ボクの記憶が正しければ、大学を卒業して旅行会社に勤めていた頃。

コンビニで、おにぎりが売り始められた。

そう。

あの三角形で、真ん中のビニールの所を引っ張って左右に切れ目を作り、カリカリのお海苔をおにぎりに巻くという画期的なシステムの導入がその頃図られたわけだ。

ところで、そのシステムについていけない人がいた。

ボクが勤める旅行会社営業所、所長だった。




ある日。

「GINクン。何でもいいからご飯を買ってきてくれ。」と言われ、コンビニでおにぎりを買って所長に渡したボクは、彼のその後の行動を見て、ひっくり返ることになる。

ケーラーの洞察説。

天井からつる下げられたバナナを食べるために、チンパンジーが箱を積み重ねて踏み台を作るという実験とまさに同じような光景が、ボクの目の前で繰り広げられた。

机の上に置かれたおにぎりを食べるために、チンパンジーが(あっ間違えた)所長が取った行動とは、どのようなものだったのか。

それでは、以下、チンパンジー(あっ間違えた)所長が取った驚くべき行動について、順を追って記す。


「んんっ?」。

チンパンジーは先ず、ビニルで巻かれたおにぎりに対して、強い警戒心を示した。

今までチンパンジーが生きてきた中で知り得たおにぎりとは明らかに違うおにぎりが目の前にある。

なぜ、おにぎりがこのような複雑な形態のビニル袋に包まれているのか。

その趣旨が理解できなかった。

チンパンジーは、おにぎりを凝視し続け、そしてしきりに首をかしげた。

その後、おにぎりを上から下から右から左から眺めたチンパンは、現状把握ができないまま、最終的におにぎりのビニル袋をメリメリメリと引きちぎったのだ。

それはまるで、超人ハルクのようであり、北斗の拳のようでもあった。

メリメリメリと引きちぎられ、御海苔が砕け散り、ツルンツルンのおにぎりが露呈したその姿を見た時に。

「そうか」。ボクは確信した。

新しい環境に対応できない種は絶滅していった。ダーウィンの進化論。

チンパンも同じだった。

なぜ、サルに似た動物は枝分かれの後ヒトになり。

チンパンジーはチンパンジーそのままだったのか。

チンパンマンの机の上に置かれたおにぎりを見て、ボクはそう思った。

チンパンマンはその後、ツルンツルンのおにぎりと、ビニル袋の中で砕け散った御海苔を交互に食べていた。


アハハ。所長、ごめんちゃい。

怒らないで、新年会呼んでください・・・。