ヘンデルのマイナーな曲をたくさん聴けて嬉しいヘンデル・イヤー、10月25日に又タイトルすら聴いたこともないオラトリオSusannaを聴く機会がありました。
オラトリオと言うとメサイヤとかキリスト教礼賛の辛気臭いイメージですが、17世にロンドンで自ら劇場のプロデューサーでもあったヘンデルの場合は、経費削減のために今で言うオペラのコンサート形式をポピュラーなものにして多くの作品を書いたのですが、これもその一つでしょう。
そして、このスザンナは、物識りの方がコメントで教えて下さったのですが、旧約聖書中ダニエル補書遺(外典スザンナ書)に出てくる話なんだそうです。宗教には(も)丸っきり疎い椿姫、そうとは知らずに聴いたのですが、内容はと言うと、
魅力的な若妻スザンナが亭主が出張中に、地位も名誉もある爺さん二人に言い寄られ、貞淑な彼女は振り払たものの、彼女が男といちゃついてたのを目撃したという嘘つきヒヒ爺の証言で姦通罪となり死刑を宣告されてしまうのですが、ある少年(ダニエル)が爺さんたちに、「コトが起こったのは何と言う木の下だったのか述べよ」と問い、二人の答えが食い違ったので嘘がばれ、めでたしめでたし一件落着。
設定はバビロンですが、初演でのロンドンの観客はきっとイギリスの同時代のカントリーサイドの若夫婦と村の威張りくさったエッチ紳士を思い浮かべたのではないでしょうか。その方が宗教心の薄いイギリス人には身近に感じられるでしょうから。
内容のわかりやすさだけでなく、この1週間前にパリで聴いたヘンデルのファラモンドがコンサートはイタリア語で歌ってフランス語の字幕でちんぷんかんぷんなので長く感じて辛かったのに比べると(→こちら )、このスザンナは英語なので(しかも英語の字幕付き)、全く退屈せずに一字一句楽しめました。
同じWクリスティ率いるレザール・フロリッサンの10月10日のダイドーとエネアス(→こちら )はセミステージ形式ということでオケがかなり後ろに引っ込んで広い舞台で歌手たちが走り回って演技してくれたのに比べると、今回はコーラス団もいてほとんど動く余地がないのですが、それでも突っ立って歌うのではなく、誰も音譜は見ずに充分演技もしてくれました。
Les Arts Florissants
William Christie conductor
Sophie Karthauser Susanna
Max Emmanuel Cencic Joacim
Paul Gay Chelsias
William Burden First Elder
Alan Ewing Second Elder
David DQ Lee Daniel
この前日の午後にアムステルダム公演があったばかりの連チャンと知って驚きました。しかも、アムスではCD録音をしてて、一部撮り直しまでしたんだそうです。その時の様子はレイネさんのブログ(→こちら )をご覧下さい。
先週パリでキャンセルしてがっかりさせられたカウンターテナー(以下CT)のマックス・エマニュエル・チェンチッチ、今日は予定通り出てくれました。彼を聴くのは初めてなので、調子が良かったのか悪かったのかわからないのですが、CTとしては優しい声は私好み。
ドラマ面では淡白なスザンナの夫ヨアキム役を、ほっそりと小柄なチェンチッチはエレガントに美しく歌ってくれて聞惚れました。元ウィーン少年合唱団のメンバーだった彼、若々しい姿も高いCT声もそのままセーラー服のユニフォームの少年時代が容易に想像できましたよ。
でも、連日歌うのはか弱いCTにはやはり負担なのか声量は乏しかったので、最前列かぶりつき席の私はOKでしたが、後ろの席の人には果たして充分に聴こえたでしょうか。
スザンナはイギリス人ソプラノのケイト・ロイヤルは出産まじかということで降板し、結局アムスと同じソフィー・カルトホイザーに。初めて聴く名前ですが、とても丁寧で技術的に立派だし、歌も容姿も可憐な若妻のイメージにぴったりで文句ないのですが、個性がなく、なにかもう一つ足りないという印象。
二人の長老の一人であるテノールのウィリアム・バーデンが実はこのコンサートに行こうと決めた理由。春に聴いたコジェナとの共演のジュリエッタ(→こちら )の主役でとても素敵だったんですもの。
長身ハンサムで声もトビー君系で私好み。それが今日は、悪役の長老は道化役でもあるので、彼自信も楽しんでエロ爺をクネクネ演じて娯楽度大でしたが、ちょっとやり過ぎてイメージ崩れました・・・。
顎鬚も生やして余計にロマンスグレーのおじ様風の風貌になってしまったのもがっかりで、歌も演技も若い時に二枚目役で観たかった人です。アメリカ中心に活動してたんでしょうが、もっと早くこっちでも歌って欲しかったです。
もう一人の長老のアラン・ユーイングはROHによく出てるということですが、低い声の男性歌手には惹かれない私なので、全く記憶にありません。とても上手だし、個性のない容貌もどんな脇役もできて重宝されるでしょうが。
「どんな種類の木の下でナニは起こったんだ?」と長老を追い詰める少年の出番は少ないけど、中国系カナダ人のディビット・DG・リー は派手な存在感でチェンチッチを食ってしまったかも。
2年前のCardiff Singer of the Worldでも茶髪で派手な容姿と大袈裟な歌いっぷりが話題になった彼のことは凄くよく覚えてます。
クラシック歌手というよりはケバいエンターテイナーに見えてしまうので、カーディフのコンテストでは歌の実力は認められたものの少々ヒンシュクを買ったふしがあり、でもそれは目立つが勝ちというコンテストだからなのかと思ったけど、今回もおとなしくはしてられないようで、これはもうそういうキャラクターなんでしょう。
とてもお洒落で、かぶりつき席の私にはカフスボタンやベルトの後ろ部分がキラキラ光るのも見えました。顔は典型的なチャイニーズでハンサムとは言い難いけど、長身で逞しく、表情が豊かでチャーミングな彼。
他の人は出番のうんと前から舞台袖に座って控えてたのに、クリスティ指揮者に「お前はいるだけで目立つから、ギリギリまで出てこんでよろしい」とでも言われてのか、私がどうしたのかしら?と思うくらいなかなか登場しませんでした。
これで歌が下手だったら「ひっこめーっ!このゲテモノめ、雰囲気ぶち壊しやがって」と思われるところですが、張りのある声と声量でか細いチェンチッチを吹き飛ばしちゃいました。いわゆるキンキン声のCTなので長い間聴くのはつらいでしょうが、時折すごく美しい声も出て、思わず乗り出して聴いてしまいます。万人に好かれるのは無理でしょうが、舞台映えもするだろうし異色CTとしての地位はすでに獲得しているのかも。
というわけで、CT二人を初め男性陣が数でも質でも勝りましたが、二人のCTのお陰で男声ばっかりという印象は持たずに済んだし、艶っぽい小噺のような内容と歌と演技のの華やかさも娯楽性充分で、創始者クリスティ指揮のバロック専門オケのレザール・フロリッサンも合唱も手堅く弾んで、明るいヘンデルを現代風に楽しむことができました。
フルオペラにしてどんな時代に読み替えても楽しめる作品ではないかしら。特に英語圏の人には。姦通罪ってのが時代錯誤でしょうけど・・・