「転ばぬ先の杖」 | 吉祥寺の時計修理工房「マサズパスタイム」店主時計屋マサの脱線ノート

吉祥寺の時計修理工房「マサズパスタイム」店主時計屋マサの脱線ノート

東京都武蔵野市吉祥寺でアンティーク時計の修理、販売をしています。店内には時計修理工房を併設し、分解掃除のみならず、オリジナル時計製作や部品製作なども行っています。

 

先月、全く予期せぬ失敗をした。

 

昨年末にご注文頂いたその時計の修復が完了し、納品の運びとなったのは年明けの一月中旬。

 

部品点数の多い複雑な時計だし注文主は遠方の方だったから、普段以上にしつこく手を入れ、時間を掛けて調子を見た。

 

精度試験の結果も、まさに文句なし。

 

でもそれが、、、納品の翌日に 「止まった」 のだ。

 

 

持ち帰ったその時計が翌日の朝に止まったままになっている、との電話を受けた時には、一瞬耳を疑った。

 

何故?

 

前日の夕方、時計はゼンマイを一杯に巻き上げた状態でお渡ししているから、ありがちな 「ゼンマイの巻き忘れ」 はない。

 

ゼンマイはいくらか巻けたがじきに巻き終わる、揺するといくらか動いてまた直ぐに止まる、リピーターは作動して鐘は鳴らす、電話口で様々な作動状況の情報をいただくが、、、今一つ原因究明の決め手に欠けた。

 

おかしいな、、なんだろう?

 

その晩は、珍しく寝付けなかった。

 

 

翌日、返送いただいた時計の梱包を解くと、確かに時計はガッチリ止まったまま。

 

起こり得る故障の原因を一つずつ消し込んでいった先に辿り着いたのは、、ある部品にかしめ付けられた髪の毛の先ほどのピンの緩み。

 

本来部品の上側にそそり立った造りになっているそのピンが僅かに緩み、下側に飛び出した部分が他の部品に干渉して悪さをしていた。

 

 

構造上、起こり得ると言えば、起こり得る現象。

 

部品を組み付けていく際には全く問題がなかったし、実際、2週間以上続けた動作試験中に問題は起こらなかったが、、、おそらくその間に少しづつピンは揺れ始め、ちょうど納品のタイミングで事故が起きたのだろう。

 

しかしそれは、私がこれまで長年同じ類の時計をいじってきて一度も経験したことのない不具合だったから、かなりショックを受けた。

 

 

新しいピンを作り、念入り部品にかしめ付けて、動作は正常化した。

 

念の為、全ての部品の状態を総ざらいで再確認し、組立て完成。

 

そうしているうち、今更ながら、改めて気が付いた。、

 

「今まで問題なかった」を、あてにしてはならない。

 

「30年間一度も起こらなかったこと」は、「これからも起こらないこと」 ではない。

 

つまり成功体験だけを元に物事を判断すると、思わぬところで罠にはまるということだ。

 


話しは逸れるが、10年ほど前に目にした、とある著名な釣り人の言葉に 「釣れた魚を基準にするな」 というのがあった。。

 

その時は、何を訳の分からんこと言ってんのかなー、と思って読み流したが、、。

 

これも今になってようやく、自分の中で意味を成したのだ。

 

その言葉には、確かこんな感じの続きがあったと思う。

 

釣り人はちょっと釣りが上手になると、とかく 「大物を釣った」 と満足しがちだが、、釣れた魚のそばには、釣れなかったもっと大きな魚がいたはずだ。

 

10キロの大物が釣れたからといってその方法が一番だと決めて掛かると上達がなくなるし、将来、大きな失敗をする。

 

そう思い込んで満足する前に、なぜもっと大きな魚は食いつかなかったのかを考えろ、と。

 

 

人間は、自分の体験を元に物事を判断する動物だ。

 

失敗して痛い思いをすると、同じ思いをしないように、と身に沁みる。

 

そして失敗したその方法は間違っていたのだとはっきり納得して、より良い方法を見つけ出す。

 

だから、「失敗は成功の元」 なのだ。

 

 

怖いのは、うまくいった体験、もしくは、うまくいったと思い込んでいる 「成功体験] の方なのだ。

 

これでうまくいったのだから間違いない、と安心しきっているから、予想外の大失敗をする可能性がある。

 

一般的に言えば、長年無事故できたドライバーが晩年になって取り返しのつかない大事故を起こしたり、といったような、。

 

さしずめ時計屋の場合だと、長年慣れ親しんだ方法で、顧客が大切にしている形見の時計の文字盤をめちゃめちゃに傷つけてしまったり、といったような感じか。

 

いずれにせよ、それがあまりに深刻な失敗の場合は、もはやそれを 「成功の元」 などと言っていられなくなるから、本当に怖い。

 

 

これまでの30年間、うちの誰もが大きな事故を起こさずに済んでいることには、素直に感謝したい。

 

でも今回予想外の失敗をやらかした私は、仕事に対する方法や作法を、今一度見直してみようと思っている。

 

まだまだ道は遠く、果てしない。

 

パスタイムには、今こそ「転ばぬ先の杖」 が必要なのだ。 

 

 

 

 

 

 

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