引用例及び周知例のいずれにも本件発明の着眼が記載されておらず, 又は示唆されてもいない上,本件発明の 着眼が新規 であることに照らすと,引用発明に周知例に記載された個別的かつ断片的な技術を組み合わせる動機がそもそも存在せず,これらを組み合わせても,相違点に係る構成には至らないとして,引用例に基づいて相違点に係る本件発明の構成が容易に想到できたものということはできないとされた事例を紹介する。


 平成24年7月25日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
 平成23年(行ケ)第10371号 審決取消請求事件
 口頭弁論終結日 平成24年7月4日
 
http://www.ip.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120813161602.pdf

 知的財産高等裁判所第4部 裁判長裁判官 髙部眞規子 氏


 本件発明の容易想到性を「発明の着眼」という観点から捉えて判断としている点で興味を引いたからである。


 本判決によると、
 「引用例及び周知例等のいずれにも, 「除去することを前提としたコンクリート護岸を有効活用するという本件発明の着眼」 が記載されておらず,又は示唆されてもいない。そして,本件発明の上記着眼が新規であることに照らすと,引用発明に周知例等に記載された個別的かつ断片的な技術を組み合わせる動機がそもそも存在しない。また,これらを組み合わせても,本件審決が相違点として認定した鋼管杭列の構築手段,すなわち,「切削用鋼管杭をコンクリート護岸を打ち抜いて圧入して鋼管杭列を構築し,この鋼管杭列から反力を得ながら,上記鋼管杭列に連続して上記切削用鋼管杭を回転圧入」という構成には至らない。
 よって, 引用例に基づいて相違点に係る本件発明の構成が容易に想到できたものということはできない。」 と、している。


 発明の容易想到性について、「解決課題の設定・着眼」に注目して判断した他の事例としては、例えば、
 平成23年1月31日判決言渡
 平成22年(行ケ)第10075号審決取消請求事件
 口頭弁論終結日平成22年11月30日
 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官 飯村敏明 氏
 
http://www.ip.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110131153408.pdf
がある。


 本判決において、「容易想到性判断と発明における解決課題」と題して、容易想到性の判断手法について、以下のように述べている。これは非常に参考になると思う。


 「当該発明について,当業者が特許法29条1項各号に該当する発明(以下「引用発明」という。)に基づいて容易に発明をすることができたか否かを判断するに当たっては,従来技術における当該発明に最も近似する発明(「主たる引用発明」)から出発して,これに,主たる引用発明以外の引用発明(「従たる引用発明」)及び技術常識等を総合的に考慮して,当業者において,当該発明における,主たる引用発明と相違する構成(当該発明の特徴的部分)に到達することが容易であったか否かによって判断するのが客観的かつ合理的な手法といえる。当該発明における,主たる引用例と相違する構成(当該発明の構成上の特徴)は,従来技術では解決できなかった課題を解決するために,新たな技術的構成を付加ないし変更するものであるから,容易想到性の有無の判断するに当たっては,当該発明が目的とした解決課題(作用・効果等)を的確に把握した上で,それとの関係で「解決課題の設定が容易であったか」及び「課題解決のために特定の構成を採用することが容易であったか否か」を総合的に判断することが必要かつ不可欠となる。上記のとおり,当該発明が容易に想到できたか否かは総合的な判断であるから,当該発明が容易であったとするためには,「課題解決のために特定の構成を採用することが容易であった」ことのみでは十分ではなく,「解決課題の設定が容易であった」ことも必要となる場合がある。すなわち,たとえ「課題解決のために特定の構成を採用することが容易であった」としても,「解決課題の設定・着眼がユニークであった場合」(例えば,一般には着想しない課題を設定した場合等) には,当然には,当該発明が容易想到であるということはできない。ところで,「解決課題の設定が容易であったこと」についての判断は,着想それ自体の容易性が対象とされるため,事後的・主観的な判断が入りやすいことから,そのような判断を防止するためにも,証拠に基づいた論理的な説明が不可欠となる。また,その前提として,当該発明が目的とした解決課題を正確に把握することは,当該発明の容易想到性の結論を導く上で,とりわけ重要であることはいうまでもない。」