ポール・マッカートニーの『McCartney III』が
リリースされてから数日後の12月23日、
NMEのウェブサイトにアルバム全収録曲について
ポール本人が語ったコメントが掲載された。
各曲について、その制作経緯や背景を率直に語ってくれている。
以下、その和訳。
Long Tailed Winter Bird
「Long Tailed Winter Bird」は映画の音楽から始まったんだ。タイトルの由来は、それが引き延ばされて長い曲になったために、「長い尾っぽの冬鳥」と呼ぶことになった。実際に鳥類の
本の中で私は「長い尾をした冬のカモについての5つの事実」
というのを見たんだ。
Find My Way
ピアノで書き始めた曲で、車の中で思いついたアイデアが元に
なっている。車の中で音楽を聴いていたらラジオから好きな
ビートが流れていたので、それに合わせて歌い始めたんだけど、自分で言葉と曲調を作ってみた。車の中で歌い始めて、
家に帰ってからピアノで書いて、スタジオに持って行った。
実際には詩の部分に別のアイデアがあったんだけど、それが気に入らなかったから、最終的には新しいアイデアを入れたんだ。「you never used to be afraid of days like these」
という部分で、元のアイデアよりもずっと良かったと思うよ。
Pretty Boys
私は新聞である男性モデルの記事を読んだ。
その男性モデルたちはあまりにも攻撃的で少し虐待的な
カメラマンに悩まされていたんだ。そこでその男性モデルたちについての架空の物語を想像し始めた。ニューヨークの通りを
歩いていたとき、自転車のたくさんの列を見て、
「here come the pretty boys, objects of desire, a line of bicycles for hire」を思い付き、
「いいね、いいアイデアだ」と思ったよ。
つまりこの曲は、仕事を与えられる男性モデルたちの歌なんだ。
Women and Wives
ロサンゼルスにいた時に書いたんだけど、ちょうど
ブルース・アーティストのレッドベリーの本を読んでいた。
ブルージーな気分になろうと思って、ピアノで弾いて、簡単なコードを弾いて、私がブルージーだと思うイメージで歌い始めた。こうして出来上がって、イングランドに戻ってから
レコーディングしたんだ。
Lavatory Lil
「Lavatory Lil」はあなたが好きではない人、
仲良くなれなかった人のことで、
私たちの生活の中にはそういう人がたくさんいると思う。
だれか特定の人の事ではなくて架空のキャラクターなんだけど、誰かを「Lavatory Lil」と呼ぶのが気に入ったんだ。これは
ジョンの昔の曲「Polythene Pam」を思い起こさせるもので、
キャラクターについて途中まで仕上がったアイデアを取り出し、その人が何をしているか、どんな人なのかというフィクションを作り上げていくんだ。
Deep Deep Feeling
これはジャムのようなものから出来た曲なんだけど、
ある特定のムード、空っぽな空間が広がっているような
感じのムードにしたかった。いったんそれを作り上げて、
ヴォーカルをかぶせて、この歌が出来上がった。だからいくつ
かのアイデアをくっつけたものが8分間の曲になったんだ。
もっと短くて聞きやすい長さに編集しようと思っていたん
だけど、最後まで聴いてみたらとても気に入ったから、
8分間のままにしたよ。
Slidin'
「Slidin'」はドイツのデュッセルドルフで演奏していた時の
サウンドチェックのジャムから生まれた。サウンドチェックで
自分のギターをチェックしている時に何かを作ってみるのが
好きで、バンドが参加してくれて、音声担当が僕のギターの音を拾って、それを後にショーで使うことになるんだ。それで僕は
ジャムを始めたんだけど、気に入ったリフが出てきて、それを
発展させていって「これで何かを作らなくちゃ」と思った。
リフとして本当に気に入っていたし、頭の中に残っていたから、バンドと一緒に(2018年のアルバム)『Egypt Station』の
ためにレコーディングしたんだけど、うまくいかなかった。
半分くらい完成した状態で残っていたから、あちこち手を加えて歌詞をつけ、この曲が完成したってわけだ。
