一、空飛び
俺の高校、森ノ宮第三高校には、このあたりではよく知られた文化祭がある。俺は、不肖この文化祭実行委員を務めている。もう50年も続いているとかで、先生たち、とくにこの高校の卒業生はとても熱が入っている。そのせいで、毎日七時まで学校で準備をしているのだ。とはいっても、二三年生は毎晩九時まで働いているとか。
実行委員の中で、俺と家が近い人がいないので、一人で自転車をこぐ。家までは、七キロほどあり、一人は少しつらい。この地方都市も、公立高校の学区制が撤廃され、だれでも県内のどの高校にも行くことができるようになった。森ノ宮市の隣町に住む俺も地元の高校ではなく、少し離れた三高に通うことに決めたのだった。
家の近くの商店街まで来て、あっと驚いた。いつも、閑散としている駄菓子屋の前に人がたくさん並んでいるのだ。あまりの驚きで、俺は足元の段差に気付かず、自転車は猛スピードで、その段差を乗り越えていく。
飛んだ、と思った。重力から解き放たれた感覚。しかし、次の瞬間、地面にたたきつけられる。肺が圧迫されるのを感じ、顔からの出血にも気付いた。でも、痛みはなく、眠たくなってくる。出血多量なのだろうか。
と、一人の少女が近づいてきた。上で結われた髪、おしとやかな目。その目が心配そうに、曇っている。
安心感で、俺はすとんと、気を失った。そして、同時に彼 女に恋におちたのだ。