弁理士会研修 「侵害訴訟に強い明細書等」 その12である。


 用語の意義等に関する例(「近傍」の用語との関係)として小松先生が挙げた事件、溶剤等の攪拌・脱泡方法事件(知財高裁 平成21年(行ケ)第10329号 審決取消請求事件 裁判長裁判官 中野哲弘)である。


 本事件は、発明の名称を「溶剤等の攪拌・脱泡方法とその装置」とする特許発明についての無効審判請求において, 訂正後の請求項1及び2が引用例との関係で進歩性を有するとした審決が取り消された事例である。
 
 争点は,①訂正後の(新)請求項2が明確か(特許法36条6項2号),②訂正後の請求項1及び2が下記引用例との関係で進歩性を有するか(同法29条2項)で、本ブログでは用語「近傍」が問題となった争点①について説明する。


 争点の対象である訂正後の(新)請求項2は以下の通りである。

 「溶剤等を収納する容器と,該容器の上端部が公転中心側に向かって傾くようにして該容器を端側にて支持するアーム体と,伝達手段を介して容器及びアーム体を回転するための駆動源とを備えた溶剤等の攪拌・脱泡装置において,装置本体には,少なくとも容器内を真空状態にするための真空手段と,容器に収納された溶剤等の温度を検知すべく,容器の上端部の近傍に設けられる検知手段とが設けられていることを特徴とする溶剤等の撹拌・脱泡装置。」


 争点の内容

 「容器の上端部の近傍」中の「近傍」について、その範囲を更に数値により限定して具体的に特定しなければ,本件訂正発明2発明が有する上記技術的意義との関係において,課題を達成するための構成が不明瞭となるか否か。


 争点①(近傍)についての裁判所の判断
 本件訂正発明2では,その設置位置として「容器の上端部の近傍」と特定されているところ,近傍という言葉自体は,「近所,近辺」(岩波書店刊,広辞苑第6 版)と一般に理解されており,また,多数の特許請求の範囲の記載で使用されている技術的用語であること(乙5の1 及び2)を考慮すると「近傍」の範囲を更に数値により限定して具体的に特定しなければ,本件訂正発明2発明が有する上記技術的意義との関係において,課題を達成するための構成が不明瞭となるものではない。


 したがって,本件訂正発明2における「容器の上端部の近傍」について,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)は,「容器の上端部」の「近辺」と認識し,かつ,「検知手段」が「容器に収納された溶剤等の温度」を検知できる範囲を指示するものと理解することができるから,これと同旨の審決の上記判断に誤りはなく,原告の上記主張を採用することはできない。


 小松先生によると、後智恵的ではあるが、「容器の上端部の近傍」について、その内容を、明細書の詳細な説明の欄で書いておくべきだったのではと、指摘していた。


 しかし、書き方によっては特許発明の技術的範囲を狭く解釈されるおそれはないのかとの疑問があるけれど。

 どうだろう。


 ちなみに、電子図書館で、公開特許公報、特許公報、公開実用新案公報、実用新案公報中の請求の範囲で 用語「近傍」 の使用頻度を検索したところ、 482667件 ヒットした。

 結構良く使われている。