2004年の引越しが落ち着いた5月4日、
年が明けて、初めてのデートがやっと叶った。
それでも、翌日の祭日には、ヨウには仕事が入っていて、
連休と言っても、いつものデートと、
なんら変わらない時間を過ごす事になった。
その日は、前日から、
義母は義妹のところに泊まりに行き、
旦那さんは、以前付き合っていた、
北海道のメル友が大阪に来ていて、
2泊の予定で、出掛けていた。
だからと言って、家まで迎えに来てくれたヨウを、
中にまで招く事は出来なかった。
勿論、彼もそんなつもりは無かった。
朝早くに迎えに来てくれた彼は、
久し振りの休みを、私の為に使ってくれたのが、
ひと目で分かる程、疲れた顔をしていた。
その事が、嬉しくも有り、何故か、
そこまで仕事をする彼が、腹立たしくもあった。
私は逢うなり、
「そんなしんどそうな顔してるんやったら、
今日来なくても良かったのに。
何なら、今から帰る?」
と、思っている事の半分に、
嫌味な言葉を半分重ねて、彼に言った。
ヨウは、悲しそうな顔をして、
それでも、何も言い返さなかった。
その彼の横顔を見詰め、私は、
「ごめんなさい。
折角来てくれたのに、こんな言い方して。」
と、謝った。
「うん。本当に久し振りやのに、
疲れた顔してるやろ、俺。
ごめんな。
けど、逢いたくて来たんやから、楽しく過ごそな。」
「分かった。それと、昨日電話したんやけど、
ヨウもう眠ってたみたいで・・・。
今晩のご飯は、前から話してた、
秦たち夫婦と一緒やけど、良いよね?」
秦は、親友の真由の弟で、私たち夫婦の飲み友達だ。
(今は、私の旦那さんとは疎遠になったけど。)
でも、秦はいつも、
「僕は、弥生さんは弥生さん。
小田さんは小田さんやと思ってるから、
もし、2人が別れても、どっちとも付き合うつもりやから。」
と、言っていた。
秦は、旦那さんの数々の浮気を知っていたし、
その事で、私が泣き続けていた事も知っていた。
でもその頃はまだ、
旦那さんとも2人で飲みに出掛ける位、
仲良くしてくれていた。
(真由への事を知ってから、付き合いをやめたけど・・・。)
ヨウは、弥生の大切な友達に逢えるのは楽しみや・・・と、
以前から言っていたものの、
なかなかその機会が持てずにいたのだった。
その日はいつもの様に、ミナミに行き、
ヨウの仕事の道具を見て回り、
心斎橋を歩き、プリクラを撮ったり、
ゲーセンに入ったりを繰り返した。
そして、夕方には私の家の方まで戻って来ていた。
秦たちとの約束の時間は、6時だった。
居酒屋で、4人で飲んで、沢山の話をした。
私と、ヨウとの出逢いの事。
付き合い始めた頃の事。
ヨウの仕事の事。
秦の仕事の事。
尽きる事ない話の途中で、ヨウの携帯が鳴り、
外に話しに出て行った時、秦が言った。
「弥生さん。
こんな風な事言うたら、小田さんに悪いけど、
男の目から見て、安達君は間違いないと思うよ。
弥生さんは、直ぐに人を信用してしまうとこあるから、
心配してたんやけど、彼は、仕事に対しても、
弥生さんに対しても、しっかりしてると思った。
口は上手じゃないけど、信用出来る男やと思う。
いつか、一緒になれたら良いのにね。」
秦は、自分で会社を興していて、
自分で仕事をする事の辛さ、大変さを
分かっている人だからこそ、
ヨウの仕事の話を、真剣に聞いてくれていた。
そして、秦の口から、ヨウを認める言葉が聞けた事が、
私にはとても嬉しかった。
話の途中で、私が、
「仕事も大切やけど、私との時間もちゃんと取って欲しい。」
と言った事に対して、秦は、
「弥生さんの言うのも分かる。
けど、今、彼は、仕事を頑張らないとあかん時期なんやと思うよ。
弥生さんの為にもって、思ってるん違うかな?」
と、言った。
私はその言葉に、頷きながらも、
「好きやから、淋しい気持ちも分かって欲しい。」
と、答えていた。