私にとっての「Slidin'」は・・オリンピックや冬季オリンピックのときにアナウンサーが「sliding」と言っているのを耳にする。彼らは「sliding」という言葉を言い続けているけど、それは
スノーボードやスキー、トボガンで滑ることを意味していた。
だから私はこうした競技すべてを指す名前としてとても優れて
いると思い、スノーボードやスキーの選手たちのことを
考え始めて、それがこの「Slidin'」という曲になったんだ。
The Kiss of Venus
友人が小さくてヒッピーな本をくれたんだけど、それは魅力的な本で、惑星や地球、金星、火星、月の動きについて書かれて
いる。その中には、時間をかけてすべての軌道を見てみると、
本当に魅力的なパターンが描かれていて、蓮の花のようなものもあって、なんだかすごい、魔法のような感じがするんだ。私は
この本に夢中になって、曲を作り始めていた時に読んでいた。
アイデアをこの本の中で探していたら、「ヴィーナスのキス」
というフレーズがあって、これは地球が金星に最も接近する時のことをヴィーナスのキスという、意味だったんだ。私は
「よし、これは歌のための素晴らしいアイデアだ」と思ったよ。
Seize The Day
農場の家でピアノを弾きながら書き始めた。何についての曲に
なるのかわからないまま言葉がこぼれ出るにまかせていたら、最終的には「Yankee toes and Eskimos can turn to frozen ice」というフレーズにたどり着いたんだ。これは何のことだ?
と思ったんだけど、歌詞はあまり深く考えすぎないほうがいい。だからすごい意味があるというよりも、ちょっとシュールな感じになってしまうんだ。とにかく、それがとても寒い日のことを
歌ったコーラスのところにつながって、「寒い季節になったら、その日を楽しもう」ということを思いついて、「carpe diem」(※訳注)の英語にあたる「Seize The Day」という歌に
なったんだ。
※訳注:ローマの詩人ホラティウスの詩に登場する語句。
「一日の花を摘め」の意味。
Deep Down
あれはただのジャムだったんだ。気に入ったビートとコードが
あったけど、大したアイデアはなかった。でも「深いところへ、深いところに潜りたい」という言葉がアイデアとしてあったんだ。君と深い関係を持ちたいとか、そういうこと以外は自分でも「deep down」が何を意味するかよくわからなかったから、
ただひたすらそれを続けていた。曲によっては、自分がどこに
向かって作っているのかよくわからないこともあるものだよ。
途中までのアイデアしかなくて、ただただグルーヴを楽しんで
いるだけで、これもそんな曲の一つだった。作っているうちに
アイデアが浮かんできたんだ。
Winter Bird/When Winter Comes
「Winter Bird」が目的でスタジオに入り、まず最初に短編映画のオープニングタイトルを少しやって、それからエンドタイトル、クレジット、そしてもう一つの小さなインストゥルメンタル曲をやっていたんだ。これがとても気に入ったので、1分に満たない長さの映画音楽を完成させた後、「よし、このまま続けよう」と思って同じアイデアでジャムを始め、それを長くして
いってギターとドラムとベースを乗せてみたんだ。
とにかく映画用の小品から始まってこれを引き延ばしていったんだ。そしてこれを「Winter Bird」と呼んでいたんだけど、
その映画は「When Winter Comes」という曲についての
短編アニメーション映画のために作られたものだったから、
これで全部が一周したことになる。だから、アルバムの最初から最後までやってきて、全体の始まりとなった曲があって、
それが「When Winter Comes」なんだ。
この曲は、農場でのヒッピーのような生き方 - 木を植えたり、
フェンスを修理したりと、穏やかな生活を送っている様子 -
を理想的に表現したものだ。つまり、僕は自然が好きだし、
腰を下ろして泥作業をするみたいなことが好きで、この曲は
そういう生活についての曲だし、アルバムの最後のトラックに
なったんだ。
( 23rd December 2020 Paul McCartney: read the exclusive track-by-track story of‘McCartney III’ )