうしたの？
希子） お、お姉ちゃんが、おらんにようなった。
め以子） えっ？
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
擂り切れてしまうほど、何度も何度も強く匂い袋を握りし
め、歯を食いしばって、頑張ってきた和枝ちゃん。あまり
に悲しすぎて、恨むことで、恨みを力にして生きてくるし
かできなかったんだね。いいことではないけれど、人を
憎んだり恨んだりする気持ちがパワーになるのも確か。
それをずっと続けて生きていくのは辛すぎるけれど…。
ようやく自分が幸せになる番が回ってきたと思えたのに。
辛い気持ちで握りしめてきた匂い袋を手放して、今度は
形見の匂い袋をやさしい思いで撫でてあげたいと思える
ようになったのに。匂い袋が擦り切れたら幸せになれる、
まるでそれはミサンガのような…。願いを叶えてあげた
かったのに、またも辛い想いで匂い袋を握りしめること
になるなんて。詐欺事件なのは見え見えだったし、わか
っていた流れだけれど、やっぱり辛くて、こういう流れは
ホントに嫌い。いろんな事が起こるのか人生ではあるけ
れど。「朝ドラ」で、こういう話は観たくないっていう、ワガ
ママではあるけれど。朝ドラは特別な枠なので、更にこ
れから予想されることが起きる展開は観たくない。嫌い。
これは私の勝手な願いなのだけれど、朝ドラだけは、フ
ァンタジーといわれても、楽しく観ていたいのですよ…。
ついつい、物語を作る神様への不満が爆発してしまうの
で、このへんで終了。今日のツボは、理系のくせに文学
的な竹元のセリフ、「人の心を惑わす、罪深い黒い魔女」
と「夢と現（うつつ）の間を行き交う先生」。素敵です。もっ
と竹元語録、聞いてみたい。そして、無神経な室井の頭
をトレイではたく、桜子さまの華麗なツッコミに萌え。さす
がでした。いっそ２人で、夫婦漫才やればいいと思う～ｗ
いつか、頼り頼られ、匂い袋をやさしく撫でられる人生が
和枝ちゃんに訪れますようにと、願わずにいられません。
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正蔵） いや～けど、あの、和枝が再婚するとはなあ。
世の中何が起きるかわからんなあ。
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かいんですよねえ。まあ、そうじゃなきゃ、あんな
的を射たイケズできるわけないんですけどねえ。
改めて気がついたっていうか。
正蔵） あの子な、小さい頃からよう気の利く几帳面な子
でな、わしがこう、墨すっといて～いうて頼んだら
な、ほなちょうどええこの加減の濃さに、すって出
してきよるんや。それを褒めたら…。はあ、お父は
んの時には、100と68回。お母はんの時は、92回
と決めてある～って言いよった。お父はんは、濃
いめが好きやさかいな～って。
め以子） はあ～。あ、あの、一つ聞きたいんですけど。
正蔵） うん。
め以子） あの…お姉さんが持ってる、匂い袋って、
ご存じですか？
正蔵） ん…ああ。
め以子） あれ、何なんですか？
正蔵） あれ、和枝の死んだ子供の着物で作ってある。
め以子） 形見ってことですか？
正蔵） ま、せやな。
め以子） けど、それ、もう擂り切れてもいいって仰って
たんですけど。
正蔵） え？
め以子） それ。どういう意味ですかね？
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
安西） お子さん、おいくつだったんですか？
和枝） ６つです。池に落ちて亡くなったんです。
それを理由に嫁ぎ先を追われて。
安西） 追われ？
和枝） わてはえらい姑に嫌われましてな。
几帳面すぎて鬱陶しい言うて。それからも、苦労
続きで。何とか踏ん張ってこられたんは、この子
のおかげです。
和枝） 気持ちが挫けそうになるたんびに、この子を握り
しめましてな。この不幸を忘れたらあかん。こん
だけ不幸なんやから幸せになってええはずや。
せやないと、人生のそろばんが合わんやろって。
とどのつまり、恨みを力に気張ってきましたんや。
安西） もう、擂り切れてますね。
和枝） もう、そういう生き方やめえって言われてるんや
と思います。同じ生地で新しいの作ろう思てます
ねん。今度はもっと、やさしゅう撫でてやろう思い
ます。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
竹元） な…。
竹元） 梅…梅…。
何だこの、人の心を惑わす、罪深い黒い魔女は。
悠太郎） 気に入ったんですね。
竹元） 追加を。
桜子） ああ、すいません。
お一人様一杯までにさせて頂いてます。
竹元） 何だと！？
悠太郎） 好評なんですか？
桜子） この暑さでしょ？ 来る人来る人、みんな焼氷で。
馬介さん、手の筋違えちゃって。
申し訳ありませんが、また、いらして下さいませ。
竹元） まあ、それなら仕方ないな。
悠太郎） あっ、そういえば、経済学部の安西教授って、
知ってはります？
竹元） あ？
悠太郎） 縁のある方で。
竹元） 安西？ ああ。
あの、夢と現（うつつ）の間を行き交う先生な。
悠太郎） 夢と現（うつつ）？
竹元） ぼーっとしてて、人の話を聞いてんだか聞いて
ないんだかわからんような先生だろう？
そのくせに、言うことはやけに鋭い。
悠太郎） いや、あの、シュッとしたええ男の。
竹元） お前の審美眼はどうなってんだ？
懇親会の写真があったな。見るか？
竹元） これが安西先生だ。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
