「ジミー」 その3 | 吉祥寺の時計修理工房「マサズパスタイム」店主時計屋マサの脱線ノート
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吉祥寺の時計修理工房「マサズパスタイム」店主時計屋マサの脱線ノート

東京都武蔵野市吉祥寺でアンティーク時計の修理、販売をしています。店内には時計修理工房を併設し、分解掃除のみならず、オリジナル時計製作や部品製作なども行っています。

 

そんな風にして 「ジミーズ オークション」 は会期中の土日に行われ、ガッチリ稼いだ彼は、ブロンド美人とニューヨークに戻って行く。

一体彼は何者だろうか?

「ヤツはニューヨークで会計事務所をやってるって聞いたよ。 頭のいい男だけど、それだけじゃないな。 度胸もあるよ。」
 

時計屋のボブさんはそう言った。

 

確かに時計屋ではないし、かと言ってコレクターでもない。

 

何しろ買った時計は全部その場で売り払ってしまうのだし、、それに落札者に時計を放り投げてよこしたり、売れ残った時計を床に叩きつけて笑いを誘ったりすることもあって、、とても時計自体に興味や愛着があるようには思えなかった。

 

 

商品も持たずにやってきて、たった一日で数千万円を稼ぎ出す。

 

「いいなぁ。」 とか 「クールだな」 なんて言う連中はいるけど、誰も同じことをしようとはしない。
 

数十から数百点のアンティーク時計をガラスケース越しに値踏みするのは至難の技だし、、、それに、万一買い取った時計が思惑通りの値段で売れなければ、大損することもあり得る。
 

度胸がいいのは、確かだろう。

 

 

あれは確か、テキサスのダラスだったか。

 

会合の最終日、それなりの買い付けを終えて一人会場内をフラフラしていたら、背後から誰かに肩を叩かれた。

 

「時計は要るか?」

 

振り返ると、ジミーが立っている。

 

「今回は昨日今日でそれなりに買えたけど、、、出物があるなら買うよ。」

 

私がそういうと、彼はちょっと待ってろと言わんばかりに人差し指を立ててから、空いているテーブルを見つけて、アタッシュケースを置いた。

 

ケースを開けると結構な数の時計が詰め込まれていて、ジミーはそれをポイポイと無造作にテーブルに放り出す。

 

大半はスイス製の腕時計、いくらか懐中時計もあったが、どうやらさほど特別なものは無さそう。

 

まあ値段が合えば、と言った感じか。

 

 

「今回のオークションの残り物だ。 どれも悪い物じゃないけど、全部まとめてくれりゃあ安く譲るよ」

 

「そうか。 オーケー。」

 

しかしルーペを出して時計を見始めると、ジミーはじきに私を急かしだした。

 

「もういいだろ? もうじき空港に行かなきゃならない。 時間がないんだ。 全部まとめて$10000でいいから。」

 

点数からすると悪い値段には思えなかったが、、なにぶんまだロクに品物を見ていない。

 

「 さあ、どうする? どっちにしても早くしてくれ。 買わないなら急いで他を当たるから。」

 

 

この辺のスピード感には、元々かなり違いがある。

 

私が特別にのんびりとしている訳ではなく、というよりむしろ日本人としてはかなりせっかちな方なのだが、、、概してアメリカやヨーロッパの連中は、取引のスピードが早い。

 

一因としては自国のエンドユーザーの性質の違いもあるのだが、、つまり、一般的に日本人のコレクターは品物の状態に細かい注意を払う傾向があるから仕入れに際して相当に細かいチェックが必要になるが、西洋人はかなり大雑把。

 

時には殆ど品物を見ていないんじゃないかというスピードで金を支払ったら時計はポケットに直接捻じ込んで次に行くという感じで、、今でこそ欧米並みのスピード?を誇る私も、当時は 「早く慣れなきゃ」 と常に意識していた。

 

実際、日本の業者がゆっくり慎重に品物のチェックをしていて、後ろから覗き込んでる奴に 「俺が買うよ」 とやられ、頭の上で商談が成立してしまったケースをみていたのだ。

 

 

「$10000 だね。 オーケー。」

 

ウエストポーチから引っ張り出した100ドル札の束を渡すと、そこだけ慎重に確認し終えたジミーは金をアタッシュケースに放り込み、手を差し出してウィンクした。

 

「Good Luck, Masa.  商売になるといいな。」

 

 

「うわっ、やられた!」

 

帰国した私は、完全に頭に血が昇っていた。

 

ジミーから買った一まとめの時計を改めてチェックすると、、これもダメ、あれもダメ。

 

出てくるは出てくるは、、壊滅的な状態の時計や、偽物、改造品の山。

 

まともな品物はほんの一握りで、、中にはムーブメントが入っていない空っぽのケースにコルクが詰めてあり、そのコルクに文字盤や針が糊でくっつけてある時計なんてのもあった(笑)

 

「妙に急がせるなーと思ったら、やっぱり。 くそ―、、ジミーの野郎、、。」

 

 

しかしこれは、後の祭り。

 

そもそもプロ同士の取引きは完全な自己責任だから、自分で見て買った以上、それがどんなに酷い品物であっても後になって文句は言いッこなしが掟。

 

要は、判らないヤツが悪い。

 

仮に次回の会合で奴に文句を言えば、それは 「素人まがい」 「面倒なやつ」 ということで周りの業者に伝わり、、少なくとも 「とっておきの時計」 を優先して私に見せたりするヤツはいなくなるのだ。

 

ジミーはそれを充分に知っていて、後々面倒のない、極東から来るようになった新入りの私をターゲットにしたのだろう、、。

 

そういう意味では、確かに 「頭のいい男」 か、、。

 

 

部品取り用のジャンクBOX行きとなった 「ジミー'S コレクション」 

 

大半は部品を使ったり新人の練習に使ったりで、見るも無残にバラバラになった。

 

あれは甘ちゃんだった私への試練なのか、素人まがいがプロになるための授業料と言うべきか、。

 

 

アメリカに行かなくなった私は、もうジミーに会うことはないだろう。

 

今でも部品探しで引き出しを開けるとヤツを思い出すことがあるけど、不思議と恨みの気持ちは消えた。

 

時間は、全てを癒してゆく。

 

私より少し上くらいの感じだったから、ヤツも今頃は還暦のオッサンかな?

 

あの目の覚めるようなブロンド美人も、もう結構なオバサンか、、。

 

苦々しかったあの日の記憶は、そんな風に優しいセピア色の一ページに変わっているのだ。

 

 

 

(終わり)

 


 

 

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