BGM 吉田拓郎 「夏休み」

http://www.youtube.com/watch?v=vj9aYHS8Kn8


夏休み開始前日。

終業式の日。

ボクはある理由で毎年とても憂鬱だった。

それは・・・。

荷物だ。


若林で見た空


普通の子は、夏休み前、数日間にわたり計画的・系統的に荷物を持ち帰った。

ロッカーの中身。

絵の具の道具。水入れ。お習字の道具。図工の作品。

みんなは毎日少しずつそれらを持って帰った。でもでも。

ボクはそうした計画性が全くなかった。

ボクは未来を見通して生きる少年ではなかった。

だから、夏休み開始前日の朝。母親は、大きな大きな紙袋をボクに渡した。

「はい。GINちゃん。これをもっていきなさい。」

ボクは自分の体くらいの大きな紙袋を持っては、走って学校に向かった。


終業式が終わり、学級委員会が終わり、通知表をもらい、担任にさようならを全員で言った後。

ボクは一人、その担任の先生に呼び出された。

「はい。GINクン。紙袋を出して。」

担任はそういうと、ボクから受け取った紙袋、にロッカーや机の中の荷物をきれいに、整頓して入れてくれた。


絵の具の道具。水入れ。お習字の道具。図工の作品。

学期終了時怒涛のように行われたテスト類。

画板。上靴。読書の時間に読んだ本。給食着。給食袋。縦笛。ハーモニカ。

夏休みの宿題。算数の道具箱。理科の実験道具。

図書室で借りた推理小説「シャーロックホームズ」。

ありとあらゆる学校生活の小道具を、先生は袋の中に丹念に詰め込んだ。

その袋はズシリと重たく、悲壮感に溢れていた。


中原中也が「ユヤーンユヨーン」って詩を書いてたけど。「ユヤーンユヨーン」どころではなかった。

宮沢賢治でいう、「雨にも負けず 風にも負けず」的な悲壮感。

それが見事にパンパンに詰まった紙袋を持って、ボクはフラフラと家に向かった。

先生の、「GINちゃん。気をつけて帰るんだよ。」なんて優しい声かけも、むなしく響いた。

あの日。

ボクは、世界の悲しみを全て詰め込んだ紙袋を地面に引きずりながら。

夏休みに向かって歩き続けた。