特許庁ホームページの更新情報欄に 「2012.8.27産業財産権制度各国比較調査研究報告書についてを更新しました。 24年度研究テーマ一覧(1)を掲載しました。」との告知があった。


 これによると、平成24年度産業財産権制度各国比較調査研究等事業の「視覚で認識することができない新しいタイプの商標に関する各国の制度・運用についての調査研究報告書 平成24 年6 月」が公開されており、近い将来(商標法の改正があったとき)役に立つのではと思い、備忘録としてブログにした。


 なお、調査研究報告書は下記URLから入手することが出来る。
 
http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/shiryou/toushin/chousa/zaisanken_kouhyou.htm


 「はじめに」の箇所に以下の記述があり、いきなり報告書に入るのではなく、その前に読んでおくことをすすめる。

「 我が国企業の商業活動がグローバルな展開を拡大しつつある状況において、自己の商品・サービスのブランドを明確にし、他者商品との識別性を高める商標の重要性も拡大し、その形態も多様化してきている。すなわち、従来の文字、図形等の通常商標に加えて、 色彩、音、におい、動き、位置、ホログラム、トレードドレス、触感、味等を利用した新しいタイプの商標 が国際的に利用されるようになり、欧米等諸外国において既に商標法による保護対象とされている。

 さらに、近年欧米を中心に活発化している自由貿易交渉において、知的財産権保護強化の一環として、 「音、におい」 などの視覚で認識することができない新しいタイプの商標の保護に関する議論が頻発 しており、直近では、韓国が米国とのFTA締結を機に、音やにおいの商標を保護対象とするために商標法を改正したところである。
 これら新しいタイプの商標について、我が国は現状、商標法の保護対象としていないが、上記国内外の状況の急速な変化を考慮し、国際的調和の観点を踏まえた新しいタイプの商標保護制度の設計、運用を速やかに検討する必要がある。」



 上記調査研究報告書の「各国の法制度・運用、出願・審査・登録手続及び審査手法の概要」の箇所で、ドイツ、イギリス、オーストラリア、シンガポール、台湾等の各国における「商標の定義」が掲載されているが、「視覚で認識することができない新しいタイプの商標」について、どのように捉えているかを知る上で非常に参考になる。

 ドイツ
 商標法第3条「商標として保護することができる標識」において「(1)如何なる標識も、特に個人名を含む語、図案、文字、数字、音標識、商品若しくはその包装、その他梱包の形状を含む立体形状、色彩及び色彩の組み合わせを含むものであって、ある事業に係る商品又はサービスを他の事業に係る商品又はサービスから識別することができるものは、商標として保護することができる」と規定され、第8 条「絶対的拒絶理由」において「(1)第3 条に規定する商標として保護を受けることのできる標識であっても、 写実的に表現することができないものは登録されない ものとする」と規定されている。
 すなわち、ドイツは通常商標と新しいタイプの商標とに分けて定義されておらず、①商品又はサービスを他の事業に係る商品又はサービスから識別することができるもの、及び② 写実的に表現できるもの が商標として登録可能である。



 イギリス
 商標法第1 条において、商標とは「 写実的に表現されるすべての標識 であって、ある事業の商品又はサービスを他の商品又はサービスから識別することができるもの」と定義されている。
 すなわち、イギリスでは通常商標と新しいタイプの商標とに分けて定義されておらず、いずれも① 写実的に表現できるもの 、及び②ある事業の商品又はサービスを他の商品又はサービスから識別することができるもの(識別性を有する)、が商標として登録可能である。


 オーストラリア
 商標法第17 条において「商標とは、ある者が業として取引又は提供する商品又はサービスを、他人が業として取引又は提供する商品又はサービスから識別するために使用する、または使用予定の標識である。」と定義し、同法第40 条において「商標登録出願は、その商標が 写実的に表現すること ができないものである場合は、拒絶しなければならない」と定義されている。


 シンガポール
 商標法第2 条(1)において、商標とは「 写実的な表現によって明瞭に表示できる標識 であって、ある者が取引において取り扱い又は提供する商品またはサービスと、他人が取引において取り扱い又は提供する商品又はサービスとを識別することができるものをいう」と定義されている。


 台湾
 商標法第18条において「商標とは、識別性を具えた標識で、文字や図形、記号、色彩、立体形状、動態、ホログラム、音など、又はその結合によって構成するものをいう。前項でいう識別性とは、商品又は役務の関連消費者に、指定商品又は役務の供給元を認識させ、他人の商品又は役務と区別できるものをいう。」と定義されており、また、同法第19条では「商標登録の出願には、出願人、商標図案及び使用する指定商品又は役務を明記した願書を備えて、商標受理官庁にこれを出願しなければならない。」と規定されている。
すなわち、台湾では他人の商品又は役務と区別できるものが商標として登録可能であり、 この点において通常商標および新しいタイプの商標とで違いはない。




 また、上記調査研究報告書の「商標の特定方法と権利範囲」の項目では、「視覚で認識することができない新しいタイプの商標」について、これをどのようにして特定し、権利範囲を画定しているかが、示されており、これらを知る上で非常に参考になる。


 ドイツ
 商標法第8条「絶対的拒絶理由」において「(1)第3 条に規定する商標として保護を受けることのできる標識であっても、写実的に表現すことができないものは、登録されないものとする」と規定している。
 従って、音商標は「見本[楽譜]」、色彩商標は「色見本」(色彩の「電子データ」が添付されているときはそれも写実的表現の一部を構成する)が「写実的表現」に該当し、これらが権利範囲を決定づけるものとなる。
 「トレードドレス」、「動き」及び「ホログラム」各商標は、その静止像を最大6図面で示したものが「写実的表現」に該当し、これらが権利範囲を決定づけるものとなる。
 「触感」についても「写実的表現」ができる限り、保護される。一方 「におい」、「味」については写実的表現が不可能なため保護されない。


 イギリス
 商標が、明確・正確・自己充足的・入手容易・理解容易・永続的・客観的である必要がある。そのため商標出願の願書で、色見本やカラーコード、音符等によって上記の要件を満たすような形で商標を特定しなければならない。これがすなわち権利範囲を構成するためである。
 なお「音」の商標に関して、「音声ファイル」は「写実的表現」としての必須要件ではなく、権利範囲の認定においても、参考にされるに過ぎない。


 オーストラリア
 商標法第40条は、「商標登録出願は、その商標が写実的に表現できるものでない場合には、拒絶しなければならない」と規定しており、写実的に表現できることが法律上求められている。従って、新しいタイプの商標の場合、詳細な記述による明瞭な表示と明確な説明によって商標を特定する。


 シンガポール
 シンガポールにおいては、出願商標が新しいタイプの商標である場合、保護を求める標章の写実的表現および詳細な説明は、精密であることを要する。
 なお、出願書類には、以下の追加的記載が必要となる。
 (a) 商標として又は新しいタイプの商標として、三次元形状、パッケージの外観、色彩の保護を求めている旨の記載(この記載は必須である)。
 (b) 権利を要求している特徴に関する詳細な説明


 台湾
 写実的に表現された商標の表示(商標図案)と当該商標図案を補完するための「見本」(音声ファイル、動画ファイル)及び/又は説明が必要である。
 また、願書には、商標が新しいタイプの商標(色彩、音、動き、位置、ホログラム)である旨の記述を含める必要がある。