『音速雷撃隊』:松本零士 | 懐かしエッセイ 輝ける時代たち(シーズンズ)

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懐かしい’60s’70s’80s
ひときわ輝いていたあの時代の思い出のエッセイ集です。
毎週土曜日更新予定です。

 今日は。
長期のコロナ禍の中に、梅雨による大雨が続きます。

皆様に、被害がないように祈るばかりです。

これは自然との戦いです。

 

戦いと言えば、有史以来、人間同士の戦いも、多くありました。

こちらは、防ごうと思えば防げたはずです。

 

今回は、そんな戦争について書いていみたいと思います。


<『音速雷撃隊』:松本零士>
  
 

●プロローグ
 以前、8年前くらいでしょうか、ちょうど僕が『紫電改のタカについてエッセイを書いた頃です、この頃、太平洋戦争についてのマンガが少ないなと書きました。


 それに対して、現在逆に太平洋戦争についての作品が目に付くようになりました。
現在僕が最も注目している作品の一つの『アルキメデスの大戦』はもとより、同じ「ヤングマガジン」に『不死身の特攻兵』(鴻上尚史 原作、東直輝 漫画)といった作品が連載されています。
更には、戦争マンガではありませんが、半藤一利の原作の『昭和天皇物語』「ビックコミック オリジナル」に連載されています。
マンガのタイトルは覚えていませんが、他の雑誌にも確か数本連載されていたと思います。

そして、マンガ以外に、アニメでは2013年に公開された、宮崎駿監督の『風立ちぬ』、映画では百田尚樹『永遠の0』が話題になりました。

どうしたことでしょうか?
2015年に戦後70年を迎えました、その関係でしょうか?

 

 そんな中、昨年2019年11月に、「松本零士ワールド サミットIN 赤羽」に出席しました。
その内容については、以前「松本零士ワールド in 北区: 松本零士特別講演」(リンク)に書きました。

松本零士のこの時の講演で、戦争に対する松本零士の思いを聞いた後で、僕の本箱に眠っていたある作品が気になっていました。
それは『音速雷撃隊』です。 
あの講演の中で、父親と戦争について語っていた松本零士が、どんな戦争マンガ、そして「特攻」についてどうを描くのか?

 ところで、「雷撃」という言葉を僕は知りせんでした。
音速で攻撃するので「電撃」かと、間違って暫く思いこんでいました。
「雷撃」とは魚雷を使う攻撃のことなんですね。

 

●『音速雷撃隊』:あらすじと作品の特徴
 
 実は、あの赤羽での講演もあり、「特攻」というテーマでしたが、『永遠の0』のように、特攻しないのではないかと予想していました。
 ラストは、僕の予想とは少し違っていました。

 アメリカ軍飛行機が敵艦に迎撃に向かう「一式陸上攻撃機」を発見するところから物語は始まります。
 この飛行機は味方へ打電?連絡後に、零戦に撃ち落されます。

 「一式陸上攻撃機」には、音速爆撃機、実は人間ミサイル「桜花」が搭載されています。
 「桜花」には、わずかしか方向を修正できないという機体の特性上の課題があり、目標10KMに近づかないと発進ができません。
 主人公野中少尉は、もともとロケット技術者で、音速爆撃機「桜花」のパイロットです。 
 桜花に強引に乗り移ろうとする野中少尉は、味方の何者かに、パラシュートを付けられ脱出させられてしまいます。

 基地に戻った野中少尉は、明日の攻撃で「桜花」を積み、出動する「一式陸上攻撃機」のパイロットや乗組員と酒を酌み交わします。

 パイロットたちが話します:
 「俺たちみんなおかしいのとちがうかしらん」「狂っとらなんだら、だれが死ぬ人をつんでいけるかいな・・・」
   「今は世界大戦なにかね、世界じゅうが狂っとるのかね・・・」
   「あはは、われこそは正義の味方と世界じゅうが狂ってわめいとらあ!!」


 その基地を覆うように、琴の音が流れます。
 『宇宙戦艦ヤマト』のスターシャ似の女性が、泣きながら草むらで琴を演奏しているのです。

 パイロットたちが野中少尉に尋ねます。「(あの琴の音の人)知り合い?」。
 「おれには女友達はいない」
と野中少尉が答えます。

 主人公野中少尉は自分はロケット技師だと打ち明けます。
「あと30年生かしてくれたら・・・俺はあの月までロケットを打ち上げてみせる。それが俺の夢だった」
 パイロットのリーダー山崎中尉が答えます。
 「この戦争で死んだ世界じゅうの若いのがあと30年生けていたら・・・みんないろいろなことをやったろうになぁ」

  場面は変わって、アメリカ軍。
  (静けさの中、艦隊が月明りにシルエットになっています。(絵がうまい! 映画だ!)。

 あるパイロットが言います。
 「あいつ(物語最初に墜落させられたパイロット)は天才だった・・・。あと30年生かしといたらディズニーを失業させたかもしらんな・・・」
   
 アメリカ艦隊の艦橋(軍艦の上甲板上の檣楼内など高所に設けられた指揮所)で人間が操縦して飛行する人間ミサイル「桜花」があきらかになる。
 「桜花」は火薬量1.2トン、瞬間最大時速1040KM
  「やつ(桜花)が母機を発信したら、F-6-Fのスピードでは到底撃墜不能だ」

  *何か、ここだけ、印刷が荒い。原画ではなく、雑誌から起こしたものだろうか?

 翌日 再び、桜花を積み、アメリカ軍艦に向かう一式陸上攻撃機。
 機内でのパイロットと野中少尉の会話:
  
  「桜花を作った人はなんていうか?」
  「このロケットを作った技師は悲しかったにちがいない」「飛び出したら2度と帰れないロケットなのだから」


 本来人間の生活を豊かにすべき技術が戦争という悪に利用されている!


