うまく伝わらないだろうが、私は昔から鬱気質で、それは歳を増すごとに重症化している。母の影響であろうが、それが先天的なものか後天的なものか、未だにわからない。。

 愛する人と一緒に居ても、そして如何に自分が今幸せなのだと実感して居てさえも、どうしてか消滅願望と共に漠然と憂鬱になる。
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 学生時代、私は海の生物の研究をしていて、当時、質の良い材料となる、とある海藻を探し求め、東北の海岸線を宛てもなく彷徨い続ける事が日課となっていた。
 名も知らぬ浜や磯へ移動を続けていたある日、友人から届けられたカセットテープをカーステレオに入れ聴き出すと、聴覚からヌミノースな死臭と言うべきものが漂い始め、気分が滅入って滅入って仕様がなくなった。。それがこの曲、イル・バレット・ディ・ブロンゾの「瞑想」であった。これは先述の私の過剰な気質から来るものでしかないのだが、どうしても私の心の波長を乱し悲しくて動悸が激しくなるものだ。
 以来、吐き気とともに永らく〝封印の曲〟とした。
   近年では、恐る恐る、精神状態の良い時に聞けるようになった。健全な皆さんにおかれては誤解しないでいただきたい。途轍もなく美しい名曲なのである。

…あのひ、暗雲立ち込め雨がポツポツと降りだした頃、工場排水の淀んだ内湾のぬかるみに長靴で足を踏み入れると、人の手のようなミルが、ヌルヌルと水中から手招きをしているようで、私はぞっとして道すがら引き返すことにした…