ライブハウスは、まさに演奏中。
若い男性が、アコースティックギターを弾きながら歌うその曲は、どれも聞き覚えのある歌。
ボクにも口ずさめる歌ばかりだった。
異邦人。銃爪。キャンディ。
流行りの曲が流れる中、ハイボールが2つ。
2人のテーブルに届いた。ボクらは乾杯した、でも・・・。
ボクはすぐに気が付いた。彼女の乾杯の視線の先に、今歌ってる男性がいることを。

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「GINクンは普段、どんな歌を歌ってるの?」。
彼女の問いに、恥ずかしいなって思いながらもボクはちゃんと答えた。「サークルのプライベートコンサートでは主にオリジナル。コピー曲はオフコースが多いかな」。
「へぇースゴイ。今度GINクンの歌聞いてみたいな」。
「いいけど^_^。下手だよ」。
ハイボールを飲みながらボクは自分の所属する軽音部の仲間のことや、音楽に対する気持ちなんかをちょっとずつ彼女にお話した。
ただ、映画館で隣に座る素敵な彼女に対するドキドキ感はもう薄れていた。
ボクは今日、きっと目の前にいる彼女にとってのトラボルタにはなれないんだって。そう感じていた。いや、感じ取っていた。
ライブの男性はその後、本日最後の演奏を始めた。バットフィンガーのウイザート  ユーだった。歌が流れ出すと、ライブハウスの空気が変わった。グラスにウヰスキーを注ぐ音も。マドラーで水割りをかき回す音も消えた。
そこにあるのはウイザート ユーの歌声と。
彼が上手にかき鳴らすギターストロークの音だけ。そして、目の前の彼女はちゃんと。
自分の気持ちに正直に涙を流していた。
歌い手をしっかりと見つめ。歌い手の気持ちに、応えるように。彼女は正しく涙を流していた。