ここからの続きです。


旦那さんにメールを終えてから、

事務所に戻り、仕事に就いた。


結局、ヨウに送ったメールが本当になってしまった事が、

その日の私の、せめてもの救いだった。


パソコンに向いながら、私はヨウと撮ったプリクラに話しかけていた。


「ヨウ。嘘付かなくて済んじゃったよ。

ホントに仕事してるんだよ。結婚記念日に、独りで・・・。」


私は誰もいない事務所で、数台あるパソコンの1台だけの電源を入れ、

CDを聴きながら、黙々とキーボードを叩いた。


仕事をすると決めた時に、プライベート用の携帯の電源は切っておいた。


10時を知らせる音楽が、壁の時計から流れた時、私はパソコンの電源を落とし、替わりに携帯の電源を入れた。


帰り支度をしながら、メールの問い合わせをすると、

TUNAMIのオルゴールの着音が、独りの事務所に鳴り響いた。

(当時は、彼からのメールの着信音をTUNAMIに設定していました。)


ただいましたよにひひのメールなのかな?

と、思い、メールを開いた。


弥生へドキドキ


今日は無理を言ってごめんね。

家に帰って、カレンダーを見て気付いた。


今日は、弥生の結婚記念日だったんだね。

この日だけは、俺の事忘れて良い・・・なんて、

偉そうな事言っておきながら、

その日に離婚届出すなんてね。


でも、日にちを選んだのは、俺の意志じゃないから。

それだけは分かって。


何か、複雑なのは、俺だけかな汗


今頃、弥生は。。。。って、思うと、

正直、胸が痛い。


ごめん。これ以上書くと、弥生に嫌われそうだから。

この辺で、お休み。


明日からは、俺だけの弥生になってねラブラブ   洋より。


メールを2度読み返し、私はもう一度自分の椅子に座り、

ヨウの家に電話を架けた。


数回鳴って、電話は、留守電になった。


今仕事終わって帰るんだ・・・と、言いかけた時、

受話器を上げる音がした。


「弥生?ほんまに仕事やったん?お疲れ様。」

と、ヨウの声が左耳に届いた。


私は、本当は結婚記念日で食事に行く筈だった事を、

正直に話し、その後の経緯も、こと細かく説明した。


ヨウは、可哀想だったね。で、仕事してたん?

と聞き、電話の向こうで、

『ヨシヨシ・・・頭、撫でてあげるね』

と、言った。


そのヨウの優しさに、ホロっとはしたものの、

本当は全然傷付いていない自分が、可笑しかった。


「ヨウ。それがね。私、ホントに強がりじゃなく、

別に良いか・・・。って、思ってるの。

変やよね?でもね。私ホントに吹っ切れてるんやと、

改めて気付いたよ。

これで来年から、結婚記念日に

ヨウを思っても罰当たらへんでしょう?」


「そうか。弥生がそう思うんなら、

俺も気兼ねせんと、弥生の事愛していける。

これからは、俺とお前の記念日だけ大切にしてこな?」


私は、その言葉に涙が流れるのを止められず、

受話器を持ったまま鼻をすすった。


「弥生。泣いてるやろ。よしよし・・・。」


ヨウの声は、優しく私を包み込んだ。


「それにしても、旦那さんって、今日の事ほんまに忘れて、

メル友と会ってはるんやろか?」


疑問とも、怒りとも取れる口調だった。


「どうかな?あの人は、今、目の前の事しか考えられへん人やから。

でも、今の彼女に振られたら、また家に目が向くような人やから、

何とか上手く続いて欲しいと思ってるの。」


と、私は心から思い、ヨウにも話した。


(旦那さんは、それからも、何人ものメル友に出会い、別るを繰り返しました。)


「そうか。弥生が辛くないなら、俺はそれが1番やから。

これからは、俺が弥生を全身全霊で守る。

離れて暮らしてても、心は一緒やからな。

もう、帰れるんか?気をつけて帰るんやで。

家に着いたら、メールしてな。」


十数時間仕事をし続けていて、体はかなり疲れていたのに、

ヨウの労りと、愛されてると実感させてくれる優しさが、十分心を癒してくれる。


私は、それだけで良いと、心から思えた。


「愛してるよドキドキ弥生。」


ヨウは電話を切る前に、いつも以上の甘い声で囁いた。


私はもう一度言って、とせがみ、

その言葉だけを頼りに、これからも生きて行こうと、思った。


その日から、6月25日は結婚記念日ではなく、

ヨウの、心からの優しさを受け止めた記念日に変わった。