体罰を考える その5 | シニア犬 最期まで幸せでいてほしいから

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行動修正と体罰 その3

 飼い主に対する攻撃行動への体罰使用に関する解説その3になります。

 私が行動診療を始めた1990年代、飼い主に対する犬の攻撃行動の約9割、いやそれ以上が優位性(支配性)攻撃行動、一般的には権勢症候群とかα症候群などと呼ばれた攻撃行動だと考えられていました。簡単に言っちゃえば、飼い主が犬にバカにされているから、犬が飼い主より上に立っているから、犬は飼い主が気に入らないことをすると攻撃するのだという考え方でした。

 行動学で「優位性」とは、二個体間で両者にとって価値あるものに対しアクセスする際の優先性を意味します。価値あるものとは、飢えているときの食べ物、心地よい休み場所、交配相手などを指します。飼い主と犬との関係をちょっと考えてみましょう。私たち人間は犬と同じような価値感を持っているでしょうか?つまり、犬の食事がとてもおいしそうなので犬を差し置いて食べたいとか、犬のベッドが気持ちよさそうなので奪い取って寝てみたいとか、あの雄犬がとってもかっこいいので自分で独占するためにわが家の雌犬を近づけたくないとかです!ありえなーい(笑)。そう、根本的に「優位性」をめぐる戦いという考え方には間違えがあったのです。犬と飼い主を一つのパック(群れ)と考えて説明をしたところから間違えが生じました。種が違いますもの。

 動物行動学の研究が進んだことにより、飼い主に対する攻撃行動がこれに該当すると診断される割合は急減し、現在は1割以下になっています。9割以上あったのに、1割以下ですよ!本当に稀にではありますが、超大型犬や大型犬で飼い主に対してこの攻撃を示すことがあると考えられています(まあ、そうですよね。小型犬はどう考えたって人間よりも強いなどと思うはずがありません)。ちなみに、行動診療に携わる獣医師は、現在この攻撃行動に対して「序列関連性攻撃行動」という診断名を使用しています。この攻撃行動は他の攻撃行動と全く異なり、犬は耳を倒したり、口角を後ろに引いたり、上目づかいをしたり、体重を少し後ろにかけるというような不安や恐怖を全く示すことなく、唸りながら、睨みつけ、耳を前方にしっかり向け、体重を前足にかける、つまり攻勢的な攻撃姿勢をとります。ところで同種動物の群れの中での優位性をめぐっての戦いではほとんど相手を傷つけることはありません。群れ全体の力をそぐことになるからです。劣勢の動物がすぐに降参して、たとえば、見据えられて唸られた時点でその場を去れば、優位な動物はさらに攻撃を加えて傷を負わせるようなことはしないのです。

 でも、過去に多くの人(私もそうだったことを告白します!)が信じていた「優位性神話」、つまり犬が飼い主の上に立とうとしているまたは立っているので攻撃するという考え方は、いまだに一部のドッグトレーナーや獣医師に信じられており、行動修正の方法として、自らの強さを示す必要を説き、強制的な方法がとられていることが多く、時にはこれが体罰となります。優位性を示すのは群れ仲間と認識している寝食を共にしている家族に対してだけです。そして、前述したようにもしすぐに手をひけば、犬は襲ってこないはずです。攻撃した後で、申し訳なさそうな様子を見せたり、おべっかを使っていると思われるような態度を取ることも決してありません。そして真の序列関連性攻撃ならば、価値あるものの管理をし直し、飼い主の対応を変えることで争いを避けることが可能なのです。つまり、やっぱり、この攻撃行動であっても体罰は不要と結論づけられるかと思います。

 問題なのは序列関連ではなく不安や恐怖が関連している攻撃行動を正しく診断せずに序列関連性攻撃(またはいまだに権勢症候群とかα症候群)だとして、体罰を使って矯正しようとする試みです。その1に書いたように、犬により強い不安や恐怖を抱かせることになるからです。まだまだ攻撃行動にはいろいろあるのですが、次回はもしかすると体罰が有効かもという唯一の攻撃行動について触れ、飼い主に対する攻撃行動と体罰使用についての話を終わろうと思います。

 

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