「大丈夫?」
心配そうな声で俺は目を覚ました。頭の下にアスファルトの微妙な凸凹を感じる。湿り気を帯びた生温かい風。腕時計を見る。段差につまづいてから、ほんの二十秒ほどしかたっていない。
「ねえ、大丈夫なの?」
大丈夫なわけないだろう。そう思いながら、少し頭を傾けると、そこには先刻の少女がいた。やわらかそうな髪が、月光を受けて、輝いている。しかし、なぜか先ほどのようなときめきは感じない。ともかく、俺はうなずいた。
彼女は俺の手を取って、立ち上がらせた。身体のあちこちが痛むが、どうにか歩けそうだ。
「家まで送って行くよ。」
彼女はそう言って自転車の荷台に、こぎ出した。高校生になったのに、通学に親父の商売用の自転車をあてがわれ、恨んでいたのだが、こういうときは役に立つ。彼女は俺の住所を尋ねることさえせずに、こいでいく。病院に連れていくつもりなのだろうか。
しかし、五分後、自転車は俺の家の前に止まっていた。俺は礼をいい、名前を尋ねた。
「本庄 由利、永高二年。・・・そっちは?」
俺は少しひっかかった。なぜなら、彼女の問いかけは、まるで俺の名を知っていて尋ねているような言い方だったからだ。それにしても、永星学院に通っているとは。永星学院は、市内にある全国でも有名なナンバースクールで、国内、海外の名門大学への進学者が多い。
「古川 大和です、森三高の一年。」
相手は年上なのだから、敬語を使った。俺は改めて礼を言い、彼女は歩いて去って行った。やはり、俺の住所と名前を知っているようだから、近所の人なのだろうか。もっとも、制服には名前バッジが着いたままだったが。