和枝） ただいま。お土産買うてきましたで。
め以子） あ…ありがとうございます。
和枝） どないしたん？
静） さっき、悠太郎さんが、血相変えて出ていってなあ。
和枝） ふ～ん…。
希子） あ・・・。
悠太郎） はあ…はあ…。姉さん…。
この会社はありません。
和枝） …え？
悠太郎） 登記もされてませんし、この住所もありません。
これは、この世にない会社の株券やったんです。
詐欺やったんです！
和枝） 何言うてはんの？
悠太郎） とりあえず、警察に行きましょう。
和枝） あの人も、おんなじの買うてはったし、
あの人も騙されたんと違う？
悠太郎） それも警察で確かめましょう。
和枝） ちょっと待って。ちょっと待って。あさって、あの人
と約束してるから。話ちゃんと聞いてからでええや
ないの！ 悠太郎さん、ちょっと待って。
それからで、ええやないの！
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待ち合わせの日、
待てど暮らせど、安西は来ず。
しばらくして、
詐欺事件として報道されました。
複数の人間による組織ぐるみの犯行で、
被害者は延べ５０人。
被害総額は１００万円以上に上る
大規模なものでございました。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
室井） めいちゃん。これ、お姉さんに話…。
室井） イテっ！
桜子） どういう神経してんのよ。
…お姉さん、相変わらず？
め以子） うん…。寝込んだまま。
馬介） 食事は？ 食べてはる？
め以子） あんまり…。
今日、師匠に相談しに行こうと思って。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
倉田） 和枝ちゃん…どない？
悠太郎） 抜け殻みたいになってます。
倉田） そらそやろなあ。
悠太郎） 倉田さん。
倉田） うん…。和枝ちゃんが、あんまりにも、可哀想で
なあ。いつもいつも、報われんで。何であの子だけ、
こんな目ぇに…。
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正蔵） 和枝はどないや？
め以子） 食べれば、少しは気力も出ると思うんで。何か
好きな物でも、作ってあげたいって思うんですけ
ど。口きいてくれないんですよ。なにか、お姉さん
の好きな物、わかりますか？
正蔵） まあ…子供の時から、好き嫌いのない、手ぇの
かからん子やったからなあ。ああ、強いて言うたら、
イワシかいなあ。
め以子） あっ、そういえば…。イワシイワシって…。
正蔵） いや、鯛やヒラメは確かにそりゃ、美味い。けど、
イワシは、「七度（ななたび）洗たら鯛の味」、いう
てな、扱いと手ぇのかけ方で味がもう全然違う、っ
て言いよる。
め以子） 私…イワシだけは、
どうも、好きになれないんですよね。
正蔵） 何でやな。美味いがな。
め以子） パサパサしてるし、小骨も多いし、そういうの
が気になると、生臭さも気になっちゃって。
正蔵） なら、習（なろ）たらどうや？ 和枝に。
あいつのイワシ料理は、絶品やで。
め以子） ああ…お父さん、今は…。
正蔵） め以子さん、
頼られるっちゅうのも、張り合いの出るこっちゃ。
め以子） そうかもしれませんね。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
希子） お姉ちゃん、具合どう？
静） 和枝ちゃん、
水ようかん買うてきたさかい、食べへん？ 開けるで。
め以子） どうしたの？
希子） お、お姉ちゃんが、おらんにようなった。
め以子） えっ？
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
擂り切れてしまうほど、何度も何度も強く匂い袋を握りし
め、歯を食いしばって、頑張ってきた和枝ちゃん。あまり
に悲しすぎて、恨むことで、恨みを力にして生きてくるし
かできなかったんだね。いいことではないけれど、人を
憎んだり恨んだりする気持ちがパワーになるのも確か。
それをずっと続けて生きていくのは辛すぎるけれど…。
ようやく自分が幸せになる番が回ってきたと思えたのに。
辛い気持ちで握りしめてきた匂い袋を手放して、今度は
形見の匂い袋をやさしい思いで撫でてあげたいと思える
ようになったのに。匂い袋が擦り切れたら幸せになれる、
まるでそれはミサンガのような…。願いを叶えてあげた
かったのに、またも辛い想いで匂い袋を握りしめること
になるなんて。詐欺事件なのは見え見えだったし、わか
っていた流れだけれど、やっぱり辛くて、こういう流れは
ホントに嫌い。いろんな事が起こるのか人生ではあるけ
れど。「朝ドラ」で、こういう話は観たくないっていう、ワガ
ママではあるけれど。朝ドラは特別な枠なので、更にこ
れから予想されることが起きる展開は観たくない。嫌い。
これは私の勝手な願いなのだけれど、朝ドラだけは、フ
ァンタジーといわれても、楽しく観ていたいのですよ…。
ついつい、物語を作る神様への不満が爆発してしまうの
で、このへんで終了。今日のツボは、理系のくせに文学
的な竹元のセリフ、「人の心を惑わす、罪深い黒い魔女」
と「夢と現（うつつ）の間を行き交う先生」。素敵です。もっ
と竹元語録、聞いてみたい。そして、無神経な室井の頭
をトレイではたく、桜子さまの華麗なツッコミに萌え。さす
がでした。いっそ２人で、夫婦漫才やればいいと思う～ｗ
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