先週(2017/09/06)、弁理士会から「特許制度・実用新案制度に関するアンケートのお願い」と題するメールが会員各位宛てに送信された。


 それによると、
「 特許委員会では、日本の特許制度・実用新案制度における出願件数増加への動機づけとなる制度の適正化を検討しております。
 その一環として、制度改正に対するユーザーニーズ等を正確に把握すべく、会員各位の皆様に対し、アンケートを行うことになりました。」

 

 メールには、「アンケート本文ページ」に参考となる図が掲載されているので、アンケートの回答に際し、参考にするようにとのアドバイスがあった。

 

 「アンケート本文ページ」を開いてみると、
 「特許委員会では、特許制度・実用新案制度のグローバル化に向けて各国制度を日本の制度と比較し、日本の制度における望ましい改正の方向性を検討しております。特に、昨今、日本で出願数が減少し(図1参照)、その原因が制度そのものにもあるのではないかと考え調査しております。出願人に対する出願件数増加への動機づけとなる制度の適正化(出願人の保護と第三者による利用とのバランスの適正化)が図れれば、日本の産業の発達、国内外の企業の事業活性化、日本特許庁のハブ特許庁化の推進をも図れるのではないかと考えております。」

 

 

 本アンケートをきっかけに特許出願及び実用新案登録出願件数の減少原因を探ることにした。

 

 まず、特許出願及び実用新案登録出願件数の推移を調べてみた。


 2017年度の特許行政年次報告書ダイジェストには2007-2016年での特許出願件数の推移及び実用新案登録出願件数の推移を示す棒グラフが掲載されていた。 https://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/nenji/nenpou2017/honpen/0004.pdf

 


 

 

 2007年以前についても調べてみた。

 中小企業のための実用新案制度活用のてびき 平成28年10月 東京都知的財産総合センター には「特許・実用新案の出願件数の推移1980-2013年」を示す折れ線グラフが掲載されていた。

  https://www.tokyo-kosha.or.jp/chizai/manual/jitsushin/jitsushin.pdf

 

 

 

 

 次いで、上記「アンケート本文ページ」で出願件数の減少の原因を制度そのものにあると、指摘した点について検証してみた。

 

 実用新案制度につては、制度そのものも出願減少の一因にあるとしたことについてはあえて否定しないが、特許制度については、疑問であった。


 そこで景気(実質GDP)との関係はどうなのか。

 景気が悪化すれば、まずやるのが経費の見直し。

 経費には知財関連費用も含まれているので、経費削減に伴って知財関連費用も減額されて特許・実用新案の出願件数が減少することは容易に想像出来る。

 

 1980-2016年における実質GDPの推移、および特許出願件数、実用新案登録出願件数及び総R&D費の推移を調べてみた。

 

 実質GDPの推移(1980-2016年) 世界経済のネタ帳から
 http://ecodb.net/exec/trans_country.php?type=WEO&d=NGDP_R&c1=JP&s=&e=

 

 

 特許出願件数、実用新案登録出願件数及び総R&D費の推移 特許行政年次報告書2017年度版から https://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/nenji/nenpou2017/honpen/0102.pdf

 

 

 

 実質GDPと総R&D費の推移をみると、実質GDPの増加に伴い総R&D費が増加していることがうかがえる。両者には相関関係があるようにみえる。

 

 1980年から2000年頃までは実質GDP、総R&D費及び特許出願件数は共に増加傾向にあった。


 しかし、2000年過ぎころからは実質GDPと総R&D費が増加傾向にあるものの特許出願件数は横ばいか減少傾向にあった。


 そして、リーマンショック(2008年9月15日)後は実質GDP、総R&D費及び特許出願件数は減少するものの、実質GDP及び総R&D費は直ぐに回復して上昇に転じたが、特許出願件数は減り続けている。

 

 そうすると、リーマンショック以後、景気(総R&D費)と特許出願件数との間に何等の相関関係を見出すことが出来ないようだ。


 そこで、近年の特許法の改正をチェックした。


 2006年(平成18年)には、分割出願制度の見直し、輸出が発明の実施の一形態として明記等、
 2008年(平成20年)には、通常実施権等登録制度の見直し、特許・商標関係料金の引き下げ等、
 2011年(平成23年)には、通常実施権等の対抗制度の見直し、冒認出願等に係る救済措置の整備 、 特許料等の減免に係る関係法令の見直し等、
 2014年(平成26年)には、特許異議の申立て制度の創設等、
 2015年(平成27年)には、職務発明制度の見直し、特許料等の改定等があった。

 

 しかし、出願を抑制するような改正は特になく、言い過ぎかもしれないが出願を奨励するような動きがみられる。

 

 景気、制度ではなく、何が原因。


 そういえば、特許公報、公開公報を介して技術情報流出につながることがあるので、無闇矢鱈に特許出願をすべきではないと、盛んにいわれたことがあった。


 2013/8/30発行の単行本「もうひとつのチャイナリスク: ─知財大国中国の恐るべき国家戦略─ 」第4章 金をかけずに知財を得る 日本の特許情報は宝の山 にも、「中国は知財そのものの取引や製品開発のため、あるいは特許攻撃をするために、優れた知財データベースである日本の特許情報を最大限に活用しているのだ。」の記述がある。

 

 

 


 では、特許出願をしないで発明をどう保護するのか。


 営業秘密で保護。


 発明を営業秘密で保護するようになったので、特許出願の件数が減ったということか?


 そもそも営業秘密の件数なんか公表されていないので、特許出願件数の減少分が営業秘密に移ったとは、言い難い。

 

 結局、特許出願減少の原因は不明。

 

 

 

 では、実用新案登録出願の減少の原因は?

 

 実用新案については、上記特許・実用新案出願件数の推移1980-2013年のグラフからわかるように、1980年(昭和55年)頃は特許とほぼ同数の出願がなされていたが、1989年頃から減少に転じ、1994年に無審査登録制度である新実用新案制度に移行して以降、激減した。


 そして、2005年4月、改正実用新案制度が施行され、改正実用新案制度の下で一時的に出願件数が回復するも(2005年に前年比約40%増の11,386件)、2006年以降減少し続けている。

 

 改正実用新案制度が影響しているようにみえるが、どうなんだ。

 

 上記「アンケート本文ページ」でも言及(提案?)しているが、同一発明について特許と実用新案との出願及び審査が併存できる中国・ドイツの制度のようなインパクトのある制度改革が必要ではないのか。

 

 実用新案の出願件数を増やすには、例えば、中国のように、同一発明について同日出願した特許と実用新案の審査の併存が許容される特実併願制度、あるいはドイツのように、特許から分岐して同一発明の実用新案を後から出願できる分岐出願制度を検討すべき時期なのかもしれない。

 

 安易な実用新案制度廃止論は止めたほうがいい。

 

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