 アメリカの飛行機の攻撃を逃れながら、やっと敵艦を発見した母機は、桜花を切り離します。
 野中少尉は胸に写真を忍ばせ、「ズヴォオム」と後ろに発射し、全速力で発信する。
   *1面を使ったカットではありませんが、この絵が迫力があります。
 
 シルエットの艦に突っ込む野中少尉の「桜花」
 そこに写真が艦長の前に落ちてくる。
   艦長「琴を背にした女の写真。大ばか者め・・・」

 そこへ、「今広島へ、原爆を投下したそうです」無線担当が艦長に伝える。
 艦長「おれたちもバカか・・・・敵も味方も大ばかだ・・・」
 爆発する艦(両面の紙面の2/3を使った)

 *この焔、人間の拇印じゃないのだろうか?
  いくつもの焔に指紋のようなものが見える。
  このアメリカの艦の人間の魂が飛び散るように思える。

 海に浮かぶ、琴を背にした女性の写真。基地の所で琴を弾いていたスターシャに似た女性だ。


 ロケット技師になり、月に飛ばしたかった主人公野中。
 ディズニーを脅かす程の才能のあった米軍パイロット。
 
●『音速雷撃隊』:作品としての位置づけ

 

 

『音速雷撃隊』は最初、「週刊少年サンデー(小学館)」の1974年(昭和49年)4月7日号に掲載されました。
 わずか32頁の短編ですが、1974年という時代では週刊誌は現在ほど頁数は少なく、32頁というと、かなりのボリュームだったと思います。
 『音速雷撃隊』は「少年サンデー」に73年10号から不定期に連載された「戦場まんがシリーズ」の一つなのですね。

 僕は、この作品を「このマンガがすごいコミックス」「特攻ー太平洋戦争、最後の戦い」(宝島社)のアンソロジーで読みました。

 
 また、「ザ・コクピッシリーズ」は、翌75年から「ビッグコミックオリジナル」で開始されます。
 何か、「戦場まんがシリーズ」と「ザ・コクピッシリーズ」、ややこしいですね。
 
  ウイキペディアによると、
 「「戦場まんがシリーズ」と呼ぶ場合、本来は小学館の「週刊少年サンデー」に不定期連載されたものを指す。
  「少年サンデーコミックス」には、「ビッグコミックオリジナル」掲載の「ザ・コクピット」シリーズや、過去に「プレイコミック」「COM」に掲載された短編も収載されているが、それらもまとめて「戦場まんが」と名付けている。
 (単行本の背に「戦場まんが」と表記されたのは、第二集『鉄の墓標』からで、『スタンレーの魔女』初版にはなく、重版分から追記された)
  実際には「わが青春のアルカディア」以降の単行本の作品は、ほとんどザ・コクピットシリーズである。
  また、「戦場まんがシリーズ」作品も、後年「ザ・コクピット」のタイトルでまとめられた単行本に収載されたりしており、更には他の雑誌等で発表された第二次大戦ものを含めて、現在では「ザ・コクピットシリーズ」という形でくくられることが多く、初出による厳密な区別はほとんどされていない

 
  1974年というと、『宇宙戦艦ヤマト』(月刊「冒険王」の1974年11月号から1975年4月号まで連載)(リンク)が書かれた年でもあります。
 ですので、この『音速雷撃隊』はちょうど、『宇宙戦艦ヤマト』連載前に描かれたことになります。

 1974年・75年は松本零士になにかあったのでしょうか?
 それとも時代的に何かあったのでしょうか?


 
 

 

 松本零士的には、『男おいどん』「少年マガジン」で71年5月9日号から連載が開始され、大人気となります。
 『男おいどん』は「サルマタケ」などの独特のキャラを描いた人気作品で、松本零士が少年週刊誌で最初に認知された作品だと記憶しています。

 連載は73年8月5日号で終了し、松本零士は新たな作品にチャレンジしたのでしょう。
 というより、『男おいどん』のヒットが、松本零士が本来書きたかったものを描くことを後押しをしたのではないでしょうか。

  その時代を少し振り返ってみましょう。
 1972年(昭和47年)2月2日に横井庄一軍曹が満57歳でグアム島で、地元の漁師に発見され、日本に帰還しました。
 74年には、 小野田寛郎陸軍少尉がフィリピンのルバング島から帰還しました。
 また、75年は太平洋戦争の終戦から、30年にもあたります。
 こんな時代背景の中で、この作品は生まれました。

 


 

●「特攻ー太平洋戦争、最後の戦い」
 せっかくですので、参考までに、このアンソロジーをご紹介します。

 ○他の作品と作者
  本宮ひろ志『島崎二飛曹失速す!」
  滝沢聖峰『海の陸鷲』
  松田大秀『ワシントン攻撃命令』
  やいた克政『芥の散華 戦艦大和水上特攻』
  もりやてつみ『高高度の勇者』
  薮口黒子『月光一閃 海軍第302航空隊』

 〇本の構成
  マンガ作品とその作品に登場した戦闘機等の解説
 
  松本零士の作品「音速雷撃隊』の後には、作者松本零士のインタビューがあります。
 
 〇松本零士 インタビュー
  「『音速雷撃隊』を描いた時は、国家や思想、宗教などが違っても、つまり日米どちらにも家族がいることを意識して、互いの感情を大事にするよう心がけました」


  正に、 『音速雷撃隊』は、インタビューにあった「日米どちらにも家族がいることを意識」した作品となっています。