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この作品は、焔 さま から頂きました。

ガラカメのSSになります。


possibility


欲しいものは、自分の手で掴んできた。
1%の可能性があるなら、それに全てを賭けて。

そうやって一つ一つ、空へと続く階段を上って紅色のお日様を目指した。

長い道のり、遠かった輝き。
それが手を伸ばせば届きそうなほど、近づく事ができたのに。

どうして私は振り返ってしまうんだろう。

心を奪われるのは、地上に咲いている花。
陰から私を支え続けてくれた、鮮やかな紫のシルエット。

何よりもきれいなその姿に、なぜ私は気付こうとしなかったんだろう。

感じた痛みに胸に手を当てると、クラリと視界が歪んだ。

―――世界が、反転する。

たくさんのバラが天上に煌めいて、夜空に瞬く星になる。

……それはあまりに遠すぎて。

精一杯背伸びをしても、手を広げても届かない。
たくさんの階段を駆け上がっても、距離の長さを思い知るだけ。

……間に合わない……


やだ……

行かないで。
私を取り残さないで。

…………速水さんっ!




「どうした、ちびちゃん」

向けられた背中が、突然振り返った。

握っていたのは、背広の端。
呼びかけられたのは、昔からの愛称。

「何か俺に用があるのか?」

私を覗き込む瞳。
理由を求める言葉。

届かないと思っていた。
遠くに行ってしまうと諦めていた。

でも……そんなのは嫌。
何もしないで、後悔だけするなんて……!


「私、あなたに聞きたい事があるんです」
「君が俺に? 何の話だ」

珍しい事もあるものだとからかう人に、今の私の全てを賭ける。

「速水さん……私に1%の可能性はありますか?」



Kierkegaard